AWC ADC殺人事件(2)   完狂堂


        
#4879/7701 連載
★タイトル (MEH     )  97/ 1/16  23:30  (200)
ADC殺人事件(2)   完狂堂
★内容
 その日の夜。
 美濃月有栖が、驚嘆すべきニュースを持って「ADC」会議室に飛び込んできた。
恐れていた事態が、我々の身に襲いかかってきたのだ。連続殺人事件第一の犠牲者
は、踏場綸太郎であった。

「た、たたた、大変なことになりました!大事件ですよ!」
「どうしたんです?……まさか」私の質問に対し、美濃月氏は、青い顔をして答え
た。
「踏場さんが……踏場さんが、殺されてしまったんです!」
「こ、殺された?」
 私は頭の中が、からっぽになった。それからは、蜂の巣をつついたような大騒ぎ
だ。美濃月氏が得た情報によると、踏場氏が毎日愛飲しているワインに、毒物が混入
されていたという。「A.F」の仕業だろうか。
「まさか……そんな事が。踏場さんが殺されるだなんて!」
「警察がいま、現場検証しているそうです」「信じたくない事だが、「A.F」の仕
業と考えて良いだろう」中山氏がけわしい顔つきでつぶやく。
「どうしましょうか。警察に駆け込みましょうか」
「……け、警察に?」私は少々肝を冷やした。
「ああ、そうだな。警察で保護してもらった方がいいかな」
「ちょっと!ちょっと、待って下さいよ!」
 私は、思わず叫んでしまった。
「警察に行くだなんて、冗談じゃありません。そんな事をしたら、アマチュア探偵の
名がすたります!この事件、解決しましょうよ」
「へえ、胡桃さんがそんな事を言うなんて、意外ですね」
「……でも……警察に飛び込んで保護を求める方が、安全ですよ?」美濃月氏は不安
そうな面もちで言った。
「あ、ああ、そうだが、ここで警察に飛び込んだら、一生後悔するんだ!」
「なるほど、胡桃さん。中山さんも完狂堂さんも、今の段階ではまだ、警察に駆け込
むつもりはないんですか?」
「うん……そうだね、今駆けこんだって、犯人を特定出来ないしね」
「……私は、今すぐにでも警察に行きたいところだけど……まあ、良いでしょう。も
う少しおつきあいしましょう。でも、身の回りには十分注意してくださいね、みなさ
ん!」
「わかった。美濃月さんも気をつけて下さいね」
「はい、気をつけます……では、これからいくつか、胡桃さんに聞いておきたい事が
あります」美濃月氏は、私に向かって言った。ほかの二人は、黙って話を聞いてい
る。
「話すことは特にないけどな?」
「胡桃さんにメールを送付してきたということは、「A.F」は、胡桃さんの知り合
いなんでしょう?」
「どうかなあ?知り合いかどうか、まだハッキリしないよ。私の周囲でパソコン通信
に詳しい人は、少ないからね。でも、特別に恨まれることはしていない……うん」
「思い当たる人物、容疑者はいませんか」
「いる」
「どういったご関係ですか」
「……清田といって、こいつがまず頭に浮かぶ。学生時代の友人なんだが……ええと
……膨大な借金をかかえて、保証人になってくれと、かけ込んできた。断ったら、偉
い剣幕で怒り狂ってね」
「ふうん。清田氏はどちらに在住で?」
「知らない!」
「何でも良いんです。清田氏について、知っている事を教えてください」
「そうだねえ……とんでもないやつだったよ。学生時代のマドンナ、橋場由嘉里を、
奪ったんだ。みんな奴を恨んだものさ」
「橋場由嘉里?」
「あまり話したくないことだ。想像におまかせするよ」
「うーん、それだけじゃ、犯人と特定する事は出来ませんねえ」
「……あれっ!?美濃月さん!うしろ」
 モニターは、美濃月氏の後ろに不審な人影を映し出していた。解像度が低いため、
良く見えない。手には何か、凶器を持っているらしい。その人影は美濃月氏の後ろに
そっと忍び寄り……ああっ、何という事だろう!
「え、なに?」と彼女が振り向いた瞬間、人影はギラギラと輝く鋭利な刃物を、彼女
の脳天に降りおろしてしまった!

 斧!
 あれは、斧だ!
 私は、恐怖のため総毛立った。
「み、美濃月さん!」その場にいあわせた全員が、絶叫した。
「ザクッ」という音とともに、美濃月有栖の脳しょうが飛び散った。鮮血がドクドク
と流れていき、彼女が絶命する瞬間を、我々はなすすべもなく見つめていた。
「ザクッ、ザクッ」人影は、何度も何度も彼女の脳天に斧を降りおろし、ぞっとする
ような音がスピーカーから聞こえてくる!部屋中血塗れになっているではないか…
…。人影がモニターに向かって斧を投げつけると、何かが壊れる音とともに、回線は
途絶えた。

 沈黙が長く続いた。

 みな、気が動転しているようだ。たった今、目前で何が起こったのか、にわかに理
解出来なかった。みな、沈黙を守っている。これで二人目の犠牲者が出たわけだ。
 次は誰の番だろう?
「今、我々が見たものをどう思う?」
「解像度が低くて、僕には良く見えなかった。しかし明らかに美濃月さんは、誰かに
殺されたようだね!」
「男か女か?わからない!私には、マスクをかぶっている男のように見えた。スロー
モーションにして再生してみよう……。チクショウ、駄目だ。やっぱり良く見えな
い!」
「警察を呼ぼう!踏場さんは北海道在住、美濃月さんは千葉在住だ。こんなに離れた
距離での連続殺人って、あるんだろうか?少なくとも、我々にはアリバイがある……
と言うことは犯人は「ADC」以外の人間だ」
「組織的な犯罪かも知れない。そうだとすると、いよいよお手上げだ。アマチュア探
偵の出る幕ではないよ。さて……どうしますかね?胡桃さん、中山さん。我々は、命
を狙われている!まだ誰にも相談しないでおきますか?一刻も早くボディガードを依
頼しておく方が、良いでしょう」沈痛な面もちで、完狂堂氏は言った。
「私としては……うん、そうだな。もう少し頑張りたい。知人が、犯人かもしれない
となると……せめて、犯人を特定したい」私はそう答えた。緊張のためか、掌がじっ
とりと汗ばんでいる。
「犯人が特定出来れば、私にだって対処方法がある。図々しいお願いかもしれない
が、出来れば、みなさんの知恵を少々貸してもらいたく思う」
「良いでしょう!それじゃ、話してもらおうかな。……ええと。まだ、清田という人
物の話を聞いていなかったな」中山氏は、美濃月氏の突然の死にショックを隠せない
でいる。
「清田は学生時代の友人でね」
「ふうん」
「最後に会った時は、ひどいもんだった。実を言うと、彼は気がふれてしまったよう
なんだな。私は何度も脅迫された。「殺してやる!」って電話を何度受けた事か」
「へえ。脅迫ですか。そいつは興味深い」
「被害妄想ってやつだね。彼は何かにひどくおびえて、ビクビクしていた」
「ふむ、ふむ」
「でもね。ここで一応お断りしておくけど、清田はもう、この世にはいないんだ」
「ええっ?」
「死んでるって事かい?」
「死者が人を殺せるわけがないですよ、胡桃さん」
「いや、詳しい事は知らない。ええと……そう。風の噂で聞いたんだ。家族や関係者
は、まだ生きている。確認していないから、明日にでも調べてみるけどさ。だから私
が思うに、関係者のうち誰かが「A.F」なんだろうと推測する」
「……ふうん。……関係者……ねえ」
「今日は疲れた。続きは明日にしてほしい。これでも、ショックを受けているんだ
よ。気が小さいものでね……」
「誰だってショックを受けますよ。目の前で殺人事件が発生したんだから!」
「明日の同時刻、会議室に寄って下さい。今夜は徹夜だな!頭を整理してから、もう
一度出直して来ます」
「わかりました、胡桃さん。くれぐれもお気をつけて!」
「それでは失礼します」

 翌日。メールボックスをチェックしてみると、再び「A.F」から、殺人予告メー
ルが送信されていた。私は恐怖に震えた。内容は、以下に示すようなものであった。

メール(2):「哀れな 犠牲者は あとを たたない あなたの まわりで みん
な 死んでいく 人は みな 死すべき 運命 次は あなたの 番 かも しれな
い 私は 死を 見つめつつ おいしい 酒を 飲む A.F」

 恐怖心にうちひしがれながら、私は、いろいろと走り書きしてあるメモ帳を取り出
し、しばらくの間眺めていた。メモ帳には、私が思いつく限りのことを書き出してあ
るのだ。
 頭の整理をしなくては。
 私に恨みを持つ男。
 清田道助。
 彼は既にこの世にはいない。
 犯人は清田の関係者であろう。
 道助の妻、由嘉里!
 彼女がこの一連の犯行を思いついたのだろうか。動機が弱い?いや、わかってい
る……。弱くはないのだ。彼女に恨まれるに足る、理由がある。いや、いやいや!そ
んなことはない!恨まれる理由なんか、ないさ!……私にはもう、何がなんだかわか
らなくなってきた。気が狂いそうだ。恨まれる憶えはない。
 「ADC」会議室には、昨日の衝撃を忘れられないでいる三人が集っていた。み
な、やつれたような顔をしている。次は誰が死ぬのか……中山さんか、完狂堂さんか
、私か。
 冗談じゃない!
 まだ、死にたくなんかない。
「完狂堂さんは埼玉でしょう?僕は名古屋だ。美濃月さんは千葉。踏場さんは北海
道。今度犯人が足を運ぶとしたら、埼玉の方が距離的には近いね」
「うん。でも、中山さんだって油断は出来ないよ。胡桃さんは、住所公開はしていな
いようですね。参考までに、どのあたりにお住まいなんですか」
「地方なんだ。九州」
「そうですか、それは遠いな。となると、次に狙われるのは、一番近くにお住まい
の、完狂堂氏だろうか」
「何とも言えないね。再び事件が起こってみない事には。ところで胡桃さん、昨日の
話の続きなんだけど。犯人の目星はついたかな?胡桃さんの知人というセンが、一番
怪しいんだ」開口一番、完狂堂氏が質問した。
「私的怨恨だという気がするんだよね。どす黒い「悪意」を感じるんだ……口ではう
まく説明できないけど」と中山氏。
「ずうっと考えているんだけど、やっぱり身におぼえは……いや、うん。順序立てて
話そう」
 私はやつれはてていた。
 吐き気がする……昨日は一睡も出来なかった。頭が痛い。私は、うなだれながら話
を続けた。
「こんなところで恥をさらしたくはなかったが仕方ない、話す。「A.F」なる人物
に関する、私の推理を聞いてもらいたい。おかしなところがあったら指摘して欲しい
んだ。考えるヒントになるからね」
「わかった」

「清田道助の妻・橋場由嘉里について話そう。彼女とは学生時代、ミステリ研で一緒
になった。頭の切れる人で、様々な密室殺人方法を日夜考えていた。夫の清田と私は
友人関係にあったが、大喧嘩してね……それ以来絶交状態になった」
「ふうん。由嘉里さんは、清田と一緒になったわけだ」
「そういう事。で、その後、彼女は離婚した。私の耳に入ってくるのはイヤな噂ばか
りだったな……。清田のやつ、リストラの犠牲にあってからひどく荒れていたらしい
んだ。彼女に暴力をふるうのが、日常茶飯事だった。私は清田を許せなかったな」
「胡桃さんは、由嘉里さんの事を好きだったんですね?」
「……それはどうかな。私はどちらかと言うと、彼女を憎んでいた。「殺人博士」の
異名をとる私より該博な知識を持っていた彼女をね……。しかし、話を聞いた時は、
哀れんだものだ」
「彼女は今、どこにいるんです?」
「失踪中だ。夫が死んでから」
「彼女が夫を殺した」
「いや!いや、そうは言っていない……いや、しかし状況から考えれば、そうとられ
てもおかしくないか。橋場由嘉里ならやりかねない、とだけ言っておく」
「胡桃さん。あなたの証言にはフィルターがかかっている。残念ながら、私たちのカ
ンもそのため曇りがちです」
「申し訳ない、やはり人に話す類の事ではないんだ……」
「ただ、これまで聞いたことから、橋場由嘉里の人物像は何となくイメージできまし
た。彼女は夫を殺したかもしれない、そして貴方を殺すかもしれない。私も、完狂堂
さんも、殺されるかも知れない」

「……う、ううっ」突然、中山氏が奇怪な声をあげ、頭を抱えて苦しみだした。
「う、うぐぐぐ!痛い!痛い!頭が」中山氏は、必死にナースコールを何度も押して
いた。
「ど、毒!?しっかりして下さい!中山さん、早く医者を!」
「いったいどうしたんだろう?さっきまで元気そうだったが」
「まさか、また「A.F」が現れたんだろうか」
 私の恐怖心は頂点に達した。




前のメッセージ 次のメッセージ 
「連載」一覧 完狂堂の作品 完狂堂のホームページ
修正・削除する         


オプション検索 利用者登録 アドレス・ハンドル変更
TOP PAGE