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★タイトル (MEH ) 97/ 1/16 23:24 (179)
ADC殺人事件(1) 完狂堂
★内容
もうしわけありませんでした、大幅改訂。なおこの続き、予想できる方はメールかフ
レッシュボイスでご解答下さい。(この先は一応掲載しないつもり)
CU-See Me;米国コーネル大学で開発された、インターネットを介して行われるオン
ラインビデオ会議システム。プログラムはインターネット上で入手可能。機能を拡張
した「エンハンスドCU-See Me」は、フルカラー画像に対応している。詳しくはコー
ネル大学のホームページを参照。「ADC殺人事件」に登場するオンライン会議は、
このCU-See Meを発展させたものを利用して行われている、と思って頂きたく思いま
す。なお、CU-See Meはインターネット・カフェなどで体験できます。(完狂堂)
……まず、自己紹介をしておかねばなるまい。
私の名は、胡桃耕助と言う。どこにでもいるタイプの、平凡なサラリーマンだ。読
書が好きで、音楽や映画、漫画が好き……平凡そのものである。昼間は勤勉なサラリ
ーマン役を演じているが、私は夜な夜な「アマチュア探偵」となって様々な事件を解
決している……などというと、ちょっと誇張がすぎるだろう。
実を言うと、私は少々常軌を逸した奇妙な「会合」に参加させてもらっている。
「アマチュア・ディテクティブ・クラブ」、通称「ADC」と呼ばれるその会合
は、パソコン通信網を介して行われる、アマチュア探偵どうしの交流の場である。詳
しい説明などは、あまたあるパソコン雑誌などを精読してもらうとして、とにかく。
その「ADC」で起こった珍妙な事件について書いておきたく思い、こうして筆を
とった次第だ。
ある日の事。
私は、いつものように通信ソフトを起動し、自分の動画データがうまく相手に送信
されているかどうか、通信相手の闇竹骸骨氏(通称「完狂堂」氏)に確認してもらっ
ていた。
「完狂堂さん、私の画像はどうかな。鮮明でしょうかね」
「問題ないようですね。不細工な男が一人、モニター上で動いていますぜ」
「私の方でも、すさまじくヒドイ顔の人が見えてますよ!お互い様ですね、アハハ
ハ!」
苦笑の声が、スピーカーから響いてきた。さて。今日の「ADC」のテーマは、何
だろうか。密室談義か、はたまた毒殺関連か。最近読んだ探偵小説の話だろうか。い
ずれにせよ、話は尽きないだろう。何しろ同好の士が集っているのだから。
「こんばんは!お早い到着ですね。今日は何人くらい来るのかな?」とアクセスして
きたのが、名古屋在住、「ADC」屈指のミステリ小説マニアの中山潔氏だ。全身に
包帯を巻いている人物像がモニターにうつしだされた。彼の話によると、最近事故に
あって現在療養中との事。看護婦の目を盗んでのアクセスである。
「こんばんは、中山さん。今日は踏場さんなんかも、来ると思いますよ。美濃月さん
も常連ですからね、たぶん来るでしょう」
言うが早いか、二人同時にアクセスしてきた。一人は踏場綸太郎。もう一人は、美
濃月有栖。
「どうもです、どうもです!」
「やあやあ、お久しぶりでございます。ちょうど今、噂していたところなんですよ」
「へへへえ、そうですかあ」
私(胡桃)は、この「ADC」のオンライン会議に参加してまだ日が浅いので、二
人の背景をあまり詳しくは知らない。彼らに対する予備知識は若干あるにはあるが、
それは順を追って述べて行きたい。
「……さて、今日はですね、密室談義ネタなんですがね」完狂堂氏、開口一番言っ
た。
「密室殺人ネタを用意して来たんです。まあ聞いて下さい、お立ちあい」
「どうせまた、インチキな解答なんだろう?まあいいや、どうぞ、お話し下さい」
踏場氏は冷ややかに言い放った。
「では始めます。被害者は、女の子です。まだあどけない少女でしてね、まあ私の趣
味ですね。彼女は、密室の中でひっそりと息絶えていました」
「ふむふむ、密室ね……」中山氏が、真剣な眼差しでつぶやく。
「第一発見者は、彼女の身体をくまなく調べてみたが、致命的な外傷はありませんで
した。また、彼女は健康そのもので生前は病歴もなかった。自宅の地下室に閉じこも
り、何かに怯えるような苦悶の表情を顔に浮かべながら、少女は死んでいたのです」
「地下室に?へえ、地下室か」
「ドアの鍵は中から頑丈に施錠してあり、どうやっても、外からドアを開けることは
不可能。中からしか、開けられません。部屋の中には数日分の食料が貯蔵してあり、
少女が数日間閉じこもっていたようです」
「どうも状況設定がクサイな。完狂堂くん、それは叙述トリックだろう」
「う……まあ先を急ぎましょう。少女の日記の記述によると、少女はしきりに「殺さ
れる!」という言葉を書き連ねており、自殺ではない事を物語っているようでした」
「うん、はいはい」
「部屋は頑強な作りで、窓が一つもない。侵入など絶対に不可能。入り口はドアが一
つのみで……完全なる密室での殺人……なのです!犯人はいったい、どのようにして
彼女を殺したのか?」
「ここまでの状況で犯人特定となると難しいが、個人的にエレガントな解答となる
と、こんなのはどうかね?」
踏場綸太郎氏は、パイプに煙をくゆらせて一息つき、語り始めた。
「……彼女はね、「最初に扉を開けた者に殺される」と脅迫されていたのさ。第一発
見者が扉の鍵を開ける音を聞いて、恐怖のあまりショック死したんだよ。あるいは、
空気の出入りもなかったので、窒息死した。数日分の食料があっただけでは、実際に
数日経っていたかどうかは分からないけどね!」
「なるほど。そういう殺害方法もありますね。では話を続けます。「82」こそが、
彼女を救うかもしれなかった、唯一の数字でした」
「ふうむ。82、か」中山氏がニヤリと微笑む。
「犯人は恐ろしい力で彼女を殺害しました……しかし「82」が彼女をかくまってい
ればあるいは……生き残っていたかも知れません。まずここで述べておきたいのは、
凶器は恐ろしく強大なモノだということです」
「ふうん」美濃月氏が、不敵な笑みを浮かべる。
「犯行直前まで、彼女は元気でした。事件の到来に怯えてはいましたがね。彼女の日
記にこんな記述があります。「チャドウィックの見いだした悪魔に、私は殺された」
と。これはなかなか参考になるでしょう?」
「……ちょっと待て、完狂堂くん!」踏場氏が慌てて叫んだ。
「(解答A)って言うオチだね?」
「……ハイ、その通りです!」
「しかしねえ。防御のための物質「原子番号82」は正しいよ。だが、被害者が「チ
ャドウィックの見いだした悪魔に、私は殺された」などと書き残すのは、絶対に不自
然さ!例をあげようか?たとえば、毒殺される人間が「毒素○○に、私は殺された」
と書くだろうか。たいていは「○山○男に、私は殺された」などと犯人の名を記すも
のじゃないか。それが正しいダイイング・メッセージの書き方というものだろう?」
「う、ううううむ、しまった」
「……私もそのあたり、フェアでないと思いますわ。ネタとしてはバリエーションで
すが、その密室殺人はもう描かれていますよ」
美濃月有栖氏がニヤニヤしながら髪をかきあげつつ、言い放つ。
「『小学六年生』に連載された「KYO」という作品でしてね、天才少年とダメ刑事
が不可能犯罪の謎に挑む……的物語で。推理というよりは近未来SFっぽい雰囲気で
すがね」
「前例がありましたか。しかしいくらミステリマニアの私でも、その作品までチェッ
クしてはいませんな。そうですねえ」中山潔がそれを受け、話す。
「「外からドアを開けることは不可能」だが、第一発見者が、明らかに室内に入って
いますよね。ということはさ、最初から「第一発見者」なる人物は室内にいて、そい
つこそが少女を殺した犯人なのである、とかね」
「どこが密室殺人や!」美濃月氏、思わず笑いころげた。私も思わず笑ってしまっ
た。
「いやはや、皆さんの解答には恐れ入りますね。密室殺人に関してですが、実は私も
アレコレと頭を悩ませておりましてねえ……そりゃあ、真剣に考えてます!」
「胡桃さん。どんなアイデアを考えたんですか?」
「まあ、いくつか。マイクロ波で殺せないかとか、あらかじめ催眠術をかけておくと
か。完全に密室にしてから自殺するように洗脳するんですね。あと、部屋に閉じ込め
て、あけようとドアに手をかけた瞬間、ドアノブに高圧電流を流して殺害する、とか
ね」
「ほほう、面白いね」踏場氏が感心したようにうなずく。
「催眠術は、以前『刑事コロンボ』で見たとこがあるな。それによると、催眠術にか
かった人間も、自分に危害が及ぶことはしないという。本当かどうかは知らないが
ね。つまり、「自殺する」という催眠術はかけられないんだよ。そこで犯人は、ビル
の高層階にいる女性に「ある言葉を聞いたら、暑くてプールで泳ぎたくなる」という
催眠術をかけるんだな。そして、電話でその言葉をいう。被害者は高層階から飛び込
み……てわけだ。ディクスン・カーの『三つの棺』の中に有名な場面があるのだが、
その中にも出てくるね。ドアノブとは述べていないが、それに近い殺害方法もあった
はずだ」
「そうですか、勉強になります」私は、そうつぶやいた。本当に勉強になる。さて、
このような密室談義が延々と続いて行くわけだが、ここで私は「ADC」のメンバー
に、とある相談を持ちかけることにした。
「実は、私のもとに奇妙な電子メールが来ておりましてね……いまから紹介しますの
で」
「へええ、どんな内容?」いつになく緊迫した面もちの完狂堂氏。
「何といいますかね。脅迫メール、とでも言うのかな。「殺人予告メール」なんです
よ」
「ふうむ。それは興味深いね。一体誰を殺そうと言うんだろう?送り主は」
「それがね、踏場さん。ここにいる我々を、殺そうっていうんですよ!つまり「アマ
チュア・ディテクティブ・クラブ」のメンバー全員をね!」
……さて、つい最近の事なのだが、私のメールボックスには、こんな内容の文書が
一通送付されて来ていたのだ。送り主は「A.F」となっている。内容は以下のよう
なものであった。
メール(1):「完全犯罪の 実例を あなたに お目にかけたい これから 一週
間以内に 「ADC」の 連中が ことごとく 息絶えて行く あなたは 驚嘆する
だろう 残念ながら あなたは 友人の 死を 見守る事しか 出来ない 私は あ
なたの 泣き叫ぶ 様子を 見物し うまい酒を 飲む すべては あなたの ため
に A.F」
「くっだらない!」踏場氏、思わず口走る。
「動機がないよ、動機が!何故、善良なるネットワーカーの我々が殺されなくちゃい
けないのさ?」
「いったいどのような内容なんですか、そのメール」美濃月氏が不安そうな表情を浮
かべ、尋ねる。
「これから一週間以内に、全員を皆殺しにするって言うんだ。ええとね、今日は3月
25日だっけ?今日から数えて、一週間以内です」
「へええ?でも、そんな事が可能かしら?私たちの実生活を知っている人は、ごく小
数なんですよ。だって、私たちは本名で「ADC」に参加しているわけではないし…
…住所だって一般公開していないわ」
「その通りだよ。僕だって、自分のプロフィール・ファイルに住所を公開してなんか
いない。送り主は、どのような人物なんだろう?特定はできないの」中山氏が訊ね
る。
「他人のメールアドレスを無断盗用しているらしくてね。返事はないし……ハッキン
グの腕はかなりのものだと思う」
「我々に恨みを持っている人物は結構いる。それは事実だな、うん。何しろ、喧嘩腰
の議論ばかりしている「ADC」だからね。胡桃くん、まあ、とにかくそのメールを
転送して欲しい」
「わかりました。でも、単なる愉快犯じゃないかとは思うんです。そんなに深く考え
る事でもない、とは思っているんですが。だって、殺される理由なんて、これっぽっ
ちもありませんよ、絶対にね!」私はそう言った。
「理由なく殺される例も、山ほどあります。何気ない一言をずっと恨み続ける人も、
世の中にはいるわけですから」
「僕はこう思うな。「有名になりたい」と言う心理が働いているんじゃなかろうか?
「ミステリマニア」を殺してさ、記録をとってもらいたいわけだ。マスコミは派手に
騒ぎ立てるだろうね。犯人は新聞を読んでほくそ笑むってわけだ」
「いずれにせよ、悪質なイタズラですわね」
嫌な予感がした。メール送信者の実態がまるで見えないが、「A.F」なる人物は
相当の悪意の持ち主だ。私の知人に頭文字が「A.F」の者はいない。