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★タイトル (GLD ) 96/10/ 7 17:33 (171)
熱闘!ブロンコス96(7) Faith
★内容
奇跡というものは本当にあるのだろうか。あるのかもしれない。他の人にはどう
でもいいことでも、その人にとっては奇跡と思うこともあるだろう。
NFL第5週、1996年9月30日という日。それは西村豊という男にとって
は奇跡以外の何物でもなかった。
今週のジャイアンツの相手は、開幕4連勝中のバイキングスだった。一方、ジャ
イアンツは開幕3連敗で先週やっとジェッツに勝って1勝目を上げたばかり。1試
合平均22.5得点のバイキングスに対し、ジャイアンツの平均得点は11点にも
届いていない。平均失点はバイキングス16、ジャイアンツ24.3と、ここでも
差はタッチダウン1回分以上も開いている。
はっきり言って雲泥である。
が。
西村のパソコンに表示された、インターネットのジャイアンツのページにはデカ
デカと”偉大な勝利(A Giant victory)”と書かれていた。ドン底のジャイアンツが
”ストップ・ザ・バイキングス”を果たしたのだ。
試合は、脆弱ディフェンスがバイキングス・オフェンスの猛攻をタッチダウン0
に押さえ、バイキングスの得点はスペシャルチームのパントリターン一本とフィー
ルドゴール一本だけ。その間にジャイアンツは、リバースで決めたタッチダウン1
本(2点コンバージョンは失敗)と、B.ダルイーソのフィールドゴール3本全部
の成功。
ファイナルスコアはジャイアンツ15−10バイキングス。またも守備でつかん
だ勝利だ。しかも先週の相手は、ジャイアンツ以上に今シーズンボロボロのジェッ
ツだったが、今週は絶好調のバイキングスを止めたのである。
攻撃陣は相変わらずの低調だが、守備は確実に持ち直しつつある。3連敗中の平
均失点27が、この2連勝中は平均8点しか奪われていないのだ。しかも相手オフェ
ンスに奪われたタッチダウンは2試合ともゼロ。まるで別チームのディフェンスだ。
「やりゃあ、出来るんじゃんかよぉ!」
本気で西村の目はうるんでいた。乗ってきたところで、来週がオープンデイトで
試合がないのが惜しい。
それにしても、一体ジャイアンツディフェンスに何があったのか。しばしの心地
よい放心状態の後、西村は早速、試合の詳細を呼び出し始めた。
一方、正木も例によって、昼休みに会社のパソコンをインターネットに接続して
いた。ブロンコスの今週の相手はベンガルズ。
(アウェイだが楽勝の相手。)
昨シーズンなら、あるいは今年でも開幕前なら、どんな格下の相手でも「取りこ
ぼすんじゃないか」という不安が常にあった。しかし4週まで見て、1敗はしてい
るものチーム状態はきわめて安定しているように思える。
果たして結果は。
BENGAL|3|7|0|0||10
------+-+-+-+-++--
BRONCO|7|0|7|0||14
5週目にして、ブロンコス4勝目である。ちなみに去年は5週目を終わって負け
越していたのだから、やはり今年は調子いいらしい。
がしかし、正木の表情は若干ながら曇った。
「正木さぁん、ブロンコスどうすかぁ」
弁当を買いに行っていた藤代が、正木の肩越しにディスプレィをのぞきこんだ。
「勝ったには勝ったんだがな」
「じゃあ、チーフスが負ければ同率で並ぶんすね」
「アウェイでチャージャーズとやってるはずだ」
気のない返事を返しながら、正木は試合のダイジェストを解読にかかっていた。
勝つには勝ったが、ベンガルズ相手に14点しか取れないというのが気になる。
「ベンガルズのディフェンスが調子よかったんじゃないすか?」
「んー、でもブロンコスは守って勝つよりは失点以上の得点で勝つパターンだった
よな?それが、先週から得点ががたっと落ちている」
得点は第1週31、第2週30、第3週27と来ていたのが、先週今週とも14
点しか取れていない。
「オフェンスにけが人が出たとか」
「いや、個人成績はいいんだ」
QBのJ.エルウェイはパスで335ヤード進めている。T.デイビスはチーム
記録に並ぶ、4試合連続のラッシュ100ヤード突破をマークした。
にもかかわらず、14点しか取れていない!?
「謎ですねぇ」
「なんだろうな」
「で、チーフスはどうなったんすか」
第4週終了時点で全勝だったのは、バイキングス、コルツ、チーフス、パンサー
ズの4チームだった。これでバイキングスが消え、パンサーズは”エキスパンショ
ンボウル”でジャガーズに破れている。コルツはオープンデートで試合なし。
残る”UNBEATEN(負けなし)”のチーフスは・・・。
「う・・・・・・そ・・・・・・」
夜、BSスポーツニュースを見た水上は、あまりの衝撃に突発性言語障害状態と
なった。
「チャ−−−−−−ジャ−−−−−−ズにぃぃぃぃぃぃぃ」
アゴが伸びきって、大口開けた馬鹿ヅラになっている。
「負ぁけぇたぁだぁ?」
開幕以来の4連勝、さらには一昨年の終盤からの同地区内対決12連勝が止めら
れてしまった。今期初の20点以上の失点で。
試合の鍵を握ったのは、チャージャーズのキッカー、J.カーニーだった。5回
のフィールドゴールを全て成功し、一人で15点を稼いだのだ。
キッカーは、一般的に孤独である。
チームメイトがフォーメーションを組んで練習しているときも、グランドの隅で
黙々とフィールドゴールの練習を繰り返す。試合の時も、チームメイトがぶつかり
合い、芝と泥にさんざんまみれたあとに出てきてひと蹴りするだけで、ユニフォー
ムを汚すことがないものだから、他の選手から嫌われやすかったりもする。
しかも登場するのは勝負の分かれ目となるような場面が多いから、プレッシャー
との戦いも苛烈。決めて当たり前で、負ければ全てキッカーのせいと報道されるこ
とも少なくない。
そんな中、カーニーはあまたのフィールドゴールを決めて、チームに勝利をもた
らしてきた。カーニーのフィールドゴールだけで勝ったという事も何度かあった。
そして今週、またもカーニーの黄金の強脚が、チーフスの連勝を止めたのだ。こ
の結果、AFC西地区のスタンディングスは...
1位:チャージャーズ 4勝1敗(地区内3勝0敗)
1位:チーフス 4勝1敗(地区内3勝1敗)
1位:ブロンコス 4勝1敗(地区内1勝1敗)
4位:レイダーズ 1勝4敗(地区内0勝2敗)
4位:シーホークス 1勝4敗(地区内0勝3敗)
3チームが同率1位。AFC西地区はレイダーズ以外の4チームが第7週がオー
プンデイトになるため、来週がいわば前半の折り返し地点といえる。
同地区内対決の成績ではチャージャーズが半歩リードしているように見えるが、
来週はブロンコス対チャージャーズがブロンコスのホームゲームで行われる。両者
にとって大きな意味を持つ試合である。
チーフスはホームで、スティーラーズとマンデーナイトゲームを戦う。スティー
ラーズは強豪ではあるが(昨年度AFCチャンピオン)、今年もけが人が多く苦労
している。これもやってみなければわからない試合だ。
ベアーズに負けたレイダーズ、パッカーズに負けたシーホークスは、少なくとも
残りの同地区内対決を全勝で行かなければプレイオフはないだろう。
ファルコンズは強豪49ersとの対戦を17−39で落とし、オープンデイト
を挟んで開幕4連敗となった。試合は、あるメディアの次の表現を引用すれば全て
語り尽くせるだろう。
"The 49ers crushed Atlanta."
ファルコンズがフィールドゴールで3−0と先制したが、その後49ersが怒
濤の33点連続ゲット。QBのB.エバートは今期初の先発だったが、3回のイン
ターセプトを含めて、ゲームの間中、49ersのディフェンスにプレッシャーを
かけられ続けた。
フットボールは、「攻撃的ディフェンス」という言葉があるように、オフェンス
・ディフェンスを問わず流れをつかんでいる方が「攻撃」と言える。
ただ攻撃を止めるのがディフェンスではない。敵を叩きのめし、敵からボールを
奪い取り、あわよくば得点してしまおうというのがディフェンスなのだ。オフェン
スライン(フォーメーションの一列目)に力がないチームでボールを持った選手は、
一人で狼の群に襲いかかられるに等しい。ディフェンスが文字通り殺到してくる。
今日の試合の結果をチェックし終えた正木は、今週も負けたファルコンズを応援
させられているめぐみが、近頃妙におとなしいのが気になった。
あの負けず嫌いが。黙っているとは思えないのだが。
と思った途端、水上から電話が入った。
「どうした」
「今、めぐみから連絡があった。次の試合はデトロイトで観戦するそうだ」
「何ぃ!アメリカに行くってか?」
ついに堪忍袋の緒が音を立ててちぎれ飛んだか。
「その次の週にヒューストンで見て帰って来るってよ」
旅行代理店に行ったとは聞いたが、そこまでやるか?しかもデトロイトからヒュー
ストンだと、合衆国を北の端から南の端まで大縦断じゃないか。
「信じられねぇ」
「これで負けたら、えらいことだぞ」
言って水上は電話を切った。正木は受話器を握ったまま、背筋を悪寒が疾走して
いくのを感じていた。
次週(第3週)
チーフス 対 スティーラーズ(チーフスのホームゲーム)
ブロンコス 対 チャージャーズ(ブロンコスのホームゲーム)
ファルコンズ 対 ライオンズ (ライオンズのホームゲーム)
ジャイアンツ 対 オープンデイト(試合なし)
−To be continued.−
<<注>>
2点コンバージョン
TD(タッチダウン、6点)の後のトライ・フォー・ポイント(ポイント・アフ
ター・TD)は、通常は無難にフィールドゴールで1点加算を狙うので、1回のT
Dは普通7点入る。が、試合が競っている場合などは、強引にTD(2点加算)を
狙うことを言う。成功すれば8点、失敗すれば6点止まりというリスクが伴う。
スペシャルチーム
オフェンス、ディフェンスと別に用意される第3の部隊。キックオフやパントを
行う攻撃側の選手、またこれに対処する守備側の選手のこと。1ヤードでも敵陣深
く蹴り込む、あるいは1ヤードでも前にリターンすることは得失点に直結する。
エキスパンションボウル
NFLは一昨年まで28チームだったが、去年リーグをエキスパンション(拡張)
して30チームになった。エキスパンションチームは他チームの二線級を寄せ集め
た急造チームとしてスタートするため、勝ち越すまででも数年かかるのが普通。
しかしパンサーズは結成1年目の去年すでに7勝9敗の好成績で、しかも前年チャ
ンピオンチームを破った初の新造チームとして、「史上最強のエキスパンションチー
ム」と呼ばれた。
今週の相手だったジャガーズも去年のエキスパンションチームである。「ボウル」
はこの場合、単に試合の意味(一般的には、特定の球技場で行われる特別試合)。
マンデーナイト
ほとんどの試合は日曜日に行われるが、その週の目玉となる好カードを1試合だ
け、月曜日にナイターで行う。日曜の試合は大概は地元でしかTV中継しないが、
マンデーナイトは全米に発信される。