AWC 「ティアフルガール(迷子少女)」 No5 大二郎


        
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★タイトル (AWJ     )  96/10/ 8  15:29  (103)
「ティアフルガール(迷子少女)」 No5 大二郎
★内容


 外は、もう陽もとっぷりと暮れて、人の住む家のいくつかからゆうげの匂いただよ
う時間。
 そんな中で、フライドさんのお店からは一段と、食欲をそそる匂いがしていた。
 3人だけの、ささやかなパーティーは、しかし大いに盛り上がっていた。
「それいけぼくらのシュンリーちゃん、悪いオトナをやっつけろぉ!」
 フライドさん自慢の料理を食べ、飲めや唄えやの大騒ぎ。
 なにしろ近所の建物のほとんどが空き家になってしまっているので、遠慮なしに大
声を出せるとあって、いままでのうっぷんを晴らすかのように騒ぐカイやフライドさ
ん。
 シュンリーはもっぱら、食べることのほうに集中しながら、ときおり、
「はーい、なんですねっ」
 と、合いの手を入れていた。
 やがて、そんな宴も、食事とともに終わりに近づいたころ、
「カイ、客を呼び戻すいい手を思いついたぞ」
 とーとつにフライドさんが言った。
「なんですか、まさかシュンリーをあてにしたものじゃないでしょうね」
 と、モラルだけは非常に高いカイくん。
「バカ言うな。向こうが来ないなら、こっちがいけばいいんだ」
「屋台でもやるんですか?」
「それも考えたけどな、いまの状態だと効率が悪い。そこでだ、出前をするんだ。そ
れも“料理”じゃなくて、“料理人”のな」
「ああ、なるほど、どこかでパーティーがあるところへいって、そこの台所を使って
料理を作るんですね」
 そりゃいいや、とカイも感心した様子。
「それだけじゃないぞ、寝たきりの老人や、外に出にくい病人とかの個人レベルでの
出張もありだ。こうすれば固定客を得るのも簡単だ」
「・・・・採算がとれますか? それで」
「難しいな。しかし最初はすべて予約制にして、仕入れの量を把握すればなんとかな
るだろう。そのうち軌道にのれば、逃げてった従業員だって戻ってきてくれるさ」
「・・・・奥さんも、ね」
 カイのポツリ一言に、
「やかましい」
 とか言いながら、フライドさん、ニヤニヤしてる。
「ふぁー・・・・むつかしいおはなしなんですね」
 と、おなかいっぱいでご満悦のシュンリー、今度は眠くなっちゃったみたい。
 むりないよねぇ・・・・動いて、食べて、そのうえむつかしいおはなしまで聞かされて
・・・・ちなみに今日は夏の涼しい夜。
「シュンリー・・・・おねむなんですね・・・・」
「うん、いいよ。ゆっくりおやすみ」
 カイくん、にっこり微笑んだ。
「おそと・・・・お客さん・・・・なんですね・・・・」
 カイくん、ぴききっ、とひきつった。
「え? まさか・・・・」
 カイがそっと入り口にしのびよると、
 バン! と目の前で、扉が乱暴に開かれた。
「ふはははは! 昼間はよくもやってくれたな!」
 入ってきたのはもちろん、3時間ほど前シュンリーにボコボコにされた3人組の男
達と、ほかさらに5人の、同じような連中。
「・・・・恥ずかしくないのか? おまえら・・・・」
 とフライドさんあきれてる。
「やかましいっ! おかげで街のやつらの間に、オレ達をなめる空気が流れはじめや
がった!」
「へーえ、そりゃよかった。これであんた達も終わりだね」
 カイはにこにこしながら言う。
 けっこーイヤミなやつ・・・・。
「そうなんだ・・・・オレ達はなめられたらおしまいなんだ・・・・って、なんでてめえにそ
んなことまで言わなきゃいけねえんだ」
 と、一人で勝手に怒る、兄貴分らしき男。
「まあいい、もう一度脅してやるのなんてかんたんなことだ。が、それにはまず、そ
このめざわりなガキや、うっとうしいてめえをかたづけとかなきゃいけねえ」
「なるほど」
 この3人組がシュンリーにコテンパンにされたのを、最初に見ているので、人一倍
彼らをなめてるかも知れないカイとフライドさんがそろってうんうん、とうなずく。
「今度は前のようにはいかねえぞ・・・・先生!」
 男が外へ向かってそう叫ぶと、
「どれ・・・・」
 のそり、と入り口から姿を現す、大男が一人。
「なんだ・・・・てめえら、こんなやせっぽちにやられたのか」
 と、その大男は、カイを見るなり、言った。
「い、いえ、そいつじゃなくてその・・・・あっち」
 と、カウンターのほうをしめす男。
「ほう、ただの料理人にしか見えんが・・・・なるほど、あの体格から繰り出される技に
はパワーがありそうだ」
 と今度はフライドさんを見て言う。
 まあ無理もない。なにしろその時シュンリーは、とっくにカウンターに伏して、す
やすやと寝息をたてていたのだから・・・・。
「いやその・・・・そいつでもなくて・・・・ええい、このガキ! こんな時にグーグー寝て
るんじゃねえっ!」
 と、男がシュンリーにつかみかかろうとするので、
「おい、やめろ!」
 カイくん、なんとか止めようと、した。
「てめえはあとだ! おとなしくひっこんでやがれ!」
 ドン、と突き飛ばされて、ガラガラガシャーン! とテーブルの残骸に突っ込んで
しまう。
 ああ、力なき正義は、無力。
 でもさすがに今度は、気を失ったふりは、しなかったけど。
 男が、シュンリーの、どっかの民族衣装のような山吹色の服の胸ぐらをつかんで、
引き寄せる。
 バキッ!
「はうっ!」
 その反動でシュンリーに頭突きをかまされた男、大男のそばまで吹っ飛んで倒れる。
 ・・・・自業自得。
 ああ、シュンリー目がさめちゃった。
「いたた・・・・なんですか」
 床で膝を崩し、頭をさすりながら、終わりの上がるイントネーションで言う。
「ちくしょー、おまえら! もういいからやっちまえ!」
 男が、7人の小人・・・・じゃなくて、子分達に言うと、全員、へいっ、と声を合わせ
てバタバタと動きだした。
 シュンリー、まだちょっとねぼけ気味みたいだったけど、なんとか事態を察したよ
うで、よいしょと立ち上がった。





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