AWC 「ティアフルガール(迷子少女)」 No2 大二郎


        
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★タイトル (AWJ     )  96/10/ 2  21: 2  (101)
「ティアフルガール(迷子少女)」 No2 大二郎
★内容


「あーおいしかったんですねっ、ごちそう、さまですっ!」
「あれっ、もういいの?」
 この青年、名前をカイと名乗った。
 女性じみた名前にたがわず身体の線は細く、髪も、汚いけど長いので、後ろからは
よく女性とまちがわれるそうである。
 それはともかく、カイがおどろいたような声をあげたのは、あれだけ食事への情熱
(?)をあらわにしたシュンリーが、お子様ランチの一人前で満足した様子を見せた
からだった。
 ちなみに、ここはカイのいきつけという店で、味のほうはと言えば・・・・まぁ、シュ
ンリーがお世辞のつかいかたなど知ってるはずがない、とだけ言っておこう。
「遠慮しなくていいんだよ、もっと食べたら?」
「いいえ、なんですね。あんまり食べたら太っちゃう、それ、困るです」
「ダイエットかい、まぁ、きみくらいの年ごろの子は気になるんだろうけど・・・・あん
まり無茶しちゃ駄目だよ」
「ありがとですねっ」
 カイの親身な言葉に、笑顔でこたえるシュンリー。でも、シュンリーが美容に気を
つかっているとも思えないのだけど・・・・。
「ところできみ・・・・シュンリーちゃん、って名前なのかな?」
「シュンリーの名前はシュンリーなんですね、シュンリーちゃん、違うですよ」
「え? ああ、なるほど・・・・じゃ、じゃあ、シュンリーはどうしてまた、一人なんだ
い? 危険だよ、女の子の一人旅なんて・・・・」
 と、カイが心配そうにきくので、シュンリーは事情を話した。
 もっとも、シュンリーがどれくらい正確に憶えていたのかは知らない(作者だって
知らないことはあるのだ)。
「ふーん・・・・じゃあ、自分の住んでいたところをさがしてるんだ・・・・たいへんだろう
けど、がんばってね・・・・そうだ、今夜はうちに来ないかい? お金ないんだろ? 良
かったら泊めてあげるけど・・・・」
 意外にもこのみすぼらしい青年には家があるらしい。
「でも、迷惑なんですね」
「そんなことないさ、一人暮らしだから、気がねはいらないよ」
「でも、あぶないんですね」
「へっ?」
 カイくん、言われてはじめて気がついたという感じで、
「・・・・あ、ああそうか・・・・やっぱりちょっとまずいかな・・・・」
 と言った。
 カイくん、かなりの純情青年のようで、いまどきめずらしいくらいに赤くなったの
だけど・・・・
「なに、赤くなってるですか?」
 とシュンリーのほうがキョトン、としている。
「え? だって・・・・えや、その・・・・」
 しどろもどろなカイくん。
「シュンリー、寝てるとき、よくおうちの中のもの、壊すんですね・・・・それ、あぶな
いですよ」
「あ、なんだ、そういうことか」
 なぜだかホッ、と胸をなでおろすカイ。
「大丈夫、もともとそんな、壊されるものなんてないから」
 やっぱり貧乏にはちがいないようである。
 しかしシュンリーは、まだ心配そうな様子で、さらに言った。
「でも、迷惑なんですね」
 ・・・・おーい。
「だあぁっ! だからっ、その家にはぼくしか住んでないのっ! そのぼくが迷惑で
ないと言った以上、誰にも迷惑はかからないのっ!」
 店の中でこんな大声を出したらそれこそ迷惑かも知れないが、さいわい(?)店の
客はカイとシュンリーの他には誰もいないという、さみしい状況であった。
「・・・・シュンリー、泊めてもらえるですか?」
「と・め・て・あ・げ・る!」
 カイくん、もうなかばヤケです。
「ありがと、なんですね」
 しかしシュンリーはあくまでマイペース。
「おにいさん、親切です」
「そ、そうかい?」
 また赤くなるカイ。
「おトイレ、どちいきますか?」
 カイくん、急にヘナヘナッ、と全身の力が抜けた。
「なにやってんだか・・・・ほれ、あそこだよ」
 代わって店のおやじさんが、店の奥のほうに見える扉を指でさすと、シュンリー、
パタパタ足音をならしながらそこへ向かった。
 で、バタンと扉が閉まると同時に、カイは大きくため息をついた。
「ははは、おまえさんも苦労してるなぁ」
 と、店のおやじさん。
「まったく・・・・たいへんなコを拾っちゃいましたよ」
「まあそうボヤくな、面白そうなコじゃないか」
「・・・・そりゃまあ、退屈はさせてくれそうにありませんけどね・・・・ところで、おやじ
さんのほうはどうなんですか? 近ごろの様子は」
 とカイが唐突に訊ねると、おやじさん、肩をすくめてこたえた。
「見ての通りさ、ここ一週間、お客の数は約一名様、ってとこかな」
 冗談にも心なし元気がない。
「そろそろ潮時かもしれんなぁ・・・・」
 自嘲ぎみにそうつぶやくおやじさんに、
「なにを言うんですか! あんなやつらに屈してしまうなんて、おやじさんらしくな
いですよ」
 と、カイがゲキを飛ばす。
「しかしなぁ・・・・そろそろ限界だよ」
「おやじさんが料理人になったのは、お金やなにかが目的だったんですか?」
 カイの言葉は期せずしておやじさんの心を突いたようだったが・・・・
「・・・・現実はきびしいのさ。こうもお客がいないんじゃねぇ・・・・」
「ぼくがいるじゃありませんか! ぼくは絶対にここへ来るのをやめませんよ! 客
がいるのに、店を閉めるって言うんですか? そんなの、客に対する裏切りだ」
「おまえさんの気持ちはほんと、ありがたく思っとるよ。だがな、これ以上あいつら
に逆らって、危険なことすらあれ、なにも得はありゃせんよ。おまえさんだってもう
かなりやつらに目をつけられとるだろう」
 本心からなのかどうか、おやじさんはカイをうっとおしそうな目で見つめた。
「・・・・なるほど、ぼくと心中するのはごめんだ、って訳ですね」
「・・・・すまん・・・・」
 おやじさんはそう、口おしげにいいながら両手をカウンターテーブルの上についた。
「ちくしょう、あいつらめ!」
 シュンリーの目の前でないと思って、乱暴に吐き捨てるカイ。
 そこへ、バタンと扉の開く音がしたので、カイはギクッとした。





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