#4778/7701 連載
★タイトル (AWJ ) 96/10/ 2 21: 3 (127)
「ティアフルガール(迷子少女)」 No3 大二郎
★内容
「ちくしょう、あいつらめ!」
シュンリーの目の前でないと思って、乱暴に吐き捨てるカイ。
そこへ、バタンと扉の開く音がしたので、カイはギクッとした。
しかしシュンリーではなかった。シュンリーの入った扉とは反対方向、つまり店の
入り口の扉が開いたのだった。
「おう、フライド! そろそろ気が変わったんじゃねえかと思ってな、わざわざ来て
やったぜ」
入ってきたのは3人組の、見るからにガラの悪い男達。その先頭の男が、どなるよ
うに言って、ニヤリと笑った。
「・・・・ああ、もういい加減、利口になることにしたさ」
フライドと呼ばれたおやじさんが、なげやりな口調でそう言うと、男達はいっせい
に笑った。
「そうか! よし、契約書はここにある、サインするんだ」
と、懐から一枚の紙をとり出し、カウンターテーブルの上に置く男。
「待っててくれ、書くものを持ってくるから」
そう言ってフライドさん、自失へと消える。
「はやくしな、これから他にも回らなきゃいけねえとこがあるんだ」
と、別の一人がせかすと、
「まぁ、そうせかすな。言うだろ、“せいてはことをし損じる”ってな」
「なーるほど、さすがあにきは落ち着いたものだぜ」
「バカ、おだてるんじゃねえよ」
などと言い合う3人組を、カイはにくにくしげににらんでいたのだが、ふと男の一
人と目が合った。
「ほう、こいつは奇遇、反バルド一家の筆頭、勇者カイ・ド・ファルバード様がこん
なところまでおでましだぞ」
「なにぃっ! カイだと?」
言われてはじめて気がついたらしく、兄貴分らしい先頭の男がカイのほうへ向き直
る。
「てめえ、よくもオレ達にたてついてばかりいやがって! ちょうどいいところで会
ったぜ、二度とそんな真似ができないようにしてやる」
そう言ってのそり、とカイのほうへ向かって足を一歩進めたところに、フライドさ
んが部屋から姿を現して、
「やぁ、待たせたね、どれどれ、契約内容の確認をさせてもらうよ」
と言ったので、男は舌打ちして、
「チッ・・・・まあいい、“二頭を追うものは一等をもらえず”だ。今回は見逃してやら
ぁ」
「さーすがあにき、心が広いぜ」
あ、やっぱりこいつらバカだ。
とかやってるところへ、
「はぁ、すっきり、うきうき、らんらんらん、なんですねっ」
シュンリーが、満ち足りた表情でトイレから出てきた。
「あ? なんだこのへんてこなガキは」
弟分らしいほうの一人がめざとくそう言ったので、カイは慌てて、
「シュ、シュンリー、きみはも少しあっちへ・・・・」
と、シュンリーをトイレに押し戻そうとする。
「おい、なんだこの立ち退き料の額は? 約束の半分以下じゃないか!」
その時、契約書を読んだらしいフライドさんが突然に叫んだ。
「ああ、あの条件はもうとり消したぜ」
「なっ・・・・」
男の突然な宣言に、青ざめるフライドさん。
しかしそんなフライドさんに向かって、男はひややかに言う。
「断ったのはあんただろ?」
「人の足元を見やがって・・・・クソ野郎・・・・」
もはやシュンリーがいることも忘れたといった感じで、カイは言葉をかみ殺すよう
につぶやく。
「ん? なにか文句でもあるのか」
しかし、この場合、カイはどうしようもなく無力だった。
「・・・・し、しかたがない・・・・」
とフライドさんがしぶしぶ契約書にサインしようとすると、
「おやじさん! やめるんだ! そこまでこいつらの言いなりになっちゃいけない!」
カイがそう、やけっぱちで叫んだので、フライドさんの手が止まる。
「ええい、いちいちオレ達の邪魔をしやがって。もう我慢ならねえ・・・・おい、気が変
わった、こいつから先にやるぞ!」
リーダー格の男の号令一下、3人の男達がカイをとり囲んだ。
「あっ、おぢさん達、おにいさん、いじめるつもりなんですね」
いきなりの外野からの物言いに、店内の男達すべてがあっけにとられた。
「そうだよ。だったらどうだって言うつもりだいお嬢ちゃん」
いちはやく立ち直ったリーダー格の男が、ひやかすように言う。
「それ、シュンリー、いけないこと、おもうんですね」
なんとも迫力を感じさせない声で、続けるシュンリー。
「おにいさん、いい人なんですね、いい人いじめる、それ、悪い人なんですね」
「ええい、さっきからみょーちきりんなしゃべりかたしやがって! もっと、普通に
しゃべれんのかこのガキャぁ」
と男、ついに言ってしまった。
「変・・・・なんですか?」
シュンリー、気にしてたらしく、急にショボン、となってしまった。
「変だよ、変。どこの田舎のガキか知らねぇが、もう少しまともにしゃべれるように
なってから街に出てきな」
と、大人げなく笑いだす3人組。
「いや、変なんかじゃないよ」
見かねて、カイが横から口を出す。
「それはただの“個性”って言うのさ。人にはそれぞれ、個性があってあたりまえ、
右をむいても左を見ても、みんなおんなじだなんて、そんなつまらない世界なんて、
ただの模型だ。他人の個性を笑ったり、否定したりすることのほうが、よっぽどおか
しなことだ」
そう言われて、また笑顔になるシュンリーに、カイも負けじと笑顔を返す。
「人にはそれぞれの生きかたがある、それを自分の都合のいいように強制すること、
それこそが犯罪っていうものなんだ!」
調子に乗って男達に人差し指をビシッ、と突きつけるカイに、
げしっ!
と右フックをおみまいするリーダー格の男。
カイくん、ドガラッシャーン! と、はでにテーブルに突っ込んだ。
「けっ、相変わらずよわっちいくせに、口だけは達者な野郎だ」
リーダー格の男、そう言って手をポンポンとたたきながら、
「さぁ、とっととサインしなフライド」
さっき自分で言ったことも忘れて、フライドさんをせかす。
そしてこの場合、男の出した言葉は、正しかったようである。
「・・・・あなた、悪い人、なんですね」
シュンリー、今度は相手を見据えながら、低く、静かに言った。
「おっ? 怒ったのか、ガキのくせして」
「はい、シュンリー、もう怒りましたです」
と言われて、3人組の男達はドッ、と笑った。
そのさい、一瞬シュンリーから目を話してしまう。
「怒ったら、どうなるんだい?」
と言いながらリーダー格が再び視線を戻した時には、すでにそこにシュンリーの姿
はなかった。
「あ? どこいったあのガキ」
「あっ、あにき、上!」
弟分の一人がそう叫んだので兄貴分の男が上を見ると・・・・
「ぶっ!」
その男の顔面に、見事に両足で着地(?)するシュンリー。
まともにあおむけになって床に倒れ込む男。
「あ、こいつきったねえ!」
と、残りの二人がそろって抗議の声をあげると、
「シュンリー、きたなくないんですね」
シュンリーはきっぱりと言い放った。
「ちゃんと、おてて洗いました!」
・・・・と、いう訳で始まった乱闘であったが、店内を縦横無尽に飛び回り、跳ね回り、
駆け回るシュンリーに、男達は結局、頭突きや膝蹴りで顔中、体中ボコボコにどつか
れまくり、
「ち、ちくしょー、おぼえてやがれっ!」
と、お決まりのセリフとともに逃げ帰ってゆくまで、指一本触れることはできなか
ったのだった・・・・。