AWC    14 合唱(2)


        
#4766/7701 連載
★タイトル (GSC     )  96/ 9/22   0:16  (181)
   14 合唱(2)
★内容

 私が11年間の北海道暮らしを終え、母校の名古屋盲学校の教員として勤めるよう
になって間もない頃、MとYが訪ねてきた。Mは私の小学1年生からの同級生、Yは
私より6年後輩だった。
 用件は、私に『あけぼの合唱団』の指導者(指揮者)を引き受けて欲しいというこ
とだった。
 あけぼの合唱団は、前年夏のキャンプで知り合った仲間が、「このまま別れてしま
うのは残念だ」ということで、結成された晴盲(晴眼者と盲人)合同の混声合唱団で
ある。
 私はいったん辞退したが、Mが言うには、
「学生時代から、君に何かの役を引き受けさせるのには苦労したもんだ。」
 と言い、
「今はまだ未熟な合唱団で、臨時にRさんがコーラスの指導をしているから、ここで
君の経験を生かしてもらいたい。」
 と推薦してくれて、団長のYも是非にと言ってくれた。
 元々嫌いなことでないだけに、とうとう承諾した私は、以後20数年間に渡り、
『あけぼの』と共に過ごしてきたのであった。

 定期練習日は第4日曜日の午後1〜4時、催し物や発表会が近づくと、練習日を月
2回に増やして特訓した。
 練習場所は最初、名古屋ライトハウスのホール、その後音楽好きの先輩Z氏の家を
借り、さらにふれ合いホール、市の社会教育センター、最近は、篤志家の個人ビルの
一角を借用している。
 団員も、初めは10数人居たのが、一時は8人に減少し、立ち消え寸前になったこ
ともあったが、しだいに増えて、最も多い時には40人にも達した。

 毎年2〜3回は何らかの行事に参加し、舞台発表をする機会を与えられ、私たちは
音楽を通じて、融和と協調と喜びを得た。

 役員が一番苦心したのは、団員数の確保であり、私が指導者として最も力を尽くし
た点は、正しい音程と美しいハーモニーであった。

 あけぼの合唱団の長年の活動のうち特筆できるのは、LPレコードの製作と、札幌
盲学校OBの『いずみコーラス』を名古屋に招いて行なったジョイント コンサート
である。
 以下、私たちが製作した『あけぼの合唱団 15年の歩み 世界の歌・日本の歌』
のレコード アルバムから抜粋して、活動のあらましを紹介させていただく。

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   ご挨拶      (団長  A S)

 この度、あけぼの合唱団では、発足15周年を記念して待望のレコード作りにチャ
レンジいたしました。その成果を一般の方々にもお聞きいただけますことは身に余る
光栄と存じます。
 あけぼの合唱団は、昭和46年、朝明渓谷でのサマーキャンプにおける「コーラス
班」が母胎となり生まれた物です。
 あけぼののようなほのぼのとした温かい歌声と、晴(健常者)盲相互の正しい理解
と助け合いの精神をモットーに、100名を越える仲間が「あけぼのトーン」を歌い
ついでまいりました。
 指揮棒を使わず、毎月1回だけの練習という他の合唱団では考えられない不利な条
件を克服するため、点訳譜やパート練習用のテープをフルに活用いたしました。
 演奏会や定期練習の折り、一人歩きに慣れていない視覚障害者の良きガイド役を勤
めてくれた家族の協力も見逃すことはできません。
 メンバーチェンジの激しい中で、明るく歌うソプラノ、正確な音程と和やかな雰囲
気作りを目指すアルト、人数を増やして厚みを出したいテノール、地道な練習で団を
支えて行くバス、現在の団員数は38名、私たちはこれからもより美しいハーモニー
を求めて、晴盲仲良く歌い続けてまいります。
 最後にレコーディングに際し、伴奏を快くお引き受け下さった名古屋市民管弦楽団
有志の皆様はじめ、個人伴奏、パート譜作り、楽譜の点訳など、ご支援ご協力下さっ
た皆様、多額のご寄付を下さった愛盲報恩会、そして、このレコードをお聞きいただ
く方々に厚くお礼申し上げます。


  曲目

A面:スタジオ録音
   1.小さいぐみの木 (3分03秒)
            ロシア民謡,楽団カチューシャ 訳詞
   2.私を叱らないで (1分54秒)
            インドネシア民謡,おきはるお 編曲
   3.どじょっこふなっこ (1分30秒)
              東北わらべうた,岡本敏明 作曲
   4.うれたぶどう (1分22秒)
              麦笛 作曲,中国音楽研究会 訳詞
   5.サリーマライズ (1分13秒)
        オランダ民謡,森田久男 訳詞,中村仁策 編曲
   6.エーデルワイス (1分59秒)
      リチャード・ロジャース 作曲,林雄一郎 訳 編曲
   7.羊飼いの歌 (2分19秒)
           メンデルスゾーン 作曲,津川主一 訳詞
   8.Ave Verum Corpus
     [めでたき御身] (2分42秒)
                W.A.モーツァルト 作曲
   9.教会カンタータ第147
     「主よ 人の望みの喜びよ」 (4分18秒)
        J.S.バッハ 作曲,ジョン・マーチン 作詞
   10.ハレルヤ (3分50秒)
                  G.F.ヘンデル 作曲

B面:日本の民謡&ライブ録音
   1.木曽節 (1分43秒)
       スタジオ録音
                     平井康三郎 作曲
   2.ソーラン節 (2分14秒)
       スタジオ録音
                       清水修 作曲
   3.森の教会
       あけぼの合唱団 テーマ曲
                ピッツ 作曲,津川主一 作詞
   4.あの町この町
       第一回くさぶえ演奏会
               中山晋平 作曲,野口雨情 作詞
   5.平和の為の祈り
       第二回くさぶえ演奏会
               山本直忠 作曲,山本直純 編曲
   6.古き屯営
       第三回くさぶえ演奏会
               アメリカ民謡,滝田和夫 訳詞
   7.竹田の子守歌
       第四回くさぶえ演奏会
                     京都伏見竹田民謡
   8.桃花源
       第五回くさぶえ演奏会
                   さだまさし 作詞 作曲
   9.山寺の和尚さん
       三菱名古屋合唱部と合同演奏
              服部良一 作曲,市川都志春 編曲
10.流浪の民
       三菱名古屋合唱部と合同演奏
             シューマン 作曲,石倉小三郎 訳詞
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 日帰りのハイキングや一泊旅行、合宿練習の思い出も懐かしい。
 中でも、札幌盲学校時代の教え子たちが作る『いずみコーラス』を招待して、ジョ
イント コンサートを成功させたことは、私の一生の思い出となった。
 当日は観客が300人くらいしか入らなかったが、第一〜第五ステージまでのプロ
グラムは、いずれも素晴らしい演奏だった。


 さて、一つの団体を運営するにはそれなりの苦心があって、総会や打ち合わせ会、
団長の選出と役員交代、曲目選定や練習計画にも気を配る必要がある。勿論、気心の
分かった友人やボランティアの人たちが推進者・協力者となって尽力してくれたお陰
もあり、とりわけ、私の指導に忠実かつ熱心に従ってくれた団員の支えがあったれば
こそ、20年間に渡る常任指揮者の重責を全うすることができたのである。

 限られた時間の中で、いかに能率的にコーラスを充実させるかが私の最大の課題で
あり、声を嗄らして練習用テープを録音したり、腕が痛くなるほど沢山の点字楽譜を
複写したりして、団員に配布したものだ。

 指揮者として私が最重点を置いたのは「正しい音程」であった。極端に言えば、指
導の全てが「正確な音程で歌うこと」に集約されたと言ってよい。
「音程は二の次でよい。正しい発声法を身に付ければ、自然に音程も定まってくるも
のだ。」
「歌は心だ。幾ら音程が良くても表現力が足りなければ感銘を与えることはできな
い。」
 一面において確かにそれは正しいかも知れない。しかしながら、『あけぼの合唱団』
の特色を出すために、また、少なくとも私が指揮者を勤めている以上、「音程」をこ
そ最も大切な要素とすべきであり、この理念は今でも間違っていないと確信している。
 私は『絶対音感』は無いけれども、相対的な音感には過剰なくらいに自信を持って
いる。故に、上に述べた通り「音程重視」の特訓が中心の練習とならざるを得なかっ
た。
 ところが、それをあまりにも強調し過ぎたために、一部の団員に負担となったよう
だ。あるいは、歳をとってきた私が、余計に頑固に「音程」に拘るようになったのか
も知れない。『不満』とまでは言わぬまでも、十年一日のごとき私の指導法に変化を
求めたくなるのはしごく当然であろう。
 団員の気持ちを察した私は、副指揮者に指導を任せることが多くなった。その副指
揮者が遠方へ転勤してしまうと、さらに新しい指揮者を捜す必要に迫られる。
 幸いにも、プロの若い女性の指揮者を見つけることができ、あけぼの合唱団は転換
期を迎えた。私の指導に足りなかった専門的な発声法、魅力溢れる雰囲気、美しい歌
声、優しい人柄……。私はこの指揮者なら安心して『あけぼの』を委ねることができ
ると考えた。

 私は疲れた。コーラスにではなく、人生そのものに疲れた。
 歳をとって、体力も精神力も往年の勢いはなく、そして、何よりも人生の目的を見
失ってしまったようだ。
 人の世の矛盾・空しさ! 私にロマンを捨てさせ、生き甲斐を無くさせ、爽やかで
常に前向きに努力する姿勢を忘れさせたその原因は何なのか? 人か、仕事か、環境
か、年齢か? 必然か、偶然か? 多分原因は私自身にあるのだろう。

 とにかく、私は定期的にコーラスに出かけるのがおっくうになった。歌唱力が衰え
て、思い通りに歌えなくなったせいもあるだろうか。
 1年ほど前、私はついに『あけぼの』を退団した。皆が随分引き留めてくれて本当
に申し訳なかったが、心を鬼にして合唱団を去った。


                  [1996年3月22日   竹木貝石]
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