AWC    13 尺八


        
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★タイトル (GSC     )  96/ 9/22   0:15  ( 68)
   13 尺八
★内容

 (以下は、大分前に書いた文章である。)

 伊藤香山(こうざん)先生は今82歳、めっきり足が弱くなられたので外出は難し
いが、時おりお訪ねすると、まだお元気で、晩酌もかかさないとのことである。
 尺八の方も、往年のような素晴らしい音色は出せないらしく、ご自分でも歯痒く思
っておられるが、まだまだ夢は大きい。
 先生は西園(せいえん)流宗家小林西園先生の相談役になっておられる。

 伊藤先生が是非盲人に尺八を教えたいと思いたち、名古屋盲学校を訪ねられたのが
今から7年前の11月のことだった。
 まず職員の中から習いたい希望者を募り、手解きしてから、生徒にも伝授していっ
て、視覚障害者の中に広く尺八を普及させようと言うのが、香山先生の夢であった。
 当初10数名いた希望者も、その後5名に減り、新しく2名を加えて、今7名の教
員が『香風会』を組織し、日々尺八の研鑚を積んでいる。

 香山先生の熱意は凄まじいもので、弟子の方が叱咤激励されている。
 私たち全員に高価な尺八を持たせてくださり、毎週学校へ無料で指導におもむいて
いただいた。
 発表会には、日本で一流の筝曲伴奏者を頼んでくださるので、練習もおろそかには
できない。

「わしは是非、目の不自由な人に尺八を教えたい。そして弟子から弟子へと広げてい
って、日本全国はおろか、世界中に普及させるのが自分の夢だ。どうかみんなも頑張
って欲しい。」
 伊藤先生はいつもそう言っておられる。その熱意に励まされ、また香山先生の柔和
なお人柄に心服して、私たちは尺八の勉強を続けているのである。

 にもかかわらず、1年目より2年目・2年目より3年目と段々怠け始めて、どうも
伸び悩みを感じ出したこの頃である。
 一番の苦しみは暗譜だろうか? なにしろクラシック音楽と違って、拍子の数が定
まっていないし、似たような節が随所に出て来るので紛らわしく、すぐ別の曲の方へ
行ってしまう。10分程度の曲を全部覚えるのに2か月はかかり、覚えた後も毎日吹
いていないとたちまち忘れてしまうから、曲数が増えれば増えるほど練習に時間をか
けなければならない。
 私も一時は毎朝早く学校に来て、始業前に練習していたのが、近頃はとんと吹かな
くなった。例の熱しやすく冷めやすい性格がソロソロ表れてきたに相違ない。

 以下、今までに習った曲目の題名を列記してみる。多くは『三曲』と言って、琴・
三弦(三味線)・尺八で合奏する曲である。
 黒髪・露の蝶・雪・金剛石・六段の調べ・大内山・千鳥の曲・四季の曲(春 夏
秋 冬)・熱田の宮・茶音頭・ままの川・新娘道成寺など、箏曲にたしなみのある人
にはなじみの曲である。
 上の古曲に対し、宮城道雄作曲の『新曲』(と言っても既に古今の名曲となってい
るが)には、春の海・春の夜・唐砧などがある。


 伊藤先生が外出困難になってからは、同じく西園流の小原静流先生に出張指導を受
けている。
 小原先生は40代のバリバリなので、伊藤先生とはまた違った意味で魅力がある。
小原先生も非常に温和なお人柄で、指導力があり、教養の広い人である。
 尺八は吹く人によりそれぞれ音色が異なるが、香山先生の優雅な音色に比べ、小原
先生の音は豪放だ。特に小原先生の本曲(尺八だけで吹く曲で、仏教的思想を表現し
た物が多い)の演奏は見事で、一生かかっても追い付けない素晴らしい芸術である。


 年齢とともに邦楽のよさが分かってくると言われ、私も少しずつではあるが、西洋
音楽と違った味わいが感じ取れるようになってきた。


                       [1982年12月20日]

 (その後、伊藤香山・小林西園の両先生は亡くなられ、小原静流先生が、西園流の
5代目家元を受け継がれた。)
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