AWC    9 合唱 (1 続き)


        
#4761/7701 連載
★タイトル (GSC     )  96/ 9/22   0:14  (108)
   9 合唱 (1 続き)
★内容

 いよいよ東京行きの日が来た。
 朝夕欠かさずうがいを励行したにもかかわらず、風で喉を痛めて歌えなくなった者
も出た。
 総勢16名に引率教員3名、普通列車の旅も何かと楽しかった。


 コンクールのプログラムは多彩で、童謡の部・歌曲の部・器楽の部に続いて、合唱
の部にも8校が参加していた。
 元来、盲学校は生徒数が少ない上に、年齢がまちまちだし、何よりも指揮棒を見て
歌えないのがハンディとなって、一般高校の合唱のレベルとは到底比較にならない。
 とはいえ全国大会ともなれば、さすがに強豪は多く、各校それぞれに特色を生かし
て、皆素晴らしかった。とりわけ、埼玉盲学校の女声合唱は、際立って美しいボーイ
ソプラノのオブリガートがみごとに調和して、聴衆を魅了した。

 私たちは終始不安の連続だったが、YS先生は、
「けっして恐れるに当たらない。戦わずして既に優勝間違いなし。」
 と断言された。
 演奏の途中、こっそり会場を抜け出して、裏庭に出た私たちは、YS先生の最後の
指導を受けた。言うまでもなく、伸びやかな発声と歌詞の表現法である。音程とリズ
ムの正確さについては、既に1ケ月の私の特訓により絶対の自信があった。


 やがて順番が来たので、舞台に上がり、きちんと整列して、静かに歌い始めた。
 1曲目は〈故郷〉という短い合唱曲である。

   山は青き
   アア我がふるさと
   いざや別れん
   アアふるさとよ
   浮き世の風
   吹きすさびて
   住み家失せにし
   アアふるさとよ

 ところが、最前列に座っていた子どもが、歌に合わせて足でトントン拍子をとりだ
した。初めはよかったが、次第にそのテンポが乱れてきて、指揮棒を使わない私たち
の合唱は大きく惑わされた。
 私は「しまった!」と直感したが、すぐに拍子の音が止んだので、再びコーラスは
平静な速さと調和に戻ることができた。
 先生が飛び出して行って、子どもを止めたのだとは、後で聞いたことである。

   アア名残りおし
   名残りおしや名残りおし
   アア我がふるさと
   アアふるさとよ…。

 最後は4拍延ばして、ぴたりと止めた。
 会場はしんと静まりかえっている。

 2曲目は〈権兵衛と田吾作〉、これは練習通りユーモラスな感じに歌い上げること
ができ、途中、2番の歌詞が可笑しいので、会場から笑い声が返って来たのも嬉しか
った。

   権兵衛が 種蒔く
   権兵衛が 種蒔く
   権兵衛が パーラ パラパラパラパラ
   権兵衛が 種蒔く
   権兵衛が 種蒔く
   権兵衛が パーラ パラパラパラパラ
   権兵衛が 種蒔けば
   カラスが 後から
   ほじくる

   田吾作 カラスを
   田吾作 追いかけ
   田吾作 ホーホ ホッホッホッホッ
   田吾作 カラスを
   田吾作 追いかけ
   田吾作 ホーホ ホッホッホッホッ
   カラスが アホー アホー
   鳴いて 飛んで
   逃げた。

 団長の私は、胸が躍り、足の震えを覚えたが、他の団員たちは冷静だったと言う。

 成績発表を待つ間も、気が気ではなく、優勝できなかったら、学校へ帰ってなんと
詫ればよいのか、責任の重さを今更のように痛感した。

 閉会式で、井上武 審査委員長から講評があって、
「合唱の部 第1位 愛知県立名古屋盲学校!」
 と聞かされた瞬間から、私たちは有頂天になった。
 それも無理のないところで、コンクールに派遣してもらうに当たり、YS先生・校
長先生・教頭先生・生徒会顧問の先生方に何度も交渉し、生徒たちを説得し、団員同
士励まし合って練習を重ねてきた結果、ついに栄冠を勝ち獲ることができたのである。


 帰りの東京駅のプラットホームで、列車を待つ間、私たちはあらゆるレパートリー
を声を限りに合唱した。無論乗客に迷惑だったし、注目を引くどころの騒ぎでない。
 引率の先生たちは、歌うのをやめさせなければならないと思いつつも、せっかく気
をよくしているのだからと、大目にみてくださったよし…。


 ともあれ、これらの出来事は私の生涯における最も楽しい思い出の一つとなった。

 その後、一般高校の合唱コンクールに出たいとか、日本盲人合唱団を組織したい、
などの抱負を夢見たものだが、実現には至らなかった。


 大学卒業後、私は札幌盲学校に赴任し、10数年後に名古屋に戻って来た。
 その頃、視覚障害者と晴眼者(目の見える人たち)の合同による、混声〈あけぼの
合唱団〉が結成され、友人の推挙で、私がその指揮をすることになった。
 指揮者として勤めた20余年間に渡る〈あけぼの合唱団〉の活動については、さら
に長い物語になる。
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