AWC レディア・サーガ =第一章(9)=   悠歩


        
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レディア・サーガ =第一章(9)=   悠歩
★内容

 見えない何者かの手によって、抱き上げられるかの様だった。いや、事実抱き上げ
られていた。
 浮かび上がったリアの周りの空間から黒い霧が滲みだし、やがて人型を成した。
 魔導の者であることを示す、黒いマントに身を包んだ銀髪の女。女はリアを抱き上
げたまま、床を這い蹲っている頭と片腕だけの傀儡師に凍る様な視線を送った。
「ヴォ………ヴォルヴァ様」
 女の名を口にした傀儡師の声に、恐怖に震えていた。
「とんだ失態だな、グァーバよ」
 冷ややかなヴォルヴァの声。全く感情はこもっていないのだが、傀儡師にはそれが
怒りを押し殺している様に聞こえた。
「すぐに奴等の後を追って、必ず抹殺してみせます。し、しかし、何故ヴォルヴァ様
が、このような場所に………。ここはカダーブル様の命によって、私が任されたテリ
トリーです。如何にヴォルヴァ様と言えども………」
「分からぬか? グァーバよ」
 傀儡師の疑問に答えたのはヴォルヴァでは無く、別の男の声だった。
「そんな!」
 慌てて傀儡師は、その不完全な身体を滑稽な形で捻り、後ろを振り返った。
 その視線の先の空間が僅かに揺らめき、長い黒髪を持つ男が現れた。
「ジェノ様」
 自分より遥かに格上の者が二人も同時に現れた事に、傀儡師は戸惑った。何か自分
の知らないうちに、重大な事態が起きたに違いない。
「グァーバよ、貴様に未来は無いぞ。奴等を逃がした事より、更に重大な失態を犯し
たのだからな」
 薄笑いを浮かべながらジェノが言った。
「しっ、失態? わ、私が何を………」
 もはや再生速度を上回る勢いで身を焼く炎も、構ってはいられない。この二人に睨
まれては、不死身の傀儡師とて生き延びる可能性など有り得ない。
 助けを求める様に、傀儡師はジェノとヴォルヴァの双方を交互に振り返った。
 そんな傀儡師を無視する様に、ヴォルヴァはリアの身体をそっと床に寝かした。そ
して軽く左腕を横に振ると、周辺を取り囲んでいたいた炎は、あたかも蝋燭の炎を吹
き消すかの如く消え失せた。
「その娘が何か………」
 傀儡師の身体の炎も、ヴォルヴァの力によって消えていた。そのヴォルヴァの態度
から、リアが何か重要な人物で在るかの様に思われる。
「知らぬとは言え、とんでもない事をしたな、グァーバ」
 相変わらず薄笑いを浮かべたまま、腕組みをしてジェノが言った。
「ヴォルヴァ様………、お答え下さい! その娘は何者なのです? 光の者では無かっ
たのですか」
 ヴォルヴァは何も答えない。リアの胸に右手を充てて、一心に何事かを念じている。
やがてその右手から、黒き光が発せられ、リアの身体を包み込んで行った。
「闇の波動? な、何故、光の者にその様な!!」
「覚醒が不完全故、貴様如き下種な輩の術に堕ちてしまわれたが………」
 それまで無感情だったヴォルヴァの言葉に、明らかな怒りが込められていた。
「ひっ、まさか………その娘………いえ、そのお方は」
「気づくのが遅かったな、グァーバよ。貴様の察し通りだ。どうする? 俺はともか
く、ヴォルヴァは貴様を許すつもりは無いようだぞ」
 ジェノが言うように、リアへの処置が終わればヴォルヴァは自分を消しに来るに違
いない。傀儡師はヴォルヴァの方をじっと見つめた。
「う、ううっ」
 死んでいた筈のリアが小さく呻いた。それまでリアが死んでいた事は間違いない。
術を施し、自らの肉体の一部としていた傀儡師には、直接触れて確認していなくとも
それは分かる。決して気を失っていたのではない。ヴォルヴァが蘇生させたのだ。
「これで……心配は無い。暫くすれば………お目覚めに……なられよう………」
 ヴォルヴァは肩で息をしていた。リアを蘇生させるため、自分の生命力を分け与え
たのだ。従って、今のヴォルヴァの力は本来の半分以下となっている筈だった。
「最後のチャンスかも知れんな」
 まるで独り言のようにジェノが呟いた。
 その呟きを聞いて、傀儡師は意を決した。
 生き延びるためには、ヴォルヴァを殺すしかない。下克上こそは、傀儡師たちの主
奨めるところである。
 もしヴォルヴァを倒す事が出来れば、無条件でその地位が傀儡師の物となる。力有
る者として認められれば、主もやすやすと傀儡師の命を奪ったりはしないだろう。
 或いはそれでもリアに対する無礼を、主は許さないかも知れない。だが何もしない
よりは可能性が有る。
『まともにやったところで、勝ち目は無いが………』
 しかしリアに闇の蘇生術を施したヴォルヴァになら、勝算も有るかも知れない。最
上位の魔導師にとっても、それ程蘇生術とは大仕事なのだ。
 傀儡師は肉体の再生を止めた。不完全な身体と言う不利は有るが、それでも女であ
るヴォルヴァに腕力では勝る自信が有った。ならばこの一撃の為にも無駄な再生で、
力を浪費する事はない。ヴォルヴァを倒した後、ゆっくりとやればいいのだ。
 ヴォルヴァの注意は、まだリアに向けられている。この機会を逃す事は出来ない。
 必殺の一撃を加えるべく、傀儡師は跳んだ。

 それは一瞬の出来事だった。
 自分に向けて殺意をもって迫り来る傀儡師に対し、ヴォルヴァは僅かに顔を上げた
だけだった。
 慌てた様子はまるでない。その事態を予測していたかの様に、落ち着き払った表情
で宙を舞う醜い姿を見つめた。
「消えろ、下種め」
 静かに一言そう言った。目が見開かれた様にも見えた。
 次の瞬間、傀儡師の醜い体は消失していた。
「なるほど、存在そのものを消したか」
 ジェノは何か楽しそうな口調で言った。
「ふん、傀儡師をけしかけていたようだが、この程度の者に私が後れをとるとでも思っ
たか」
「いいや、グァーバ如きに倒されるのなら、俺も楽なんだがなあ」
「相変わらず、喰えん奴め。何故貴様がここにいるのだ?」
「ふふっ、俺とて将来妻となるお方の身を案じているのだよ」
 ジェノは今では静かな寝息を立てて眠っている、リアを見つめて言った。
「貴様の妻………だと? 自惚れるなよ、ジェノ」


 漆黒の闇。
 かつては「光の園」と言われた場所も、今では冷たい闇に支配されていた。
 慈悲深い王の居た玉座には、黒き甲冑に身を包んだ者が居た。面頬によって顔を覆
い隠しているので、その表情は伺い知れないが、酷く疲れたように玉座にもたれ掛かっ
ていた。
 その前には四人の者達が、恭しく跪いていた。そこにはジェノとヴォルヴァの姿も
在った。
「奴等が動き始めた………光の者たちが………正当なる“光の継承者”を得て」
 黒い甲冑の闇の王が嗄れた声を出した。それは気の弱い者が聞けば、即座に心臓が
停止してしまいそうな程、禍々しさに満ちていた。
「気分がいい………とても気分がいいぞ。かつてゼウナスが我を封じたように、奴等
は我を封じに来るだろう………。我が力、未だ不完全なれど、我が血は三千年ぶりの
戦いに興奮している」
 四人はまるで石像のように、身じろぎ一つせずに彼等の主の話しを聞いていた。
「命じる………奴等を消せ。我はゼウナスの後継者との戦いを望むが………貴様等を
倒す力無ければ、我の相手にはなるまい。
 そして、光の者共を貴様等の誰かが倒したのなら、その者を我の後継者としよう。
その者に我が娘、くれてやろう」
 その言葉を合図に、玉座の後ろから侍女に付き添われた娘が現れた。少し前までは、
リアと名乗っていた娘が。
「我が名はシャドウ………プリンセス・シャドウ。我が父の言葉に従いて、父の認め
た者の妻となろう。
 我は選ばぬ。野獣の如き者、腐肉の身体を持つ者であろうと、父の認めた者であら
ば、喜んで抱かれよう。もちろん女でも構わぬ。
 我が破瓜の血を受けし者、大いなる力を手にするであろう」

                  第一章・完





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