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★タイトル (ARJ ) 96/ 5/ 8 19:37 ( 99)
雑談日記(8)名探偵が3人 みのうら
★内容
ということで、今回は英国旅行関係である。
日付順に書いて行くと途中でコケそうなので、印象の強かった事柄から始めよう
と思う。
旅行期間は96年3月7日成田空港発、3月16日帰着。同行者は我が実姉と友
人。当時のレートは1ポンドおよそ175円。ご参考までに。
出国前:貴族探偵ピーター卿の場合
ポアロやホームズほど有名人ではないが、「ピーター卿の事件簿」で知られるピ
ーター卿はロンドンW1区ピカデリー110Aに住んでいる。どれくらい有名じゃ
ないかというと、同行者の二人は彼を全く知らなかった。本の解説には有名だって
書いてあるのだが。
とにかくそこに行けば記念のプレートくらいは見られるのではないかと期待に胸
膨らませて私は地図を広げた。ロンドンW1区……? 地下鉄駅「ピカデリー・サ
ーカス」はすぐに発見できた。しかしW1区は発見できない。地図を見るとピカデ
リー・サーカスはあっても「ピカデリー」はない。うーむ、ピカデリー・サーカス
は駅名じゃなくて地名でもあるのだろうか。地図には思いっきり、一帯「ピカデリ
ー・サーカス」って書いてあるしなあ。まあ現地に飛んで時間があったら現地の地
図でも買って探してみよう。
敗因と教訓。
1:OLのおねーちゃんが買い物専用に使うガイドブックの地図で買い物以外の場
所を検索してはいけない(いや、だって一番レストランが載ってたから)。
2:事前計画の「時間があったら」はもはやすでに「そこには行けない」と同義語
である。
それにしてもピーター卿の住居にはなんらかのしるしがあるのかなあ。どっかで
見たことあるような気もするのだが。まー一応スコットランドヤードも見たし、ト
ッテナムコートロード(作中ではトッテナムコート通り)あたりも歩いたし、よし
とするか。
日曜日:「あの」シャーロックホームズの場合
我々が宿泊したリージェンツ・パーク・ホテル・ヒルトンの最寄り駅はあの「ベ
ーカーストリート」駅である。駅にはあの鹿撃ち帽を被りパイプをくわえたホーム
ズのシルエットがタイルに焼き付けられ、駅に行く途中ではホームズ関連商品専門
店を発見。ハドソン夫人の手料理(?)が食べられる店もある。素晴らしい。
お約束で見に行ったカムデン・マーケットがあまりにもつまらなかったもので、
我々はリージェンツパークをてくてくと引き返し、ベーカー街駅前に着いた。こう
書くと簡単に聞こえるかもしれないが、実際には1時間半くらいかかったのだ。引
き返しに。公園を突っ切る通りになっている橋が工事中ってこともあったが、どこ
の公園もめちゃめちゃ広いから一苦労。
地図を広げる。事前に示し合わせて各人別々のガイドブックを購入したのが良く
なかったかもしれない。もちろん私の地図は役に立たないので姉と友人が探す。…
…シャーロック・ホームズってのはなんかのチェーン店かあ? というくらい地図
に印がある。
シャーロック・ホームズ・ホテル。私:「んなもん存在するかい。きっと誤植で
そこが目的地であろう。あの辺、いかにも建物がそれっぽいではないか」(注・実
在します。どんなとこや(笑))
シャーロック・ホームズのおみやげ屋。ベーカー街221Bのプレート。しかし
そのあたりは背の低い、小振りな建物しかない。やはりハドソン夫人の賄い付き下
宿なら、とんがった屋根と煙突を持つ、煉瓦組みの古風な建物に違いない。しかも
ベーカー街はそんな建物だらけなのである。
さんざん検討を重ねた結果、番地を見ながらとうとう現地を発見する。その場所
はおみやげ屋の向かい、大きな深緑の看板を掲げたハドソン夫人の店の2Fに存在
したのだった。入り口がただのドアなのと、料理屋の看板に気を取られて気付かな
かったのだ。
幸い通りかかった時刻に本物か解らないが警察官が番をしていたので解ったのだ
った。 やけににこやかな彼に導かれてドアをくぐる。ものすごく狭い。入り口に
は目つきの悪い、縮れた金髪を肩に垂らしたメイド姿の若い女が5ポンドを要求す
る。引き替えに手書き風のハドソン夫人のメッセージをくれる。「ハドソン夫人の
賄い付き下宿」とかなんとか宣伝文がかいてある……らしい。
みしみしと鳴る木の階段を上って2Fへ。英国の古い建物の階段に廊下はどこも
ここのようにウグイス張りである。やはりニンジャを防ぐためか。
ちなみに英国では日本で言う1階をG(グランドフロアだと思う)、2階を1F
(ファーストフロア)と呼びます。まぎらわしいので日本風で。
暖炉があかあかと燃える。寝椅子に実験器具が雑然と置かれた机。シルクハット
と鹿撃ち帽、パイプの置かれたテーブル。ちと狭いが、いわゆる「あの」ホームズ
氏の部屋であった。実際発表された当時、ホームズが鹿撃ち帽を被っていなかった
のはみなさまご承知の通り。
ここで私は自分を呪う。生涯呪い続ける。何故、どうして一体、このときこれだ
けで満足して、回れ右して帰ってしまわなかったのか。まだマダムタッソーの蝋人
形でも冷やかしに行っていた方が良かったのだ。
取り上げたシルクハットはプラスティックのまがいもので、ビロード風のコーテ
ィングがはげちょろになっていた。鹿撃ち帽は、よれよれだった。寝椅子もはげち
ょろで、隅のテーブルにセットしてある食器には、何故か白(だったんじゃないか
なーと思われる)ペンキの飛沫がこびりついていた。そして欠けていた。あの、大
粒の真珠はへなちょこの貝殻に入れられて、いかにもまがいものらしいはげちょろ
だった。女装用の赤い鬘はぐしゃぐしゃだった。
所狭しと飾ってある記念品は、埃だらけだった。うううう、わざとらしく飾られ
た記念品が安ぴかもののまがい物であるのはまあ、我慢しよう。何もかもはげちょ
ろなのも我慢しよう。しかしメイドの恰好をしたねーちゃんたちよ、何人もいるね
ーちゃんたちよ。何故あんたたちははたきの一つもかけないのだ。テーブルくらい
拭いたらどうなのか。窓のペンキは塗り直せ(あー、塗り直したから食器にペンキ
が)。
ふふふふ。しかしこれだけでは悲劇は終わらないのだ。さあワトソン君の私室へ
行ってみよう。嫌だと言われても行くのだ。
頼む。ベッド。シーツはせめて月に1回とは言わない、3月に1回……いや、半
年、1年に1回でもいい。取り替えてくれんか。こういったアトラクション(?)
の家具に座ったり寝ころんだりする客というのはお約束に多いのだが、しかしこの
ベッドに寝転ぼうという勇気ある者は、私が呆然と立ちつくしている間、幽霊のよ
うに絶望にとりつかれて部屋をさまよっている間、ただの一人もいなかったのであ
る。子供でさえも。ある意味では家具調度を壊されないための効果的方法なのか?
??
そしてベッドよ、子供用か? どう考えても大人の男が眠れるサイズではない。
私だって余るぞ。
医者の部屋は、探偵の部屋よりもさらに汚くて埃に満ち満ちていて、薄暗かった。
光が入らない為だけではない。決してない。うううう、鞄。暖炉の上にある写真。
埃。埃以外の何が、あの部屋にあったのか今ではようく思い出せないくらい暗く、
みじめな部屋であった。駄目だ、もう涙でエディタが見えない。
だが、勇気を奮って書かねばなるまい。ハドソン夫人の食堂が、どんなだったの
かを。