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推理小説的読書法「『天使の歌声』」6 永山
★内容
翼の心の中に甦る記憶の断片。
それは、3年前に翼が入院していた病院での出来事だった。
「パパ。………なんで、泣いているの?」
翼は無邪気に質問していた。泣いている原因を、翼本人は知っていた。
そう、自分の体が不治の病である事に。すでに知ってしまってから、もう一年
程経つだろう。すぐに悪くはならなくても、いずれは………ということもだった。
「翼や………パパはこの世で一番に、おまえの事を愛している。ママだっ
て翼の事を一番に愛しているに違いない。どんな事があっても、おまえは
私の娘だよ。」
翼の父親は、涙をこぼすまいと必死で堪えていた。普段は力強い父親が
そんな態度に出たことに翼は印象的に感じていた。
↑抽象的な表現。「強く印象に残った」とか?
手術室へ向かう途中、翼は母親に寄り添われて手を握られていた。その
おかげで、翼の心は不安という気持ちをやわらげる事ができたのだ。
そして、手術室の扉の前で翼に言い聞かせるように語った母親の胸の内。
「翼………おまえの命は、おまえ一人のものではないのよ。」
翼は両親の想いを深く噛みしめしっかりとうなずく。そして、口元から微かに
流れてくる歌声。翼の大好きな歌。
(※歌詞部分カット)
「調子はどうだい?」
未希の目の前に、透の優しい顔が現れる。ここは、未希の部屋のベッドの上だ。
あたしはどうしたのだろうか?と、はっきりしない頭で未希は自問する。
(……たしか、透さんがちょうど来た所で『MSE』の制御システムがダウンし
て…強制スリープモードにされたんだっけ………)
「……ったく、無茶するんだから………おまえ、ちったぁ身体を大事に扱えよ。」
透は、心配そうに未希の顔を見る。そんな透の顔をじっと見返していた未希は
はっとなって起きあがる。
「ねぇ!翼ちゃんは?翼ちゃんはどうなったの?」
「大丈夫、もう平気さ。彼女は普通の女の子に戻ったよ。」
「原因はやっぱり………」
「ハード関係だな。生身の頭脳と機械の身体を繋ぐ重要なコネクターであるバイ
オチップ………未希の推測通り、深層心理の感情を増幅させちまう欠陥品だった
らしい。…………それから彼女の右手な、極秘に開発されていた戦闘用パワード
アームが仕込まれていたよ……調べてみたところ、やっぱり7課の人間が一枚噛
んでいたようだ。おおよそサイボーグソルジャー、あるいは軍事アンドロイドの
開発の為に、実験的に『MSE』に使用していたんだろう。そして、患者には技
術治療費の割引を約束する。………これは勘だが、もしかしたらバイオチップの
欠陥も、仕組まれた事なのかもしれない。」
「そんな………翼ちゃんは、あんなに悩んでいたのよ。けして消える事のない傷
をあの子は背負わされたのよ。それが、人為的なものだったなんて………あたし
許せない。」
未希は興奮して立ち上がろうとするが、透はそれを止める。このままでは、立
丘重工に殴り込みにでも行きかねないと悟ったのだ。
「待て!バイオチップの欠陥が人為的なものだったという証拠は何一つないんだ。
まだまだ発展途上の科学だからな、証明は難しい。それに、証拠があったとして
も無駄だ。相手が大きすぎる。おれたちは逃げる事で精いっぱいなんだ。」
「でも………翼ちゃんの受けた傷はどうやっても消せないのよ!なんでそんなひ
どい事ができるの?同じ人間同士で………」
未希は透の胸を叩きながら泣き叫ぶ。
「愚かなのさ………人は一人では生きていけない。だから、人と人の間で関わり
を持って社会を構成していく。……大昔はそれで、人々の暮らしはうまくいって
いたんだ。しかし、人がそれぞれ自分だけの欲を持ち出すようになってから、そ
れが少しずつ狂い始めたんだ。人と人との対等な関わりから、人を押し退けて利
益をえるようになり、今となっては他人を利用してでも自分の利益や欲を得よう
とする……………悲しい生き物さ。」
「………だけど……だけど、愚かな人間ばかりじゃない。透さんや綴さん、和美
や滝沢君や学校のみんなはそんなに愚かじゃないよ。………あたしは、みんなが
好き………だからこそ、あたし翼ちゃんの辛そうな顔を見ていられないの。」
「世の中、どうにもできない事がたくさんあるんだ。たとえそれが、人為的に仕
組まれた事でもだ………」
↑この辺りの会話、読むと少し気恥ずかしいのですが、未希が人間でないこ
とを考えると、これで自然なのかもしれませんね
「………そんなの悲しすぎるよ。」
未希は顔を押さえる。自分以外の事で悲しむ彼女の人の心を思いやる気持ちは、
今までの受け身的な感情とはちがって、もどかしくやるせない気分であった。
「そう悲観するな。たしかに、過去の事実は消す事はできない。だけど、大事な
のはこれからの生き方だよ。未希だってそう思って、今まで生きてきたんだろ?
だったらおまえがどうこう考えても始まらないだろ。」
「………うん。」
「未希、おっはよー。」
和美が未希の肩をぽんと叩く。
「あ、おはよ………」
「どうしたの、元気ないじゃん。」
和美は、いつもと様子の違う未希を心配しているようだ。
「……そ、そんなことないよ。」
未希は無理に作り笑いをするが、すぐに和美に見破られてしまったようだ。だ
が、和美はそのことで深入りしてくることはなかった。ただ、何も語らず微笑み
を返している。
そんな二人の前方に勇生の姿が現れる。だが、こちらもいつもの調子ではなく
元気がないようだ。
「水口…………ちょっといいか?話があるんだ。」
勇生と未希は互いに見つ合う。
「………このこのこのー、未希ったらちゃっかり滝沢君と………」
和美がひじで未希を軽くこずく。
「違うわよー。あたしは………」
未希はそう言い訳をしながら、心の中ではぜんぜん別の事を考えていた。それ
は、一言で表せば『不安』の二文字であろう。
「なによ?話って………」
校舎の裏庭で未希と勇生の二人は向き合って立っている。
その勇生の表情や口調には、いつもの人懐っこさは感じられない。何か少しぎ
こちない様子だ。
あれから三日たったとはいえ、ショックは隠せないのだろう。あの時、透とと
もにゴーストタウンへ戻ったと勇生は、ショッキングな未希の身体を見てしまっ
たのだ。未希の身体が『MSE』であることを。
未希の首の周りの包帯が、それが夢でなかったことを示している。
「水口、おまえの………」
「………驚いたでしょ?驚きついでにもう一つ、あたしの秘密を教えてあげる。」
未希は無理に作り笑いをして、勇生に応対する。
「……………」
勇生は、その返す言葉もなくただ立っているだけだった。
「あたしは、人間じゃない……………」
「その事なら聞いたよ。おまえのアニキ……いや、透さんから。………はっきり
いって、ショックでかかったよ……まだ頭の中がごちゃごちゃして、気持ちの整
理がつかないよ。……でも………でもさ、これだけは言っておきたいんだ。おま
えが、何であろうとおまえへの気持ちは変えたくないんだ。………同情なんかじ
ゃない、おれは………その………」
勇生はそれ以上の言葉をためらった。だがそれは、未希を好きになることへの
抵抗ではなく、勇生の照れがそうさせていたのだろう。
「滝沢君………」
「………つまり、ごちゃごちゃ考えて、それで同情してってんじゃなくて…純粋
におまえのダチでいたいんだよ。」
未希はその言葉を聞いてにっこり微笑む。勇生が未希自身が信じていた通りの
人物であったことでだ。
「ありがとう……これからも、よろしくね。」
「……ああ、それからな……おまえに手紙を渡してくれって………」
「翼ちゃんから?」
「彼女、どこか遠くに転校するそうだ。それで昨日、エアバスで発ったんだよ。
俺さ、おまえの一言が気になって………彼女に謝りたくてさ、ターミナルに見送
りに行ったんだ。一度でも彼女を化け物だと思った自分が恥ずかしくて…彼女に
すまないとも思って………そしたら彼女、ありがとうっていっておれに笑いかけ
てくれたよ。」
そう語りながら、勇生は未希に白い封筒を渡す。それには、かわいらしい文字
で『未希さんへ』と書いてあった。
『 前略、未希さんへ
わたしは元気です。もうだいぶ落ちつきました。死のうなんて考えは、一昨
日の未希さんの言葉でどこかへと飛んで行ったようです。
わたしはあの時、未希さんに出会ってなかったら命というものを無駄に扱って
しまっていたでしょう。過去の傷は消し去る事はできません。だけど、未希さん
が教えてくれた生きる勇気を大切に持ち続けて、未来の自分を創りたいと思いま
す。
最後になりますが、直接別れのご挨拶を言えなかった事が残念に思います。
だけど、生きていればまた会えますよね。わたしは信じています、またどこか
で会えることを。
坂上 翼
P.S 未希さんの好きな「翼をください」のFDを同封します。これは、音
↑
二十一世紀にFDでは時代遅れかも。執筆当時はFDでよかった。けれど、
今の私達(作者も読者も含む)は光ディスクやMDの存在を知っています。
再UPするしないに関わらず、とりあえずMO(OMD?)あるいはMD
等に改めておくといいのでは。技術の発達というものは作家にとっては、
時に厄介なものですね。
楽の先生に頼んで録音してもらった洋子の伴奏によるあたしのソロの歌声です。
』
未希はその手紙を読みながら、翼の元気な歌声を思い出していた。
ふと、心の中で歌い続ける翼の声に合わせて、未希はそっと口ずさむ。
その顔には、もう悲しみは消えていた。
雨上がりの青空のように……………
第二章 『天使の歌声』 終わり
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以上、例のごとく、推理小説寄りの考え方ですので、あまり気になさらない
よう。こういう読み方もあるんだなという程度の認識がいただけたら、それで
いいです。断るまでもないでしょうが、私みたいな読者に合わせようなどとい
う気遣いは無用です。
妄言多謝。m(__)m エヴァの洗礼を受けた?「夢天」の完結を心待ちにして
おります。