AWC 推理小説的読書法「『天使の歌声』」5 永山


        
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推理小説的読書法「『天使の歌声』」5 永山
★内容
 未希は必死で翼に体当たりをかける。いくら体力のない未希でも少しは効果が
あったようだ。勢い余って、瓦礫の床へと三人は叩きつけられる。そのはずみで
                ↓「その」が続くので、こちら↑を削っては?
翼の両手は良子から外れたようだ。その良子は恐怖で身体が硬直しぶるぶると震
えている。
 翼に強烈に突き飛ばされた勇生は、ようやく起き上がり事態の把握を行おうと
している。現時点で、勇生には何が起きているのかまったくわからない状態であ
った。
 ただ目の前にいる翼が、どこかで見かけた事があることを思い出していた。
「……翼ちゃんしっかりして!」
 未希は起きあがると同時に翼を揺り起こす。
「…………。」
 翼は目を見開いたまま無言で未希に視線を送っている。その目にはほんとうに
未希が映っているのだろうかと思うほど遠くを見つめているようだった。
 さっきのショックで翼の表情もまともに戻ったようだ。だが、本来の翼の心ま
では取り戻していなかった。
「邪魔をしないで………未希さん!」
 翼の言葉とともに彼女の表情がまたもとの怒りの形相に戻る。今度はその目に
しっかりと未希の事が映し出されている。未希の存在だけは思いだしたようだ。
しかしそれが、ただのとばっちりではない、未希自身への恨みの視線であること
に未希は気づいていなかった。
 呆然としている未希の首へと、翼の冷たく光る右手が食い込む。
「ちょっとまてよ!水口は関係ないだろ!」
 見かねた勇生が、良子のアーミーナイフを拾って翼に向かってくる。
「だめっ!手を出さないで……翼ちゃんに危害を加えないで!……あたしはだい
じょうぶよ。」
 未希は声を振り絞って出す。その目は悲しそうに翼の顔を見ている。
「なにしてるのよ!今がチャンスよ。早くその化け物を始末して!」
 良子がじれったそうに勇生に声をかける。が、未希はその声をかき消すように
大声で叫んだ。
「違う!!……彼女は………翼ちゃんは………人間よ!!!!!!」


 未希の叫びが翼に伝わったらしく、彼女の右手の力が少し弱まった。翼はその
まま動かない。まるで電池の切れた機械人形のようにじっとしている。
「おそらく彼女は『MSE』患者よ。そして、なんらかの異常で感情制御が暴走
して殺人鬼と化してしまった。……翼ちゃんが悪いんじゃない!それを引き起こ
した原因は………佐藤さん!あなたたちなんでしょ?翼ちゃんをそこまで追い込
んだのは………」
 未希の静かな語り口に、良子は黙ってうつむいている。
「だけどよ、どうすればいいんだ水口?彼女を殺らなきゃ、おまえが……」
                     ↑
   うーん、勇生にこんな言葉を使わせるのは……。物語の時代背景にもより
  ますが、「彼女を何とかしなきゃ」辺りで手を打ちません?(^^;) キボーシマス
 勇生は、ちらっと翼を見ると未希の方へと視線をおくる。
「……透さんを………あたしのお兄さんを呼んできて。透さんは『MSE』に詳
しいからなんとか処置できると思うの……だから……早く!」
「待てよ!おまえを置いていけるわけないだろ!」
「あたしは大丈夫っていってるでしょ!……これ以上翼ちゃんに罪を犯させるわ
けにはいかないのよ。」
「でもよ………。」
「お願い!時間がないのよ。翼ちゃんが落ちついている今のうちに手をうたない
と……それとも、あなたも翼ちゃんを人間として認めないわけ?もしそうなら、
あなたも最低の人間よ。あたし、あなたを良い人だと思ってたけど、あたしの勘
違いだったようね。さようなら!」
 未希は涙ながら勇生に訴える。しかし、少し芝居がかった所もあるようだ。
  ↑いくら芝居がかっていても、緊迫した場面にしては長すぎる台詞。私が
  書くなら……「お願い、時間がないっ。翼ちゃんは人間よ! それが分か
  んないなら、あなたこそ最低。顔も見たくない!」てな感じになりますか
「………わかったよ!おまえのアニキを呼んでくればいいんだろ。」
 未希はその答えに、待ってましたとばかりに笑顔を送る。心の奥底では勇生を
信じる所もあったのだ。                ↑
                       この文章は不要では?
「水口!無理すんじゃねぇぞ。やばくなったら逃げちまえ!……絶対死ぬなよ!」
「あたしは、死なないわよ。絶対に………」
 勇生はそれが、永遠の別れでないことを祈ってその場を去っていく。勇生は、
やっと自分の気持ちに気づいたようだ。しかし、その気持ちを伝える事ができな
かった自分に後悔していた。
 そして、未希の別れ際の言葉を必死で信じようとしていた。


 未希は、翼の顔をしっかりと見つめていた。翼の表情に変化が表れてきたこと
を確認する為でもある。今、彼女は必死で自我を取り戻そうとしているのだ。
 未希は、自分の首を押さえている翼の冷たい手をそっと握る。それと同時に、
握っている手に何か水分のようなモノが滴り落ちてくるのに気づいた。
 翼の目には涙が浮かんでいた。それが、少しずつ少しずつ溢れて落ちてくるの
だ。いかにサイボーグの身体で人工の物といえども涙を持っているし、それが感
情で作用することも生身の人間とまったく同じである。
 未希は、翼の意識が戻りかけている事にほっとしていた。だが、その安心は次
の翼の言葉で、少しずつ消されていった。
「…未希さん。逃げて……だめなの………あなたを見ていると……また……もう
一人のあたしが………お願い、逃げて………」
 翼の言葉はそこで途切れた。そして、言葉の代わりにやってくる恐怖。
「翼ちゃ…………」
 翼の右手の握力が再び戻る。今度は容赦なく、未希の首に冷たい手が食い込ん
でいく。そこにいるのは、翼の言う『もう一人の翼』なのであった。
「あたしは、あなたも許す事ができない。………あなたは、勇生さんが好きなく
せに、会えば喧嘩ばかりしていた………嫌いならあたしの勇生さんに手を出さな
                      ↑唐突すぎる。「誰かが見て
                      いた」というのが伏線のつも
                      りかもしれませんが、それだ
                      けじゃ弱い
いで………あたしは自分が『MSE』患者だってわかっているから、勇生さんに
近づく事はできなかったの。だから、遠くから見ているだけで幸せだった。勇生
さんの笑い顔を見つけては喜んでいた。なのに………最近の勇生さんは変なの…
……あなたの事を見かけてはため息ばかりついて、あげくの果てに会えば喧嘩を
して………あたしの勇生さんを返して………返してよ!!!!!!!」
                        ↑「!」が多すぎるんでは
 『もう一人の翼』、それは翼の奥底にひそむ翼自身の歪んだ心であった。その
歪んだ心が『MSE』のシステムの異常により増幅されて、もう一つの人格とし
て形成されてしまったのだろう。
「……そんな……あたしは…………………あたしは関係ないでしょ。そんなにあ
いつが好きなら告白しちゃいなさ………うぐっ………」
 翼の右手の握力が急に上がる。未希の人工声帯が、中でみしみしと音をたてて
壊れ始めた。
「……あたしは、『MSE』よ!人間じゃないのよ!そんな事ができるわけない
でしょ。」
 未希は、この悲しい少女の想いがだんだんと分かってきた。いや、すでに未希
が体験してきた想いなのだ。自分は人間ではない、だから人間と友達になどなれ
ない、そう悲観していた少し昔の自分。
(………だけど、一つだけ違う。あなたはまぎれもなく人間でしょ。)
 未希の心の訴えかけは、翼には届かない。
 外見だけで判断するような奴ならあきらめればいい、だけど世の中の全ての人
間がそんな奴ばかりではない。そして、翼の好きになった勇生がそんなひどい人
間なわけがないじゃない、そう未希は言ってやりたかった。
 しかし、未希の声はもう出なかった。人工声帯はもう押しつぶされてきちんと
機能しない。未希は喉元に微かな痛みを感じていた。それは、痛みというのでは
なく『MSE』にインプットされた単なる外刺激信号である。だが、未希には痛
みに感じていた。それは、翼の心と自分の心の痛みの表れでもあったのだろう。
「さよなら、未希さん………今、楽にしてあげるわね。」
 骨のひしゃげる音と肉のはじける音が不気味に響きわたる。それは、ほんの一
瞬であったのかもしれない。だが、そこに正常な者がいあわせれば、長い間耳に
こびりつくようなそんな感じの響きなのであった。
 一瞬、時は凍りついた。けして直視できない無惨な屍の出来上がりだ。
 そこでいつもの翼なら長居せずにすぐさま立ち去っただろう。だが、いつもと
違う雰囲気に彼女は気づいたようだ。
 翼は血液のこびり着いた右手を見て、信じられないといった感じで未希の屍が
横たわっているであろう床に目を下ろす。
 そこには、喉元をオレンジ色の体液で染めた未希の姿があった。そして、喉元
のえぐられた部分から露出している金属製の物体。それが、人工声帯であること
を翼はすぐにわかった。
「……………」
 翼は声にならない驚きを示し、身体中が震え出す。『もう一人の翼』の人格が
またゆがみだし、本来の翼が戻りだしたのだ。翼は思わず立っていられなくなり
膝を床に着く。
 翼の心の内部でかなりの葛藤のようなモノがあり、彼女の心はもうズタズタに
なっていた。二つの人格が、どちらもが翼自身のほんとうの心であった。いかに
『MSE』のシステム異常でもう一つの人格が増強されたといえども、それは翼
自身のやった事には間違いはない。翼は、その事にやっと気がついたのだ。
 そして、翼の中にある決断が下された。
(死ぬ?………あたしは機械の人形………だから、消滅するのね。)
 翼は、良子の落としていったアーミーナイフを拾いに行く。
(未希さん……ごめんなさい。あたしもあなたのように生きたかったわ。そうす
れば、勇生さんの恋人………ううん、恋人は無理ね。でも友達ぐらいにはなれた
かもしれないわね。)
 翼は横たわって動かない未希を一目みると、落ちているナイフを右手で拾い、
生命維持器官のある左胸へと突き立てる。その彼女の瞳には新たな涙が光ってい
た。
(……さようなら勇生さん……そしてパパ、ママ…………)

『だめーーーー!!!!』
 翼は、ふいに襲ってくる頭痛と、誰かの叫び声を心に感じとっていた。いや、
心に感じとった叫び声は、声ではなかった。一種のテレパシーだろうか、そう彼
女は考えていただろう。
 頭痛に耐えられず、頭を抱え込んだ翼の手からナイフが落ちていく。
『翼ちゃん、ごめんね。あたしのテレパシーって未熟だから、人間の頭脳には変
な刺激をあたえちゃうみたいなの。』
「……未希さん?……未希さんなの?まさか、幻聴じゃないわよね?」
『そうよ。あたしは未希よ。』
「ごめんなさい……ごめんなさい。謝ってすまないのかもしれないけど……あた
し……………」
『あたしは大丈夫よ。』
「でも………いくら『MSE』でも、体液が3分の1以上流れ出てしまえば蘇生
は絶対無理だと………」
『平気よ。だってほんとうのあたしはここにはいないんだもの。』
「えっ?」
『本当のあたしは軌道上の人工衛星の中よ。………あたしは人間じゃないの……
…正確にいえば地球外生物ってトコかな。ある人によって偶然眠りを覚まされた
宇宙人。でも、あたしが知っているのはそこまで、それ以上の事は何も知らない。
まったく記憶にないのよ。自分が何モノで、どこで生まれたのかも………数年前
までは、自分が生き物であるという事さえ自覚できなかったの。だけど、あたし
はこうして今でも生きている。そりゃあ、つらい事も悲しい事もたくさんあった
わ。だけどね、あなたみたいに生きる事に臆病になっていたら、楽しい事も見逃
してしまうし、素敵な友達も作れない。そういう毎日が、もう一人のあなたを作
っていた事に気づいたんでしょ?でもね、いまからでも遅くないのよ。今までの
ことは忘れるのよ。忘れることができないならば、その胸にしっかりと刻み込ん
で精いっぱい生きなさい。それが、何よりもの償いなのよ。』
「……………」
『理屈じゃ納得できないかもしれない。でも………でも、これだけは言わせて…
……あなたが誰かを大切に想う気持ちがあるのと同じに、あなたを必要としてい
る誰かがいるってことを。』
 未希のテレパシーに、翼ははっと何かを思い出す。




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