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推理小説的読書法「『天使の歌声』」3 永山
★内容
「未希ちゃん遅いね。」
ソファーに腰掛け、編み物をしている綴は時計を一目見ると、奥の部屋でコン
ピューターの端末をいじくっている透に話しかける。現在時刻は午後七時、いつ
もなら六時までには未希は帰ってくるのだ。
「………んー?………いいことなんじゃないかー。それだけ普通の女の子してい
るんだから……………」
透が気のない返事をする。自分の仕事に没頭しているようである。
ここでは透の心理を推測している↑
「………でも、変な子に付き合わされていたら………」
綴は、心配そうにため息をつく。透と落ち着いてから、考え方が所帯じみてき
たようだ。そんな綴の意見にみかねて、透はリビングへと戻ってくる。
↑透の心理に立ち入っている。上の指摘箇所と矛盾
「おまえさー、最近頭かたいんじゃないか?……」
「未希ちゃんの親代わりになって、心配してあげるののどこが悪いのよ?」
綴は透の顔を見上げた。その目には透の穏やかな顔が映っている。その顔を見
↑__________________↑
「その」が重複。後者を「彼の」にするのがいいかも
て、綴はそれ以上の文句を言うのをためらった。
「綴………」
透はそう呼びかけると綴の向かいのソファーに腰を落ちつかせ、天井を見上げ
ながら呟くように口を開く。
「……今、未希に必要なのは親なんかじゃない………友達だよ。」
陽はとっくに沈み、ビルの谷間はほとんど闇に近い。半ば廃虚と化したビルに
は電気の供給はないのだ。
そんな中を未希と勇生は歩いていた。子犬にかまっていてつい帰るのが遅くな
ってしまったようだ。その為、変に気をきかした勇生が未希を送ってやると言い
↑何故、推測? 断定調でいいのでは? 好意的に見れば、「勇生
は犬のことよりも、未希と少しでも長く一緒にいたかったのかな」
と想像できる余地を読者に残すため、推測にしたとか……
出したのだ。ただでさえスラム化している街なのに陽が落ちてしまった今、この
場所は危険きわまりない。勇生は、多少なりとも武道の心得があるので大丈夫だ
↑一つの文章に「勇生」が二回出てくるのを避けるた
め、ここは「自分」に置き換えた方がいいのでは?
が、未希のような女の子にはかなり危険だと勇生は思っていたのだろう。
未希は最初、勇生に送ってもらう事を断った。暴漢に襲われたところで未希の
本体には影響がないわけだから、まきぞえをくう勇生の事を考えての事だ。
しかし、あまりのしつこさに未希はそれを承知してしまった。いや、しつこさ
に折れたのではない。未希は勇生の親切がなぜかうれしく思えてきてしまったか
らであった。ただ、それが恋心からくるものだということを未希は気づいていな
かった。
「ちょっと、歩くの速いんじゃねえか?」
勇生が、未希の早足の後ろをやっとのおもいでついていく。
「こんな、まっくら闇の所なんて早く抜け出したいもん。………それから、あた
しの前に来ないでね。人の後ろを歩くのって好きじゃないの。」
未希はそう勇生に言い訳をすると同時に、前に来させないように釘を刺す。こ
れは、別に喧嘩の続きをしているわけではない、理由があるのだ。
それは未希の前に行き、後ろを振り返り彼女を見ればすぐわかるはずだ。そこ
には、二つの黄金色に輝く眼の光が、不気味に闇の中に浮かび上がってくるのが
見えるのだから。
未希の身体のベースである『MSE』に使われている人工眼球は、外見上、よ
り人間に近づけるために瞳孔の内側からわずかに光を放っているのだ。明るい所
なら光も打ち消されてわからない仕組みも、闇の中ではわずかな光の輝きも目立
ってしまう。
未希は、自分が人間ではない事はなるべく隠したいのだ。透や綴のように、そ
んな事に関係なく友達としてつき合ってくれる人間ばかりでないことを、彼女は
嫌というほど知っていたのである。
その日、夕刊の三面記事の隅の方の小さな見出しに、こんな事が書かれていた。
『立丘重工製S型バイオチップに欠陥あり』
その記事の概略は次のような事であった。
『今日の午前、二年前に発表され『MSE』の重要補佐回路に組み込まれていた
【S型バイオチップ】に欠陥品がある事が判明し、厚生省に届けられた。開発を
行っていた立丘重工医療部は「すべての物に欠陥があるわけではないが、いちお
う『MSE』患者は近くの病院で検査を受けるように」と患者に呼びかけている。
なお、欠陥の詳細は調査中ということでまだ発表されていない。』
「未希さん、さようなら。」
二人組の一年の女子が、未希の横をあいさつと同時に駆け抜けて行く。未希は
面倒見がよく、誰にでも優しい所があるので一年生にも受けがいいのだ。
未希は、元気いっぱい駆け抜けていく一年生に微笑みながら一人、校門の方へ
と歩いていく。今日は、相棒の和美が委員会の仕事で居残りをさせられている為
帰りは一人となったようだ。まあ、他に一緒に帰る相手がいなかったわけではな
↑推測の形にする理由が分からないです
いが、未希は一人で帰りたい気分であったのだ。
未希は、まだ夕陽と呼ぶには高すぎる位置にある太陽の光を浴びながら校門か
ら歩きだす。
気まぐれな考えから、和美といっしょの時にはけして通らない近道を未希は歩
く事にした。そこは、ゴーストタウンと呼ばれている廃虚の街だ。手抜き工事に
よる構造上の欠陥から、人が住めなくなった住宅がそこらにちらばっている。全
壊したビルの残骸も見える。
東京湾の人工島建設の為に住宅地として開放されたこの土地は、開放地区と呼
ばれ、都民の住宅問題を解決する方法の一つであった。しかし、十年前に起きた
マグニチュード7クラスの大地震による被害で、開放地区の一部の地区の建物は
半数以上が全壊し、残りの建物も半壊あるいわ動力系統の遮断で人の住める場所
↑「あるいは」の入力ミス?
ではなくなってしまった。
そう、建設会社の手抜き工事による結果であった。原因は、ただでさえ人手不
足の建設業界に人工島建設がさらに不足に拍車をかけたからだ。
そして2021年現在、都内の開放地区は最悪の二種類の街となっている。一
つは人口のさらなる過密と治安維持の不可能になったスラム街。そしてもう一つ
は、ここのような人の住めないゴーストタウンである。
一般にこの地区への侵入は禁止されているのだが、なにせ治安がほとんどいき
わたっていない為に簡単に通る事ができる。とはいっても、中は建物が崩れてく
る危険があるので好き好んで入る人間はいないだろう。
危険地区への入り口は道路工事用のバリケードが置いてあるだけで、入るのに
苦労はない。
未希は、ハードルを飛び越えるように軽くジャンプすると、そのまま奥へと走
っていく。
建物が崩れて危険といっても、しょっちゅう崩れるわけでないので、ポイント
さえ注意すればさほど危険はない。ほんとうに注意しなければならないのは、中
途半端に壊れかけた建物だけである。
道路に落ちている瓦礫の間をぴょんぴょんと飛び跳ねながら、未希は進んでい
く。ふと、軽やかに進んでいく未希の足どりが止まった。未希は人の気配を感じ
とったようだ。
↑さっきまで未希の心理描写をしていたのに、ここでは推測
「なーにやってんだよ?」
気配の主は勇生であった。頑丈そうな建物の一階の窓から顔を出している。
「あんたこそ、なにやって……うふふふ………」
未希は勇生の顔を見て笑ってしまった。なぜなら、その顔はすすで汚れて所々
黒くなっている。それを見て未希は、おもわず図鑑で見たパンダを思い浮かべて
しまったのだ。
「なに笑ってるんだよ!そんなにおれの顔がおかしいか?」
勇生は、窓枠を乗り越え未希のいる所までくる。また例の痴話喧嘩ごっこが始
まりそうだ。
「………うふふふ………ほらっ、顔拭きなさいよ。すすだらけよ。」
未希はそう言って、ポケットからハンカチを取り出す。勇生の顔がおかしくて、
喧嘩の相手になる気になれないようだ。
「しょうがねぇだろ……仕事の途中なんだからよ。」
差し出されたハンカチを半ばひったくるように受け取ると、勇生は後ろを向き
顔を拭く。
「仕事ってなーに?」
「ジャンク屋のバイトさ。ここら辺はけっこう掘り出し物があるんだぜ……こ
れなんか、2008年製のカスタムチップICだ………1万はかたいんじゃない
か………」
「岡野さーん。」
教室の出口で和美は、同じクラスの佐藤良子に呼び止められた。
「ん?………」
和美が振り返ると、そこには冷たい笑顔が印象的な良子が立っていた。
「悪いんだけど、あたし用事があるから今日の委員会パスするわ。」
「えっ?…あっそう……わかったわ。」
和美はそっけなく答える。用事の詳しい内容を聞こうと和美は思ったのだが、
良子とはそれほど親しい友人ではないので、事務的な答えに留まらせたのだ。実
をいうと、和美はこの良子という子はあまり好きではないのだ。性格もひねくれ
た所があり和美とは根本的に合わないようだ。
↑珍しく、あからさまな説明・補足文。MSE等の背景説明ならいざ知らず