AWC 推理小説的読書法「『天使の歌声』」2 永山


        
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推理小説的読書法「『天使の歌声』」2 永山
★内容


「わあー、動いた、動いた。」
 未希は、妊婦の大きなお腹に耳をあてている。
「……これが、生命…………」
 すっかり感動している未希の顔を、優しく見つめながら微笑む妊婦。
     ↑未希の心理         ↑妊婦の視点
     \一つの文章に二人の心理が混在/
「生まれたら、未希ちゃん伯母さんって事になるわね…うふふふふ。」
「もう7カ月ですよね?…あと少しで、出産かー……ねぇ、男の子かな?女の子
かな?」
「検査によると、女の子らしいわ。」
「へぇー。じゃあ、綴さんに似てきっと美人になるわね。」
「……まったく、どこでそんなお世辞を覚えてきたの?」
 妊婦−水口綴は、軽く未希の頭をこずく。しかし内心、未希がごく普通の女の
子らしくなって喜んでいるところもあったようだ。
「へへへ、お世辞じゃないわよ。ほんとうに綺麗よ、綴さん。それに、生命を宿
す、女の人って、神秘的な美しさを持つっていうじゃない。」


「翼ちゃんじゃない?」
 地下鉄の駅で、未希は翼の姿を見かけた。どこかさびしげで、思わず声をかけ
るのをやめようかと一瞬思ったほどである。
 ↑ここは明らかに未希の視点をとった三人称一視点描写ですよね
「……水口先輩?でしたっけ……」
 翼は、未希を確認すると、無理に笑顔をつくろうとする。
             ↑ここでは翼の視点になっている。上と矛盾
「未希でいいわよ。部の先輩じゃないんだから………どうしたの、元気ないじゃ
ない?」
 未希は、お姉さんぶって翼に問いかける。
「……あたし、コーラス部を辞めようかと………」
「なんで?あんなに綺麗な声を持っているのに……和美も言ってたわ。あなたの
声って、透き通るようないい声だって……もったいないよ。」
「……あたし、この声嫌いなんです。………声だけじゃないわ……自分のすべて
が嫌い嫌い!大嫌い!」
 翼は、泣き崩れるように顔を押さえる。
「翼ちゃん………」

 ふわふわ浮かぶ綿菓子のような雲。手を延ばせば確実に届く位置である。ただ
し、窓が開けばの話だが。
 高度千六百メートル。
 ここは、東京湾第二人工島にある共同電波塔の第一展望台。第二の東京タワー、
別名『メガロタワー』ともいわれている所だ。
「どう?落ちついた?」
 未希は、前面のガラス張りの窓に両手をつけて、横にいる翼を見る。
「……………。」
 翼は、まだうつ向いたままで立っている。しかたがなく、未希はそのまま話を
続ける。
「ここから見る景色って格別でしょ。見慣れた街がぜんぜん別の景色に見えるの
よね……………ねえ、翼ちゃん。この前、音楽室で練習していた歌の名前なんて
いうの?あたし、あの歌気に入っちゃった。」
 未希の笑顔での問いに、翼はやっと口を開く。
「……『翼をください』って曲です。あたしもあの歌は大好きなんです。歌詞に
あるように、この大空につばさをつけて飛んでいけたらいいなって……いつも思
っていたんです。」
 翼は地上に見える建物にではなく、雲の漂う空を見上げていた。その目は、も
っと高く、もっと遠くへと向けられている。
「……悲しみのない自由な空か………」
 未希も翼に影響されて、目線が下から上へと上がっていく。未希もできるなら
歌詞のように、何も考えずに自由な空を飛んでみたいと思っていた。それは、未
希自身が背負う運命から逃げ出したいという感情の表れでもあったのだろう。
 未希は、今の自分の立場を忘れてふと考え込んでしまった。翼を慰めるつもり
が、自分の方が落ち込んでしまったのだ。
 誰だってつらい事や悲しい事のひとつやふたつはある。そう翼に言うつもりだ
ったのだが、未希は言えなかった。翼だってそんな事はわかっているはずなのだ
から。
 思わず黙り込んでしまった未希の耳に、あの透き通ったソプラノヴォイスの歌
声が聞こえてくる。

(※歌詞部分カット)

 未希の落ち込みとは反対に、翼は少しだけ元気を取り戻したようだ。
 歌声は、未希達のいる展望台のフロアへと響いていき、まわりの観光客の注目
を集めている。翼はさながら歌姫といった感じであった。


「おはよう。ねぇ、聞いた聞いた?また二年の女子が殺されたって?」
 校門を通ろうとする未希のもとへ和美が走りよってくる。
    ↑「通ろう」とは未希の心理・意志ですよね
「なに、それ?」
 未希は、ぽかんと口を開く。声をかけられるまで別の事を考えていたようだ。
                                ↑
                      ここ、客観描写になっている。
                      最前の指摘箇所との矛盾
「昨日の夜、ゴーストタウンで喉元をえぐられた死体が見つかったんだけど、そ
れが二年の子らしいの。あまりにも残忍で人間離れした手口から、化け物にでも
襲われたんじゃないかっていう噂が流れているのよ。」
「ゴーストタウン……?」
「そうそう、もう四人目だもんね。殺された子、美人だったっていうから未希も
気をつけな。」
 そう言って和美は未希の肩を軽く叩く。そんな二人の会話の中に、一人の男子
生徒が入ってきた。
「邪魔だ邪魔だ!立ち話なんかしてんじゃねぇよ。」
 そう未希の顔を睨みつける生徒は、自称『一方的な喧嘩友達』の勇生であった。
                 ↑本当に勇生が自称しているの? 未希が
                 勇生のことをそう呼んでいるのなら、まだ
                 分かるのですが……?
「邪魔なら、避けていけばいいでしょ。」
 未希は勇生と会うと、どうも態度が変わってしまうようだ。
 勇生の方も、負けずとばかり応戦する。しかし、はたから見ていれば痴話喧嘩
のなにものでもない。
 この二人、へんに意識しあってしまってつい喧嘩腰になってしまうのだろう。
そのへんの事は、未希といっしょにいる和美には気がついていたはずだ。
 しかし、とうの二人はそれに気がついていないところがまた滑稽であった。
 ↑この辺りまでは、明らかに作者の視点(神の視点)
「うふふふふ…………」
 そんな二人の様子を見ていて和美は思わず笑いだしてしまう。まわりも、未希
達の痴話喧嘩に注目しているのだ。 ↑和美の心理
       ↑「まわりの人達」の視点
「もうー!何がおかしいのよ。」
 未希は和美の笑い声で我に返り、自分自身に恥ずかしいものがこみ上げてくる
のを感じていた。   ↑この文章は、未希の心理
 勇生の方もまわりの目を気にし、そのまま恥ずかしげにその場を去っていく。
            ↑           ↑ここは客観描写
            ここは勇生の心理
 そんな中、一つの冷たい視線が未希へと注がれていたことに未希自身も、そし
てまわりの誰一人も気がついていなかった。
 ↑上の場面丸ごと、神の視点を取っているんですよね?(※確認の意)

 太陽の見えない夕焼け。
 西の空は、真っ赤に染まっている。しかし、立ち並ぶ高層ビルの陰に隠れて、
太陽の姿は見えないのだ。なんともさびしい夕暮れである。だが、さびしいのは
景色だけではない。街そのものがさびしさに包まれていた。
 所々に見える古い建物。半ば廃虚となったものもあれば、全壊して吹きさらし
になった床だけのものもある。
 ここは都内『D−23』地区。昔千代田区と呼ばれ、首都の中枢機関のあった
場所である。東京湾人工島建設にともない住宅地として解放されたが、人口のさ
らなる過密と治安維持を怠った為、今ではスラム街と化していた。
 そんな街の古びたビルの谷間にある五坪程の唯一の公園。といっても、雑草の
生えきった空白地、と呼ぶほうが正しいだろう。そこに、1匹の子犬が紛れ込ん
でいた。
 腹をすかしたその子犬は、公園の傍らでうずくまっている。
 ふと、その子犬の鼻に美味しそうな食べ物の香りが漂ってきた。しかし、体力
の残っていないその子犬は、息をはぁはぁ言わせるのがやっとで動く事さえでき
なかった。
 食べ物の香りは、そのまま子犬の目の前を去っていく。だが、子犬はあきらめ
きれなかった。最後の力を振り絞って「クゥーン」という子犬特有の甘ったるい
鳴き声を出した。
「……ん?なんだおまえ、そんなトコでうずくまって?……腹…減ってるのか?」
 ハンバーガーを片手に持ったその人物は子犬の存在に気づき、そいつが腹をす
かしている事を読みとったようだ。
「半分やるよ。ほら!」
 その人物は、持っていたバーガーを半分にちぎると子犬の口元へと置く。
 子犬は、夢中で食べていた。そんな子犬を優しい笑顔で見守るその人物。
 その笑顔が、ふと引き締まり後ろを振り返る。何かに気がついたのだろうか。
「誰だ!」
 古ビルの陰に向かって呼びかける。
「なによ!叫ばなくたっていいでしょ。滝沢君。」
 ビルの陰から出てきたのは、未希だった。恥ずかしそうにそっぽを向き、両手
を後ろに隠しながら歩いてくる。
 子犬に食べ物をやっていた人物−勇生は未希の不自然な手の向きに気がついた
らしくツッコミを入れる。
「何後ろに持ってるんだよ?」
 勇生は、未希がここに来た理由を悟ったようだ。
 未希は後ろに回していた手を前に出し、手に持っていた物を目の前に差し出す。
それは勇生の思った通り、子犬の餌にするつもりだった缶切り不要のドッグフー
ドの缶詰めであった。
「うふふふ……遅かったみたいね。」
 未希が素直に笑い出す。子犬を前に、喧嘩する気にもなれないようだ。
「こいつ、かなり腹すかしてたみたいだから……これだけじゃ足らないだろ。」
 勇生も、先走る感情を自制して未希の優しさを受け入れようとする。
「捨て犬かな?」
「いや、親無しのノラだろ。」
 二人は、子犬の一生懸命食べる姿を見守っていた。
「………あたしさ、あなたの事……常識知らずの極悪非道な奴だと思ってた。」
 未希は、視線を子犬に固定したまま勇生に話しかける。べつに勇生の顔など見
たくないという感情からではなく、ただ単に子犬がかわいいからであろう。
「ひっでーな。おれってば、すんごく優しい奴なんだぞ。」
 勇生も、子犬の方を見たまま返事を返す。だが、こちらの方は変に意識しまっ
ての事だろう。
「でも、随分あたしにつっかかったじゃない。」
「……それは…………」
 勇生の顔がみるみる赤くなる。普通の女の子ならここで自分に気がある事に気
づくのだろうが、未希は如何せん恋愛経験が乏しい。というより、まったく無い
といった方がいいだろう。したがって、相手の感情どころか自分の感情にも気づ
いていないようだ。
 言葉に詰まった勇生が、ふいに後ろを振り向く。その目は、未希を見つけた時
のように人の気配に気づいた視線であった。
「どうしたの?」
 未希が不思議そうに問う。未希の視線も、この時ばかりはさすがに子犬から目
を離し勇生の方を向いていた。
「いや、誰かに見られているような気がしたんだけどな……………」
「自意識過剰なんじゃない?」
「そういう問題じゃないだろうが!」
 二人の言い争いがまた始まってしまったようだ。
 しかし、未希が恋というものに気づいた時、未希自身は自分に背負われた悲し
い運命を呪わずにいられるだろうか。そして、勇生の方も自分が恋した女の子が
実は人間ではないことを知った時、その気持ちを大切に持ち続ける事ができるの
だろうか………。
 ↑上の場面、神の視点で描かれてるようですが、この神様、あるときは勇生の
 心を覗けるのに、しばらくすると覗けなくなっている。未希に対しては、心は
 覗けないが、彼女の目の焦点が何に合っているか(知覚作用)は察している




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