AWC レディア・サーガ =第一章(2)=   悠歩


        
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レディア・サーガ =第一章(2)=   悠歩
★内容


「あんたら、砂漠を越えて来なさったのかい?」
 ラルムが振り向くと、そこには陽気そうな中年男が立っていた。
 男は、砂にまみれたラルムとリアを興味深そうな目で、しげしげと見つめている。
「ああ、そうだ」
「へぇ、そりゃあ凄い!」
 男は身振りを交えて、些か大袈裟に驚いて見せた。
「何せ、ここ数年、あの砂漠の広がり方と言ったら! この街だって、去年の今頃は
豊かなの土地で、砂漠からは遠く離れた所に有ったんですよ。
 それが今では、砂漠の入り口の街となっちまった。尤も私の知る限り、ここが砂漠
の入り口になっちまってから、砂漠を越えてきた人間は、あんたらが初めてですがね」
 砂漠を越えてきたラルム達が珍しいのは判るが、どうにも男の話し方は大袈裟すぎ
る。
 おそらくは話すことを生業とする者、身なりから判断して商人であろうとラルムは
思った。
「あなたの様な屈強の戦士ならともかく、そちらの娘さんはよくもまあ、生きて砂漠
を越えられたものだ………。さぞかし、辛い事だったでしょう」
 男はラルムの腕に抱かれる様にして、ようやく立っているリアに同情の眼差しを向
けた。
「すまんが妹に水を一杯、貰えないか? 必要なら、もちろん金は払う」
「水ですか………何しろ街の井戸も、ここ数年はめっきり水の量も減ってしまいまし
てねぇ。街の住人も割り当てが決められている始末で………」
 そう言って、男はしばらくの間、疲れ切ってぐったりとしたリアの顔を見ていた。
「いいでしょう! どんな事情かは知りませんが、こんな可愛らしい娘さんが、命を
賭けて砂漠を越えて来たんだ。水の一杯や二杯、喜んで差し上げましょう。私の店は
すぐそこです、着いて来て下さい」
 それは店と呼ぶには、些か寂しさを覚える物だった。
 街角に日除け付きの小さな台を置き、その上に数種類の果物を並べて有る。それだ
けの物だった。
「ささ、お嬢さん飲んで下さい。おっとと、一気に飲んじゃいけませんよ。乾ききっ
た身体が、びっくりしてしまいますからね。ゆっーくり、ゆっくりとね」
 そう言って、男は木の器に水を注ぎ、リアに手渡した。
 器を手に取ったリアは、一瞬ラルムの顔を見た。兄より先に水を口にする事を、躊
躇したのだろう。ラルムは小さく頷いて、先に飲むようにと促した。
「主は果物を商っているのか?」
 リアが水を口にするのを確認して、ラルムは訊ねた。
「へへっ、主なんて呼ばれる程、大層な商いはしてませんがね。何、果物には限りま
せん。行く先々で手には入る物を仕入れ、それを別の場所で売る、しがない旅の商人
ですよ」
 男は、出会ったときから一瞬たりとも絶やしていない笑顔で、そう答えた。
「旅の? しかし砂漠の入り口とはいえ、それを越える者も越えてくる者も無い様で
は、商売にならないのではないか?」
「いえ、そうでも無いんですよ。砂漠化のせいで、この街自体、いろいろと品不足で
住民がいい客になってくれますし。街の西にはオウル山脈沿いのルート、北にはマル
カディア草原のルート、そして北東には海へ出るルートが有るお陰で、この街を出入
りする旅人自体は少なく無いんですよ」
 そこまで言うと、商人はやや声を低くした。
「もっとも、どのルートにも、邪神の復活以来怪物が出ますからね。あなたの様な屈
強な戦士か、そういった人を護衛に雇わなければ、ちょっと恐ろしいですがね。
 それにどういう訳か、砂漠化もこの街の手前で、足踏みをしている様なんですよ。
 噂では、邪神を復活させた魔導士の意志だって事ですが、私はそれ以外に何か有る
と睨んでるんですがね」
 見ると、商人が長話をしている間に、リアはすっかりと水を飲み干していた。僅か
一杯の水ではあったが、今のリアにはどんな薬よりも効いた様だ。その顔色は、先程
と比べて明らかに良くなっていた。
「おっと、話に夢中ですっかり忘れていました! 戦士様も、喉が乾いておいででしょ
う」
 商人はリアから、空になった器を受け取り、それに店の裏に置いた瓶から水を汲む。
「ささ、どうぞ」
 ラルムが商人から差し出された器を受け取ろうとした時、通りの向こうからざわめ
きが聞こえて来た。
「捕まったぞ! シンシアの奴が、とうとう捕まったぞ」
 騒ぎの方向から、そんな声が聞こえてきた。
「シンシア? 何者だ」
「ああ、この街に住み着いている盗人の娘ですよ。盗人と言っも、心根は悪くない子
なんですがねぇ。とうとう捕まった様ですねぇ」
「娘………主、その娘の年齢は?」
「さ、さあ………16、7ですかねぇ。そちらのお嬢さんと、同じくらいじゃあ」
 そこまで聞くと、ラルムはもう、騒ぎに向かって動き始めた。
「リア」
「は、はい」
 リアもまた、慌ててラルムの後を追う。
「あ、戦士様。お水は」
「すまん、主。世話になった」
 走りながら、ラルムは商人に一枚の金貨を投げ渡した。

「なんだい、行っちまったか………」
 ラルム達が立ち去った後、商人はその手に残された一枚の金貨を、しげしげと眺め
ていた。
「いくらなんでも、水一杯に金貨一枚とは………大したもんだね」
 商人は金貨を空に放り投げる。
 そして落ちて来た金貨を掴み、にやりとした。
「まあ、いいか。お嬢さんの方は、ちゃんと喉を潤わせられた事だし」

                    第一章(3)へ続く





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