AWC レディア・サーガ =第一章=(1)   悠歩


        
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レディア・サーガ =第一章=(1)   悠歩
★内容

  レディア・サーガ −第一章−(1)

 レディアに封印されていた邪神が、魔導を使う四人の者に解放されて17年が過ぎ
た。
 今や世界は、邪神と四人の魔導の者によってレディアを中心に暗黒に染まり、何処
より現れた魔物たちが闊歩するようになっていた。

 じりじりと照りつける太陽。
 砂は熱を受け、陽炎を産み出す。
 陽炎によって太陽の姿は歪められ、砂漠の厳しさを視覚的にも演出する。
 先程より風は止み、砂の上に刻まれた風紋も止まったまま変化を見せない。
 生と言う言葉を全て否定した世界。
 だが、そんな死の世界に動く二つの影があった。
 一つは男。陽射しと砂漠からの放射を避ける為、頭からすっぽりとマントを被って
はいるが、鍛え抜いた筋肉は隠しきれない。腰の辺りに帯剣しているのが、マントの
膨らみで判る。
 もう一つは女。男と比べて、余りにも華奢な体つきは一見して、子どもと見間違え
てしまう。実際、男と同様に日除けのマントをしているが、そこから垣間み得る黄金
の髪を持つ顔は、あどけない。歳は15〜6だろうか。
 体力的に、女が男より劣っているのは明らかだ。必死で男についていこうとするが、
一歩二歩と差が開いていく。
「リア、遅れるな」
 男−−−ラルムは振り返る事無く、厳しい口調で言った。
「はい、すみません、お兄さま」
 リアと呼ばれた少女は、何とか足どりを早めようとした。だが、既に限界に達しよ
うとしている身体はいうことをきかないようだった。
「飲め、少しは元気も出るだろう」
 そう言って、ラルムは妹へ獣の膀胱で出来た水袋を投げ渡した。
 リアの手の中で、水袋は僅かに、「ちゃぷ」と心許ない音を立てた。
「これは、最後のお水………お兄さまは先程から、一滴も口にされては………」
「いいから飲め。俺はまだ保つ」
「でも」
「意地を張っている場合か。お前が倒れたら、俺が面倒だ」
「………すみません」
 リアは水袋の栓を開け、ほんの一滴ばかりの水を指先にたらし、それで唇を湿らせ
た。そして栓を元通り湿ると、水袋をラルムへと返した。
「強情なやつめ」
 ラルムは妹に倣い、自分もまた唇を湿らせた。

『まずいな………このままでは』
 ラルムは思った。
 実のところ、戦士として鍛えられているラルムでも、かなり参って来ていた。
 早く砂漠を抜けなければ、リアはそう長くは保たないだろう。
 昼間に砂漠越えを試みるのは、無謀な事であった。昼夜の寒暖差の激しい砂漠では、
朝夕の移動が理想的である。
 ラルムたちも、それに従ったのだ。
 砂漠に入る前の街の情報から、この砂漠が年々広がりつつあるのを考慮に入れ、夜
明け前、まだ息が凍り付く様な寒さの中で出発した。
 だが、砂漠は予想を上回る勢いで広がっていたのだ。
 在る筈のオアシスも無く、砂漠の終わりを告げる街が在るべき場所も、とうに過ぎ
ていた。なのにまだ砂漠は続いている。
 今、ラルムたちが居る場所も、何年か前までは緑の土地だったのだろう。砂の上に
僅かに姿を現している枯れ木や獣の骨が、その事を示している。
 或いは、永久に砂漠が終わる事がないのでは。知らぬ間に、世界の果てまで砂漠化
してしまったのではないだろうか。ラルムの頭の中には、そんな考えすら浮かび始め
ていた。
「お兄さま!」
 リアが不意に足を止めた。
 その声にやや遅れて、ラルムも足を止める。
「ちいっ、厄介な!」
 二人の視線は、前方の小さな窪みに向けられた。
 砂漠の中にあって、別段珍しくも無い砂の窪み。だがラルムは、そこからただなら
ぬ気配を感じ取っていた。リアもまた同様に感じているらしい。
「下がっていろ」
 腰の剣に手を掛け、ラルムは妹を促した。ちらっと後方に目をやると、リアは兄の
邪魔に成らぬ様に、やや下がりながらも懐から出した短剣を構え、臨戦態勢をとって
いる。そして再び窪みに視線を戻した瞬間−−−
 ざあっと音をたてながら、砂が隆起した。2メートルほどに隆起した砂は、人型を
成す。
 ラルムは、その砂人形が動くより先に行動を起こしていた。
 跳躍すると同時に大剣を抜き、砂人形を腰の辺りから真一文字に斬り払う。
 が、ラルムには斬ったという実感は無かった。手応えが無さ過ぎる。
 砂人形は、正に砂の塊であった。その身体は、チーズがナイフを受け入れるより容
易く、ラルムの剣を受けた。
 いや、剣を入れるより先に、崩れて行く様にすら感じられた。
 斬り捨てられた砂人形は、その形を成した時よりも早い勢いで砂へと返り、砂煙と
なって舞う。
 あまりの手応えの無さに、かえって不安を感じたラルムの視線は、妹の姿を求めた。
「お兄さま、後ろ!」
 ラルムのすぐ後方、1メートルと離れていない場所に、新たな砂人形が現れた。
 砂に足を取られながらも、その砂人形を斬り捨てる。
「きゃっ」
 その悲鳴に、ラルムは妹の姿を求めた。
 リアはその背中から砂人形に羽交い締めされるように、捕らわれていた。
 必死で逃れようとしている様だが、リアの振るう短剣は、砂人形を切り裂くには至
らず、ざくざくと身体の一部を突き刺す程度に留まっている。
 そうしている内にも、リアの身体は少しずつ、砂人形の身体に沈んで行く。
「馬鹿者が!」
 リアを捕らえている砂人形と、容易く敵の手に落ちた妹を同時に罵り、ラルムはリ
アの元へ跳んだ。
 しかしラルムの身体は、リアの元に着くよりも先に、真下から出現した手に右足を
捕られ、砂の上へと叩き就けられた。
「ぐっ」
 幸い、剣は握ったままだったが、仰向けに倒れてしまったため、すぐに反撃する事
は出来なかった。
 右足を掴んだ手は、倒れ込んだラルムを引きずろうとする。
 斬り捨てた時には、全く手応えのない砂人形ではあったが、今ラルムの足を掴む力
は恐ろしく強かった。
 砂で出来た五本の指が、ラルムの足に食い込む。或いはその握力だけで、ラルムの
足を引きちぎる事も出来たかも知れない。
 更に左足をも、砂の手に捕まれた事を感じたラルムは、咄嗟に剣を投げつけた。
 仰向けのまま、正確な狙いを付けられる筈も無い。しかしその剣は、無理な体勢か
らも強烈な勢いで飛んで行った。
 足を掴んだ手の力が緩んだのを感じると、すぐさまラルムは身を起こし、自分を捕
らえていた相手を見た。
 ラルムの投げた剣は、見事に砂人形の首に命中した様だった。
 勢いの着いた大剣は、砂人形の首に突き刺さり、そのまま頭を粉砕したのだ。
 砂人形の最期を見届けぬうちに、ラルムは剣を拾い、妹の救出へと戻る。
 リアの身体は、その大半が既に砂人形の体内に埋没し掛けていた。
 この状態でリアを傷つけず、砂人形を攻撃する事は不可能。そう判断したラルムは
剣を収め、砂人形に突進て、埋没する妹に抱きつく。
 ラルムの両の腕は、妹の細い身体をがっちりと捕らえ、そのまま砂人形の身体を突
き抜けた。
「大丈夫か?」
 ラルムの問いに、リアは苦しそうに咳き込みながらも
「すみま………せん………だい…じょうぶ…です」
 と答えた。
 しかしその様子からは、だいぶ体力を奪われた事が伺い知れる。
 後方に視線をやると、ラルムに体当たりされた砂人形は崩れて行くところで有った
が、新手が三体、地面より沸き上がっていた。
「くそっ、きりが無い!」
 一体一体は手強い敵では無いが、このまま際限なく現れる砂人形と闘っていれば、
いずれこちらの体力が尽きてしまうだろう。少なくともリアはもう限界だ。今の時点
では、ただ立っていることすら苦しそうである。
「どこかに、こいつ等を操っている奴がいる筈………」
 砂人形共は、それ自体が命を持つ物では無さそうだ。それが実際に、数体を斬り倒
したラルムの実感だった。
 そう言えば、無生物に仮の命を与え、己の意のままに操る術者の話を聞いた事が有
る。
 この砂人形共も、その類であろう。ならば術者さえ倒せば、砂人形は元の砂に帰す。
「リア、こいつ等を操る者がいる筈だ。判るか?」
 妹を左腕に抱えたまま、ラルムは襲いかかって来た砂人形を斬り倒した。
「少し………待って下さい………」
 リアは目を閉じた。或いはそのまま、永遠に眠ってしまうのではないかと思われる
ほど、今のリアは弱々しかった。
 再びリアが目を開くまでの間、ラルムは更に二体の砂人形を切り捨てていたが、そ
の周囲は新手によってすっかりと囲まれていた。
 目を開いたリアは、もう話す気力すら無いのか、砂漠の一点を力無く指で指し示し
た。
「よし」
 ラルムは妹の身体を、静かに砂の上に降ろすと、その方向へ駆け出した。
 その意図を感じ取ったのか、砂人形共がラルムの行く手に群がった。しかしラルム
は足を止めることなく、大剣を振るい、路を斬り開く。
「お兄さま!」
 力を振り絞った妹の声が聞こえた。間をおくことなく、ラルムはその場に渾身の力
で剣を突き立てる。
 確かな手応え………。
 ラルムの剣は、砂の下の何かを、確実に貫いた。
 砂上より引き抜いた剣は、何者かの血糊とそれに付着した砂で汚れていた。
 そしてその後、剣を突き立てた場所から、二本の腕が姿を現した。それは砂人形で
は無く、人の物であった。
 二本の腕に続き、肩口から多量の血を滴らせた男が、砂中から這い出して来た。
「おのれ、ゼウナスに守られし者共め………このままで済むと思うな!! 儂を倒し
たとて、他の者が必ず………必ず、貴様等に最悪の死を与えるだろう」
 そう言い残し、男は下半身を砂中に残したまま、絶命した。
 ラルムは無表情のまま、男の死を確認すると、剣を収め踵を返し、妹の元へ戻った。
 ラルムが戻ると、リアはよろよろと立ち上がろうとした。
 全身に、大量の砂が被っている。ラルムが術者を倒す前に、砂人形に襲われていた
のだろう。術者を倒した今、砂人形共は一体残らず、元の砂に帰っていた。
「すみません、足手まといにならないと………約束したのに………」
 言いながら、リアは倒れ込んだ。その身体をラルムの腕がしっかりと受けとめる。
「私を………置いていって………お兄さまは、先を急いで………下さい」
「そうはいくか」
 ラルムは妹の身体を背中へとまわす。
「で………でも」
「もたもたするな、急げ」
「はい」
 ラルムは妹を背負い、再び灼熱の砂漠を歩き始めた。

                    第一章(2)へ続く





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