AWC 実験>ゼンマイ仕掛け4   $フィン


        
#1264/1336 短編
★タイトル (XVB     )  00/ 6/ 6  17:30  ( 48)
実験>ゼンマイ仕掛け4   $フィン
★内容
 男は変な思いにとりつかれていた。
 世の中すべてがゼンマイ仕掛け動いているように思えた。
 花はちゃんとした匂いはあるものの人工のもの。小川の流れもモーターで
まわして流れを作っている。心地よい小鳥の声でさえもどこかに隠されたス
ピーカーから聞こえてくると思えた。
 それだけではない。男自身でさえも、機械のセンマイ仕掛でできているの
ではないかと毎日思い悩んでいた。
 男の住んでいる所は白い建物の中、幾人かと一緒に共同作業をしている。
隣近所の者に不安な話をしていても、気の所為だと言って、適当に相槌を打
つだけで相手にしてくれない。仕方がないので、2、3錠の薬を貰っている。
人の話を聞いたり、医者から貰った薬を飲んでも、男は体中にゼンマイ仕掛
けでできていると思い込んでいた。
 一年、ニ年と白い建物の中での平穏な生活は続いていく。だけども体がゼ
ンマイ仕掛けであると思いは減るどころかますます増えていった。
 そして血色のよい肌色の皮膚の下には血液を流すプラスチックの管が音も
なく通っている、有機物の代わり無機物が大量に積め込まれているようとま
わりの共同作業員に説法する有様。これにはまわりの人はまいった。なんせ
1度話しだすと何時間でも、相手が何を言おうと相手が疲れて寝てしまうま
で、せっせと延々と話しつづけている。そのため男は共同作業場の中では浮
いた存在になってしまった。
 あるとき、男は人を殺すことを決心した。今まで男に誰も良い回答を出し
てくれなかったゼンマイ仕掛けか、血のかよった人間かの謎の問いに何らか
の答えが出ると思っていた。それに今のままでは死んでも死に切れないと感
じていた。
 まず、男は作業場においてある鎌を手に入れた。それを大事にベットの中
に入れながら、適当な人間を物色した。
 男は若い人はまだ将来があるから止めにした。それから同年輩の人も力で
負けるかもしれないから止めにした。そして男は最近入ってきた灰色の空気
をまわりに漂わせている老人を標的に決めた。理由は簡単である。おいさき
が短いし、力も弱そうだからである。
 本当は、古ぼけた本を抱えた老人が共同作業所に入ってきたときから男は
決心していたのかもしれない。男女の間柄に人目ボレというものであるがあ
るが、男は老人に人目ボレしてしまったのである。入ってきた灰色の老人を
見たとたん、ぴんと来るものがあって、殺そう! 人間の代表であるこいつ
を殺してしまえは今人間の格好をしている者すべてはゼンマイ仕掛けか本当
の人間か知ることができると一途に思ったのである。
 男は老人に手に入れた鎌を入れて、老人は動かなくなった。老人は最後に
安堵の笑みを浮べたように男には見えた。それも確認する暇はなく、ピーピー
とカン高い笛の音で男はまわりの人に取り押さえられてしまった。
 男は満ち足りた気分だった。老人が人間だった。つまり男もゼンマイ仕掛
けではないとわかったのである。老人を殺してやっととけた安堵の微笑みだ
った。
 男は、老人が持っていた古ぼけた本が開いたのを見た。それには、「私は最
後の人間である。どうしてもさびしくて仕方がないので、ゼンマイ仕掛けの
人間を作り、今までの人間が感じていた感情を持たせ、共同作業所で働かし
ている」と書かれていた。






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