#264/1336 短編
★タイトル (ARJ ) 94/ 7/ 6 19:23 ( 31)
お題>水底の天使 みのうら
★内容
契約の箱が置かれる場所は、信者席より一段高くなっている。その祭壇に向かって左
、オルガン席の壁に、2Mはあろうかという大きな絵が掛けられていた。
右の壁にも対となるなんらかの絵が掛けられていた筈なのだが、思い出せない。
とにかく、阿吽の仁王像の様に二枚の絵が掛けられていた。
空は曇っている。嵐の予感がある。
左側は切り立った崖になっている。むき出しの岩。
中央に、天使が立っている。
彼は、(そう天使に性別はないけれども)青銅の鎧を着けている。背中の大きな翼さ
え、青銅でおおわれているのだった。
むきだしの頭は金髪だったろうか。いや、夕焼けのようなオレンジだったかもしれな
い。
片手には抜き身のままの長剣を下げている。青銅の。
彼は、破邪の大天使、聖ミカエルだった。
まだ幼かった僕は、自分と同じ名前を持つ、偉大な大天使を眺めている。
母が付けた僕の洗礼名はミカエルと言う。
高い天井、水底のように冷たい空気。色褪せた聖画、自分よりはるかに大きい、自分
と同じ名前の大天使。
今、同じ場所に立ってもそこに天使はいない。
白い、冷たい石膏の聖母子像が立っている。あれから何年たっただろうか。
自分のことで精一杯だった何年かの時期。そのあいだに天使はいなくなった。
けれど、世間一般の日本人のような、天使のイメージは未だに僕は持てない。エロス
の姿をした天使や、かわいらしい少年少女の顔を持つ天使は僕の中には存在しない。
僕の天使はあの教会の、失われてしまったあの大天使。空虚ささえ感じられる、あの
表情の、彼だけが僕の永遠の天使である。
......