#2978/3137 空中分解2
★タイトル (PPB ) 93/ 3/12 20:14 ( 48)
不況 遊 遊遊遊
★内容
頭から熱いコーヒーをあびせられ、N氏は悲鳴をあげて立ち上がった。静か
だった店内が騒然となった。熱かった。が、すぐに冷たくなってきた。髪から
コーヒーのしずくが垂れ、目にも耳にも入ってきた。N氏は背広もネクタイも
Yシャツも、茶色の液体でビショビショにされていた。
「まあっ、ひどいわねえっ」
「どうしたのっ」
と、まわりの客たちはN氏をジロジロと見ている。マスターとウエイトレス
が、飛んできて、おしぼりでN氏の衣服の汚れを拭おうとしていた。向かい合
って、冷ややかにB嬢が突っ立っている。事故ではないのだ。ここはオフィス
街にある静かな雰囲気の喫茶店である。拾万円入りの封筒をポケットにねじ込
んで、B嬢が店を出ていった。
出掛けに、蹴りを一発、N氏に食らわして………。
N氏、温和な古参の課長である。いつも、こんな時に引っ張り出される。
彼の会社は、情報処理サービス専門会社であり、不況で業績は悪化の一途を
たどっている。採用内定学生に入社をあきらめさせるのが彼の役割だった。会
社の実状を説明し、学生に納得してもらうことが肝要である。説明の方法も人
事部長から伝授されている。拾万円入りの封筒も持たされている。入社しても
前途は暗いことを懇切丁寧に説明し、学生が少しでも入社辞退をほのめかした
ら、サッとその封筒を握らせることになっている。
N氏の担当はB嬢だった。採用内定取消しがどんな基準でおこなわれるのか
は、彼には知らされてはいなかったが、人事部長からB嬢の主要データは渡さ
れていた。腐っても、彼の会社は情報処理の専門会社である。採用試験時にと
らえたB嬢に関する会社の情報は完璧である。
N氏は、この喫茶店にB嬢を呼び出した。会社の指示どおりに説得しはじめ
た。「人事課長は転勤した」、「バブルの崩壊で会社の経営が苦しくなった」、
「仕事が全然なくなった」、「新人のボーナスは出せない」、「昇給も数年間
はない」、「安易にオマンコばかりしているとエイズになる危険がある」……
などと。
突然、B嬢は怒って、N氏にコーヒーをぶっかけて出ていった。
テーブル上のN氏の資料もコーヒーをかぶっている。
茶色の液体の合間から、いくつかの文字が読み取れる。
A川B子(▽▽大学)………非処女………淫乱……
1993−03−12 遊 遊遊遊(名古屋)