AWC   開  演       青木無常


        
#2975/3137 空中分解2
★タイトル (GVJ     )  93/ 3/11  13: 3  (111)
  開  演       青木無常
★内容
【能書き】これはもう、十年以上もまえに書いた作品です。思えばずいぶん長い
   あいだ熱にうかされつづけてきたもんだが、一生うかされたまんまでいる
   つもりなのでまあ昨日のことのようなものでもあるのでしょう。
     内容はさっぱりわけがわかりませんが、どういう意味かと問うてもム
   ダです。作者にもなんのことやらさっぱりわかりません。雰囲気だけの作
   品なんでしょう。
     んで話はまったくかわるが、「ヲ」の共通点がまるっきりわからんな
   ー。タネあかしはあるんでしょうね? ね?




                 開  演




 ひとつのステージが終わり、より高いステージに入る。それもやがて、すべてを
演じ終えて、また幕を閉じるだろう。そのたびに人は、深い感銘を受けるのだろう。
 聴衆が、観衆がいるかぎり、舞台はつづく。そして、聴衆は、観衆は、絶えるこ
とは永久にない。


 ----神よ。忠実な下僕なる神よ。我を目覚めさせよ。我を目覚めさせよ、神よ…
…。


 熱は光となり、すべてがはじまった。


 巨大な怒りとやすらぎの間に、生まれた。生をうけた者はまた、新しい生を与え、
それはくりかえされた。
 やがて闇が来た。
 目がくらむほど遠い一瞬の時が過ぎ、新しい生が生まれた。やがてそれは、生の
上のステージにまで、よじのぼりはじめた。


 生はやがて、死にかわる。死は、ひそかに笑った。


 ひとつの時が過ぎ、もうひとつの時が過ぎ、そして最後の時がおとずれようとし
ていた。


 人類最後の宇宙船エン・エンド号が虚空の果てを疾走していた。ふたりの少女が、
そのなかにいた。
 ----彼女たちふたりが、最後の人類だったのかもしれない。
 少女は、もうひとりの少女に語りかけた。
 「まだなの?」
 問いをうけた少女は、ちいさく首をふった。
 少女は、深いため息をついた。そして、つぶやきをもらした。
 「なにもわからないのね」
 エン・エンド号は、無限の時を、無限の壁にむかって飛びつづけた。ふたりの少
女が、白骨になったあとも。
 やがて彼は、逆走する壁にぶつかり、壁を超え、神になった。


 最後の時が過ぎ去り、存在は無の実像のなかに吸いこまれていった。だが、いず
れはまた太陽が無を照らし、無は長い影を落とすだろう。そのとき、新しい神は新
しいステージをつくりあげるにちがいない。


 かれらは、だれひとりとして自分が孤独ではないことに気づいてはいない。


 そして、回る無の上に、それはあった。それは、より高いステージだ。


 「わしには、あの高い空の上になにがあるかは、わかっている」
 老人はひとりつぶやいた。
 赤色の巨大な太陽が、地平線をはるかに超えて、大地をつつんでいる。
 海は干あがり、狂気のごとき熱が大地を満たしている。
 「それがなにか知りたいか?」
 老人はひとりつぶやいた。
 そこもまた。
 「教えてやろう。空の上には、空があるのだ」
 老人はひとりつぶやいた。


 胎児は、子宮のなかでいつのまにか生であった。


 そして、水は高いところから低いところへと、流れおちる。そして----


 それは、なおも広い内にあった。無さえも、ひとつの存在にすぎなかった。


 海に生が満ちあふれたころ、すでに戦いははじまっていた。
 その戦いは広がり、そのたびに生は死にかわっていく。
 それを、宿命だと考えた。だれが……?


 ----そして、幾多の流転が演じられ、やがて幕はおりた。しかし、その内ではさ
らに新しい劇が用意されていた。
 やがて、幕は開き、ステージの上にひとりのピエロが現れ出た。ピエロは、ユー
モラスにおどった。
 客は、ひとりも笑わなかった。
 ステージを踏み破って、ピエロは落ちていった。こうしてピエロは、永遠におど
りつづけるかわりに、永遠の落下を巡りつづけることとなった。


 やがて、ふたたび幕は開かれるだろう。
 開演を告げるベルがなり、ひとびとはひざを正した。かれらがそこにいるかぎり、
舞台はつづくのだ。そしてかれらは、いなくなることはない。永久にない。


 ----神よ。またはじまる。我が手のひらの上で、新しい幕が開かれる。


                                開演----完




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