AWC 児童文学探訪「へちまのたね」(2)  浮雲


        
#2892/3137 空中分解2
★タイトル (AVJ     )  93/ 2/22   6: 5  (102)
児童文学探訪「へちまのたね」(2)  浮雲
★内容
   *
 児童文学の危機が叫ばれ、また子どもたちの゛本ばなれ゛を憂いる声が日毎に
高まっていることは、前回でも触れたとうりですが、ところがその一方で、出版
社以外の企業や自治体が主催する各種コンクール(「**童話賞」といった類の
)への応募が「花盛り」といってよいほどの活況をみせています。
 ざっと見ただけでも、

 ・宝塚ファミリーランド童話コンクール 近畿電鉄  2月
 ・共石創作童話賞           共同石油  5月
 ・志木市いろは文学賞         志木市   7月
 ・新美南吉童話賞           半田市   7月
 ・ほのぼの童話館           レイク   8月
 ・ニッサン童話と絵本のグランプリ   日産   11月
 ・子どもたちに聞かせたい創作童話   鹿児島県 12月

 などを上げることができます。しかも、応募数は大半が千を超すといわれ、昨
年(92年)の「宝塚ファミリーランド童話コンクール」の場合は、応募総数1
,463点ということです。
 いったいこれは、どういうことでしょう。この盛況ぶりをどう説明したらいい
のでしょう。

 1)「一点豪華主義」と根はひとつ?
   創作の動機は、わが子可愛さのあまりであって、子どもを「ペット」扱い
   する親が増えていると言われるが、そのことと深い関わりがあるとみられ
   る。
 2)「童話」は手が出し易い?
   小説よりレベルの低いものだとの先入観によるもので、「童話でも」ある
   いは「童話なら」といった感覚でものを書いているのではないだろうか。
 3)カルチャー教室ブームの延長?
   どうしても書きたいものがある、というよりは、漠然とした能力開発、あ
   るいはカラオケとも似た自己主張の現れ、といえるかも知れません。
 4)賞金稼ぎ?
   枚数が10枚前後で誰にでも取り組める(という錯覚を与える)。また賞
   金が高額で魅力である。

 などが考えられますが、すべての項目に共通している「子ども不在」、つまり
、子どもたちに向かって書いているというよりは、自分の趣味や教養のために書
いている、というあたりが気がかりです。
 もちろん、全員がそうだ、というのではなく、中にはプロをめざして腕を磨こ
うと投稿している人もいます。応募すること自体、積極的な行為であり、歓迎す
べきことであることは言うまでもありませんが、だからといって、手放しで喜ぶ
こともできないというのは、そういうことなのです。
 要するに、応募「花盛り」現象を、数字の上だけから判断するのではなく、い
ろいろな側面を見なければならない、ということではないでしょうか。
 主催者を喜ばすだけの「粗製濫造」は、読者である子どもたちにとってはもち
ろん、投稿者本人のためにもよくない、そう思うのです。ですから、応募するに
あたっては、募集要領などをよく読んで、主催者側の理念をよくのみ込み、テー
マを選ぶ必要があるでしょう。手当り次第投稿する、という姿勢は、たしかにそ
の意欲は買いますが、見かけ上の数字(投稿数)を高めるだけで、むしろ有害だ
ということもできます。
 最近は、受賞した原稿が作品として出版されるようになりましたが、それでも
ほかの児童図書に比べて子どもたちの手に届くことは希れであり、そのことを考
えると、これだけのエネルギーがムダに費やされていいのだろうか、そんな心配
までしてみたくなります。
 もっとも、コンクールの「花盛り」現象は、ひとつ児童文学の分野ばかりでは
なく、小説、詩歌、俳句などなどにおいてもみられ、その数およそ600ともい
われます。(朝日新聞記事)

   *
 また、これまで数多くの児童文学作家たちを輩出してきた同人誌も、それなり
の活況を見せています。たとえば、月刊雑誌「日本児童文学」の「同人誌評」に
寄せられた同人誌は、93年2月号では十四誌、3月号では十八誌となっていま
す。参考までに誌名を紹介しておきましょう。

 2月号掲載
 ぶらんこ(大阪)、麻の実(北海道)、きおっちょら(東京)、かみふうせん
 (京都市)、松ぼっくり(岡山)、くさの芽(北海道)、原野の風(北海道)
 、ひろしま児童文学(広島)、児童文学(京都)、コボたち(岐阜)、白い雲
 (東京)、まほうのえんぴつ(北海道)、やんちゃ(京都)
 3月号掲載
 まゆ(北海道)、まりっ子(宮崎)、ひらく(北海道)、やまぶどう(北海道
 )、枝(神奈川)、一期会(神奈川)、どんぐり(東京)、みお(北海道)、
 宇宙部落(東京)、九州童話(福岡)、ユニコーン(名古屋)、15期星(埼
 玉)、(以下六誌は紹介なし)

 このほか、出版社などが主催する、プロへの登竜門とみなされているコンクー
ルもたくさんあります。

 ・童話の海             ポプラ社      1月
 ・ぶんけい創作児童文学賞      文渓堂       3月
 ・講談社児童文学新人賞       講談社       5月
 ・福島正実記念SF童話賞      少年文芸作家クラブ 9月
 ・「子ども世界」児童文学部門新人賞 子ども世界    12月

 これらのコンクールでは、入賞した応募作品は出版されることを前提としてい
ます。また、当然レベルも高く、それを反映してか応募数はぐっと少なくなって
います。
 ご存じかも知れませんが、おととしの「福島正実記念SF童話賞」の大賞受賞
は、当時幼稚園児だった竹下竜之介くんの書いた「エリちゃんきんぎょを食べた
」です。
 さらに、プロを含めたものとしては、「小川未明文学賞」(11月)などがあ
ります。賞金は、なんと二百万円です。
 前回、小川未明に代表される「象徴童話」=近代童話、を乗り越えるところか
らしか現代児童文学の発展はないという、いわゆる「さよなら未明」説について
紹介しましたが、こんにちのこうした小川未明「復活」は、何を意味するのでし
ょうか。現在の児童文学の危機をたん的に象徴したエピソードなのか、あるいは
解決への唯一の道なのか、とても重要な問題であると思います。おいおい、みて
いくことにしましょう。

                        −つづく−
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