AWC  天奏のものがたり・3   月境


        
#2875/3137 空中分解2
★タイトル (RDF     )  93/ 2/18  11:50  (183)
 天奏のものがたり・3   月境
★内容

被崎「・・智可の・・。して?(険しい表情)」
智 「恐れながら続きは私から申し上げます」
    二人、智をみる。
    両手をついている智。
智 「智可さまにおかれましては、先頃被崎さまのご病気のことをお聞きになり、大変
  お心を痛められ、一刻も早く快復していただきたいと、天奏のお家に代々伝わる秘
  薬をこの度御自ら調合なされました。その薬を私に託された次第です」
小原「(智をみながら)この娘、嘘をついているようには到底思えません。智可殿の放
  たれた密使と、信じてもよろしいのでは?」
被崎「(智をみつめながら)・・そうだな。智可は、自身の身代わりにと、自分にどこ
  か似たところのあるこの娘を密使に選んだのかもしれない・・」
    穏やかな微笑。


美濃・向鷲見城全景(夕)
    夕映えの光をうけて美しい。


同・裏門
    そわそわと歩き回っている明。
明「この城を立ってから八日目も過ぎようとしているのに・・。何をしているのだ、智
 は・・。このままでは智可さままで病になってしまうではないか・・」
    ぶつぶつと独り言を言いながらふと顔をあげる。
    遠くから早足で近付いてくる女の姿。
    ぱあっと明るくなる明の顔。


同・薄暗い一室・智可の幽閉されている部屋
    膝を抱えてうずくまっている智可。
    近付いてくる足音に耳ざとく気付いて、廊下の方を睨め付ける。
声 「智可さま」
智可「・・・(無視)」
声 「被崎速騎殿より、密書が届きましてございまする」
    目を見開く智可。
    がばっと身を乗りだす。
智可「(擦れ声で)今・・何と申した・・?」
    障子ごしの智可と明。
明 「被崎速騎殿から密書が届きました、と」
    バタバタと立ち上がり、その勢いで障子を開け放つ智可。
    対照的なほど静かに、膝をついてひかえている明。
    幽雅なくらいに密書を差し出す。
    ひったくるように明の手から密書を受け取り、それを開く。
智可「(狐につままれたように)・・被崎の筆跡・・。あいつは今、死の床にあるので
  はなかったのかっ?」
明 「(静かに見つめて)まずはお読みになったらいかがです?」
    しばらく明を見つめてから、再び書状に目をおとす智可。
    読みすすむほど、昏迷の色を深めていく。
智可「(文面から視線をはずして)・・薬をおくるよう命じたのは、お前か?明」
明 「(首をふって)滅相もない。一家臣の私に、そのような出すぎた真似はできませ
  ぬ。私はただ、一の君さまが父に命じられたことの手伝いをしたまでのことにござ
   いますれば」
    信じられないというように明を凝視する智可。
    じっと見つめ返す明。
智可「(消えいるような声で)・・兄上は・・?」
明 「天守におられます」
    ダッと部屋を飛び出す智可。
    複雑な表情で見送る明。


同・渡廊下
    無心に走る智可。


同・天守
    被沙が大の字になって寝っころがっている。
    あたりに人はいない。
    人払いをしているのである。
    端整な顔の上に夕日が差し込んでいる。


同・階段前
小姓1「(おどおどと)恐れながら、お人払い中にございますれば、天守へはまいられ
   ません」
智可「かまわぬ!」
小姓2「どうか、お控えください。一の君さまのご下命にござりますれば・・」
    構わず通り抜けようとする智可を抱き留める二人。
智可「何をする!」
小姓1「なりません!智可さま!」
小姓2「どうか、どうか、お控えくださいませ!」
智可「ええい!控えよッ!」
    びくりとする二人。
    振り払う智可。
    キッと小姓達を見据える。
智可「お叱りなら私が受ける!おぬしたちはただ、黙ってここを通せばいいのだ!」
小姓1・2「(震え上がって)も・・申し訳ございませぬ!」
    平伏する二人。
    階段を駆け上がる智可。


同・天守(夕)
    天守に駆け上がってくる智可。
    階段に背を向けるようにして寝っころがっている被沙。
智可「(おずおずと)・・兄上・・?」
被沙「(淡々と)・・人払い中、なんだけどな・・」
智可「・・ごめんなさい・・」
    くるっと寝返りをうつ被沙。
    無表情な目で智可をみつめる。
    うつむく智可。
被沙「・・・つっ立ってることなんかないよ・・」
    ふっと顔をあげる智可。
    目が合う。
被沙「こっちにきて、座ったら?」
智可「・・・(頷いて被沙の近くに座る)」
被沙「何しにきたの?」
智可「(伏し目がちに)一言、あやまりたくて・・」
被沙「・・あやまる・・」
智可「(おどおどと)・・ひどいこと・・言った、から」
    ゆっくりと身体をおこす被沙。
    まっすぐに智可をみつめる。
智可「(俯きがちに)ごめんなさい」
被沙「・・いいよ、べつに(顔を背ける)」
智可「・・それと・・(上目づかいに被沙をみる)」
被沙「それと?」
智可「被崎を救けてくれて、有難う」
    小さく吐息する被沙。
被沙「・・正直、馬鹿なことをしたと思ってる・・」
智可「・・・(見る)」
被沙「天奏の一の君ともあろうものが、わざわざ間者を使って敵将を救けるなんて、正
  気の沙汰じゃない。父上に知られたら、ただじゃすまされないだろうことは容易に
  察しがつく。けど・・」
    被沙の顔が歪む。
被沙「・・だけど・・」
智可「・・兄・・上?」
被沙「(切なく)だけどあいつを救けなければ、お前が死んでしまいそうだったから」
智可「・・(凝視)」
被沙「(智可をみて)・・僕にとって被崎を倒すということは、天奏を護るというより
  智可、お前を護るということ。だけど被崎を見殺しにすることが、今のお前にとっ
   て死をもたらすことだというのなら・・」
    うつむく被沙。
被沙「・・おまえにそんな死に方はさせられない。 僕さ、お前がこの城にあがって、
  正式に二の君になったとき、自分に誓ったことがあるんだ」
智可「誓ったこと・・?」
被沙「(すこし笑って)この子は僕が存在したから、生まれてすぐに城をだされた。そ
  の存在すら抹殺された。だから・・僕が不幸にしてしまった子だから・・この城に
  あがった以上は誰よりも大切にしてやろうって」
智可「・・・」
被沙「・・幸せにしてやろうって・・。誓ったんだ」
    暫しの沈黙。
被沙「可愛い、弟だったから」
智可「・・・・」
    見開いた目にうっすらと涙がうかぶ。
被沙「・・一度だけ、お前の誼みであいつを救けた・・」
智可「あにうえ・・」
被沙「(すこし笑って)でも、二度はないよ。言っておかないとまたお前、断食しそう
  だからな」
    じっと智可をみる。
被沙「いいか?」
智可「・・うん・・(泣き笑い)」
被沙「よし」
    目をほそめて、無造作に弟の頭をなでる。
智可「・・ありがと・・兄上・・」
    消えいりそうな小さな声。
    残照が二人をやわらかく包み込む。


郡上八幡城付近(翌朝)
    帰路を急ぐ一組の行列。
    先頭に被沙と宗春が馬を並べて歩かせている。
    そのやや後方を智可と明が。
    さらにその後を供の武士たちが続く。
宗春「(にこやかに)一の君さま」
被沙「・・(見る)」
宗春「被崎殿を案じられる二の君さまに、あんな冷たい態度しかおとりにならなかった
  のには、何か訳でもおありですか?」
被沙「(視線を泳がせて)・・べつに・・冷たくなんか・・」
宗春「(可笑しそうに)普段の一の君さまなら、もっと優しい態度で、二の君さまに接
  しられるのではないですか?」
被沙「・・何が可笑しい?(睨む)」
宗春「・・一の君さまがあんな態度しかおとりになれなかったのは、もしかしたら被崎
  殿に嫉妬なさっていたからなのではないかと思うと・・(笑いだす)」
被沙「な・・、誰が被崎などに・・!(赤面)」
宗春「(笑いながら)やはり図星でしたか。大丈夫ですよ。口ではどう言われようと、
  二の君さまが一番大切に思われているのは兄君なんですから・・」
被沙「し、嫉妬などッ、してはおらぬ!(じたばた)」
宗春「そうでなかったら、だまって幽閉されているようなお方じゃあないですからね」
被沙「だから誤解だって!」
宗春「はいはい」
    必死になって弁解をはじめる被沙。
    まるで聞いていない宗春。        93・2・7 AM12:50







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