#2840/3137 空中分解2
★タイトル (AKM ) 93/ 2/11 15:12 ( 86)
【軍艦島は接吻の彼方に】その3 ワクロー3
★内容
《20代おんな心の謎》3 廃虚の島に到着
風が強い日でした。海上はうねりもあります。
夜が明けてきて、海の色と港の周囲の景色がはっきりとして来ま
した。
「迎えは、夕方4時。海がこんなだから、波が高いと午後7時く
らいまでもようを見る。どっちにしても、午後4時には、海岸の船
から見える場所にいてくれ」
瀬渡しのおじさんは、あっさりと、そう言いました。
夜が明けてるに伴い、空がみるみる晴れわたって来ました。快晴
です。港の両側に迫っている山肌に、樹木が茂っていました。どの
葉も、海風に強烈にあおられているのが見えました。
「木の葉が、みんな腹(裏側)をみせとるだろ。風が強いんだ。
こんな日は波が高い」
瀬渡しのおじさんは、繰り返しのようにいいました。
その間にも、軍艦島は、間近に迫ってきます。天候が急変したら、
きょう一日、帰れなくなるかも知れない。そんな予感もしました。
しかし、船で進んでいるときには、帰れない心配よりも、軍艦島
に無事にたどり着けるだろうか。そっちのほうを心配していました。
船が進んで二十分くらいたつと、島は僕らの視界いっぱいに広が
るほどになりました。間近にみる島は、島というよりも、巨大な要
塞。巨大なコンクリート建造物に見えました。
港を出て30分が過ぎました。船は、島に取り付くきっかけを探
るために、速度を落としました。
「そこが桟橋跡なんやが、コンクリートが腐っていて、危ない。女もお
るこっちゃから、裏に回るか」
瀬渡しのおじさんは、そう言って、軍艦島の北側に船を向けまし
た。
軍艦島は、定期航路があった時代でさえ、しけで船が接岸できな
い日が多かったと聞いていました。これほどの晴天でも、わずかな
風波で、船が接岸できないのです。
「カメラ美女」は、いつのまにか、さかんにシャッターを切り始
めていました。ライツ=ミノルタは、ちょっと見ると安物のカメラ
のように頼りなげなので、まるで写真を撮影している緊迫感があり
ません。船のへさきに腹ばいになって、島の全景を撮影している
「カメラ美女」の姿はこっけいですらありました。Sは、そんな
「カメラ美女」に、何かさかんに声をかけていました。
軍艦島の正面防壁が日の出直後の太陽光線を強烈に反射していま
した。「カメラ美女」のファインダーに写っているのは、まばゆく
輝く 軍艦島の姿だったでしょうか。
船は右へ右へと回頭します。強烈な日の出の光線は、次第に届か
なくなって、島の裏側の陰気な荒れた肌のコンクリート護岸が目に
入ってきました。
表の「腐った桟橋」よりも、さらに貧弱な「桟橋」が見えました。
あそこに接岸するのかと思うと心細いほどです。
いよいよ上陸。
Sは搖れる船から、器用に桟橋に降り立つと、まず船首のロープ
を手に持ち、最初に「画学生」を、ついで「カメラ美女」を、さら
にS自身のカメラ機材を持った僕を、誘導して、桟橋から島の中へ
と誘いました。
ロープを最後に船に投げ返しました。
「じゃあな。夕方4時だぞ。表のほうだぞ」
念を押したおじさんの声は、船とともに桟橋を離れ、たちまち遠
くに消えて行きました。
(以下次回につづく)