AWC 邪狩教団 第2話 炎の召喚 第10章    リーベルG


        
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邪狩教団 第2話 炎の召喚 第10章    リーベルG
★内容
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 ツオ・ルは、カインが動きを止めた後も、警戒してしばらく近寄ろうとはしなかっ
たが、少年の呼吸が完全に停止しているのを知ると、顔中を口にして高笑いした。
 「死におった!」広いアリーナ全体にその声は響きわたった。「かなわぬとみて、
自分で息の根を止めてくれるとはな!手間が省けたわ!<巫女>の一族といっても、
こんなものか!ぐががががががが!」
 ツオ・ルは、非人間的な笑いをおさめると、アスラ達に命令した。
 「それ、そいつを食ってしまえ」
 しかし、カインの身体に殺到したアスラは、酢でも浴びせられたように弱々しく唸
り声をあげて、その周りをうろうろするだけだった。カインの胸に刺さったままの聖
剣から、依然として霊気が放たれていて、邪悪な存在であるアスラ達を寄せ付けない
のだ。それを知ると、ツオ・ルはアスラ達を押し退けて進み出た。
 「どけ、ふがいない奴らだ」
 ツオ・ルはカインに近付いた。邪力を発して、霊気を相殺しながら。右手から伸び
た触手が聖剣に触れようとした。
 激しい爆発音と震動が地下を揺るがした。アスラ達は不安そうにざわめいた。ツオ
・ルは振り向いて、上を見上げた。
 「くそ、何をやっておるのだ!」怒りで顔がますます崩れていく。「上を見てこい
!さっきの奴らは何をやっているのだ!」
 その時、聖剣がカインの胸から飛び出した。
 同時に圧倒的な霊気が、ツオ・ルの邪力を津波のように押し流した。それに触れた
アスラ達が一斉に恐怖の叫びを発した。
 「ばかな!」ツオ・ルは強烈なパワーで床に叩きつけられてわめいた。
 剣は明らかに自由意志を持って宙を飛び、アスラの群れの中に突入した。たちまち、
数匹が首を吹っ飛ばされて倒れた。アスラ達は恐慌の叫びをあげながら、逃げまどっ
た。それらを剣は、情け容赦なく後ろから斬り倒していく。
 「そうか、わかったぞ!」ツオ・ルがうめいた。「幽体離脱か!」
 カインの最後の手段がこれだった。カインのアストラル・ボディは今、少年の身体
を離れていた。ただ、それだけならば、実用性に乏しい芸にすぎないが、カインを訓
練した<巫女>一族の師範は、剣に宿る魔術を教えたのである。
 剣は、血に飢えた猛獣のようにアスラを斬りまくった。アスラ達は、カインとの戦
いの記憶のおかげで、そのスピードを捉えることはできたかもしれないが、人間が握
っていれば決して不可能な動きで襲いかかる剣をよけることはできなかった。
 それでも、アスラ達は逃げながらもその動きを少しずつ学習していた。だが、せっ
かく剣を回避しても、反撃すべき相手の身体が存在していないのではどうしようもな
い。おまけに、周囲には恐慌に襲われた仲間が右往左往しており、お互いの動きを邪
魔し合っている。                  アストラル
 さらに肉体の束縛を逃れたカインの霊体は、生身で操るよりも遥かに強大な霊力を
発揮していた。その力はツオ・ルの邪力と同等か、それ以上だった。剣から発する波
動は次第に強くなっていき、アスラ達は近寄ることも、剣を直視することもできなく
なっていた。それどころか剣が触れただけで、その醜く強靭な身体は、ぶくぶくと泡
立ち、溶解しはじめた。
 みるみるうちに、数を減じていくアスラの群れを見ながら、ツオ・ルは立ち上がっ
た。剣がそれに気付き、アスラ達をはねとばすように突進してきた。
 ツオ・ルは手近のアスラの首筋をつかむと、剣に向かって突き飛ばした。剣は正面
からアスラの胸に突き刺さった。アスラがぞっとするような絶叫を発し暴れ回った。
剣は崩れ始めたアスラの胸から離れようと、左右に動いた。その隙にツオ・ルはアリ
ーナの壁を飛び越えると、石段を驚くほどの早さで駆け上がり、何かを叫んだ。壁の
一部がスライドして、人間が一人通り抜けられる幅だけ開いた。
 剣はようやくアスラの身体から離れて、矢のような勢いでツオ・ルに向かって飛ん
だ。だが、その時ツオ・ルはドアをくぐり抜けていた。再び、壁が閉じる。一瞬の差
で、剣は間に合わず頑丈な石の壁にぶつかって、はねとばされた。
 聖剣はしばらく迷うように、壁の前に漂っていた。が、不意にあきらめたように方
向を転じると、相変わらず狂乱しているアスラ達に向かった。
 「んがひー!」
 「あふー!」                                  シンフォニー
 たちまちアスラ達は、意味をなさない恐怖の叫びで交響曲を奏でた。カインの剣は
それに混じった不協和音のように、呪われた肉体を屠っていった。隅の壁にもたれた
少年の冷たい身体は、それを楽しむように沈黙を守っていた。

 階段を降りた先には、洞窟のような場所が続いていた。機械で掘削したらしい。壁
に数メートル毎にハロゲン球使用の照明が設けられており、足元を照らしていた。
 玲子たちが立っている場所から、20メートルほど先で洞窟は左に折れ曲がってい
た。ポイントマンの兵士が素早く走り、ミラーで曲がり角の行く手を覗いた。手を振
って合図する。小隊は静かに、だが速やかに移動した。
 「この先に何があるの?」玲子は大佐に訊いた。答を期待してはいなかったので、
大佐が口を開いたときには少し驚いた。
 「おれもそれを知りたいんだ」その声には微かに緊張が感じられた。
 一行は曲がり角を曲がった。いくつか電子警戒装置があったが、兵士たちによって
あっさり潰された。玲子は、この謎の部隊が自分の味方であるとは一瞬たりとも考え
なかったが、それでも敵地を進むときの同行者としては、この上なく信頼できる連中
であることは認めざるを得なかった。しかも、明らかに<従者>との戦闘を想定して
訓練されているらしい。
 玲子はさっきの客室での戦闘を思いだした。大佐は、扉を開けもしないうちに、ア
スラが接近していることを知った。<旧支配者>の下僕の接近を知る方法は、いろい
ろある。実際、人の数だけあるといってもいい。
 たとえば玲子はプラーナと呼ぶ、一種の生体エネルギーをレーダーのように発振す
ることでそれを知る。カインは<巫女>の一族の血で、それを感じる。ただの人間で
も訓練すれば、<従者>の発する邪悪な瘴気(イーヴルサイン)を感じることはできる。だが、
玲子やカインにはかなわない筈なのだ。
 洞窟はゆるやかな下り坂になっており、何度か直角に折れ曲がっていた。すでに小
隊は数百メートルを進んでいた。玲子は、大佐に関する詮索を中断して、無意識のう
ちに記憶していた洞窟を、頭の中で図式化してみた。それは正方形の螺旋上になって
いた。しかも、その一辺は少しずつ広くなっていた。つまり洞窟は四角錐の表面をな
ぞっている形に掘り抜かれていることになる。さらに正方形の各コーナーは正確に東
西南北の各方位を指していた。
 さっきから玲子は瘴気を感じていたが、それは降りるに従って次第に強まっている
ようだった。この洞窟の終点が、さっきのアリーナだとすれば、そこにツオ・ルがい
ることになるので、別に不思議ではない。大佐の顔を窺ったが、玲子と同じように瘴
気を感じているのかどうかを、その平静な表情から推し量ることはできなかった。
 小隊はまた、曲がり角に近付いた。先頭を進むポイントマンが、慎重に向こう側を
窺う。兵士の行動は、それまでとは違っていた。手を振って前進の合図を送るかわり
に、駆け戻ってきて、壁に扉があると報告したのだ。
 「開けられそうか?」大佐は訊いた。
 「やって見ます」兵士は角を曲がったところで、しゃがみこんだ。集団の先頭を進
んでいたチームが、その周囲で援護のために銃を構えた。
 長く待つ必要はなかった。ガチャリと、何かが外れる音がし、電子ロック機構が地
面に転がった。兵士は、慎重にドアを押した。
 ドアの向こうに広がる光景を目にした瞬間、全員が呼吸を忘れて凝固した。無感情
そのものだった兵士たちの何人かが、あえぎ声をもらすのが玲子の耳に入った。もっ
とも、玲子はそんなものに全く注意を払っていたわけではない。
 そこは一辺が100メートル以上ある巨大なプールだった。深さは1メートルほど
で、底から30センチぐらいまでゲル状の液体がたまっていた。そして、その中に沈
んでいるのは、おびただしい数のアスラだった。
 ざっと見ただけでも、千匹以上のアスラ達の身体は、浸っている液体にゆっくりと
緩慢に溶かされていた。すでに強靭な皮膚はふやけ、所々が破れて、赤黒い内臓が露
出していた。それでも、生きている証拠に、何匹かが時折、思いだしたように弱々し
く腕や脚を動かすのが見えた。しかし、その動きによって皮膚が破れ、太い骨からぬ
るりと肉が離れていくと、醜い顔を歪めることによって苦痛を表すのだった。
 さらにおぞましいことには、アスラ達の崩れかけた肉体は互いに融合していた。そ
れは全く不規則で無秩序な融合状態だった。腕と腹、脚と顔、背中と背中。ありとあ
らゆる身体の部分が接着し、解け合わさっていた。
 茫然自失の状態から立ち直ったのは、玲子が一番早かった。プールから目を外らし
て、周囲を見回す。壁は、高い天井に近付くにつれてその幅を狭くしていた。ピラミ
ッドの内部のような場所である。
 玲子達は今、北東を向いた一辺にいた。その左の辺、つまり南東を向いた辺の中央
に、同じ様なドアがあった。その反対側、つまり玲子達の右、北西の辺には何もない。
そして、プールの反対側の壁、南西には巨大なドアがあり、固く扉を閉ざしていた。
人間が通るには大きすぎる。象やキリンでも、まだ余裕がある。ティラノサウルス・
レックスなら頭をかがめずに通れるだろう。玲子はドアを見つめた。あのドアが、何
かのサイズに合わせてあるのなら、そいつと対面したくはない。
 不意に玲子の全身が総毛立った。プールの液体が、風もないのにぞわりと波だった
のである。そして、その一部が突然、盛り上がったかと思うと、触手をのばすように
びゅっと飛び上がると、玲子達の方に鋭い勢いで飛んできた。
 ほとんど本能と反射神経だけで玲子は身を沈め、それをかわした。それは意外な粘
着性を見せ、一人の兵士の顔にびちゃりと巻き付いた。
 同時に、数人の兵士が銃を向けて、一斉に発射した。強烈な破壊力を持つ弾丸は、
液体の触手に命中したが、何の被害ももたらさずにそのまま貫通していった。液体は
不幸な兵士を易々と持ち上げると、戻って行った。
 兵士の身体はプールに飲み込まれた。顔から液体が離れ兵士は恐怖の叫びを上げた。
 「うぎゃああああああああああ!ああああああ!」
 周囲から液体が蟻の大群のように、兵士の身体を覆い始めた。兵士は手足をばたば
たさせて、逃れようともがいたが、液体の力は想像以上に強いと見えて、次第に抵抗
力を奪われていった。口に液体が侵入し、兵士は絶叫をやめたが、その顔に浮かんだ
恐怖は消えなかった。
 恐るべき液体には、麻酔作用か何かがあるらしく、兵士の動きは次第に弱々しくな
っていき、ついに膝をついた。すでに、迷彩服は引き裂け、露出した皮膚を液体がむ
さぼるように溶かし始めていた。
 その時、大佐が無言で銃を抜いた。
 一瞬、狙いを定めて素早く2発撃つ。銃声が反響し、弾丸はプールの中の兵士の額
と、心臓を正確に撃ち抜いた。兵士の身体は液体の中に倒れ込んだ。
 「これは一体何なのだ」大佐は銃をしまうと、振り返って玲子に訊いた。
 「知るもんですか。あなたはツオ・ルと親しいんでしょう?それなのに、これが何
だかわからないの?」玲子は少し皮肉をこめて答えた。
 「別に親しいわけじゃないさ。それにおれだってこんなものは初めて見るんだ」
 玲子は兵士が倒れた場所を見た。兵士の身体は無数のアスラと静かに融合し始めて
いた。嫌悪感が沸き起こった。今すぐ、焼き払ってしまいたいくらいだ。
 「あの液体は、明らかに意思を持っている」大佐は考え込むように言った。「あれ
が<旧支配者>の細胞だとは考えられないか?」
 実は、それは一番最初に玲子の頭の中に浮かんだ考えと同じだった。
 「すると、ツオ・ルがアスラを作ったのは、それを培養するためだったのかしら」
 「闇の軍団を作り上げると言っていたがな」大佐は顔をしかめた。
 「やっぱり親しいんじゃないの」
 「馬鹿をいえ」大佐は吐き捨てるように言った。
 「何度も訊いたけど、また訊くわよ」玲子は正面から大佐を見つめた。「一体、あ
なたたちは何者なの?どうして、ツオ・ルを知ってるのよ?」
 大佐が口を開いたとき、洞窟の奥から何かの音が響いてきた。たちまち、兵士達が
展開して銃を構える。大勢の足音のようだ。となると、その正体は一つしかない。
 果たして、大勢のアスラが走ってくるのが目に写った。
 「変ね」玲子は口の中でつぶやいた。アスラたちは、攻撃のために突進してくるの
ではなく、まるで何かから逃れるように、悲鳴とも唸りともつかぬ声を上げながら、
走っているようだった。
 アスラの集団の先頭が、20メートルまで接近した瞬間、小隊は同時に発砲した。
洞窟に鼓膜が引き裂けるほどの轟音が反響し、数匹のアスラの頭が瞬時に吹き飛ばさ
れた。だが、アスラ達は怒りの叫び声を上げたものの、なおも突進してきた。
 再び、小隊は発砲した。前よりも多くのアスラの頭部が破裂した。しかし、その時
には数匹のアスラが硝煙をかいくぐるように、接近していた。
 「ひごうるるるぅおおお」
 牙の並んだ口から粘液を垂らしながら、1匹のアスラが銃を構えている兵士の懐に
飛び込んだ。兵士達の予測を越えた敏捷性である。100匹以上のアスラの犠牲の上
に獲得したスピードだった。アスラは目にも止まらぬ勢いで腕を振り、鋭い鈎爪で兵
士の喉をかき切った。
 兵士達の銃は圧倒的な殺傷力を持っていたが、アスラは兵士の数十倍を数えること
ができた。玲子に言わせれば、可愛げがないということになるのだが、兵士達は恐れ
る色も見せずに整然と、少しずつ後退して距離を保ち、なお有利を保っていた。が、
それも次第に危うくなっている。弾幕をかいくぐって飛び込んできたアスラが、銃弾
を浴びてズダズダに引き裂かれる前に、兵士を一人づつ道連れにしているからである。
 玲子は兵士達とともに後退しながら、カインの身を案じていた。アスラ達がこれほ
どまでに恐れる対象として考えられるのは、玲子や大佐達を除けば、カインしかいな
い。つまり、それはカインが今なお健在であるという証なのだが、プラチナブロンド
の髪の少年の姿は見当たらなかった。
 「くそっ!」大佐が冷静さの仮面をかなぐり捨てたように吐き捨てた。大佐の目の
前で、また一人の兵士がアスラの鈎爪に目をえぐり取られて倒れたからである。すで
に戦っている兵士は8人と、大幅にその数を減らしていた。アスラ達はパニック状態
に陥っていたが、後退するということを全くしなかった。小隊はC4や手榴弾をはじ
めとする様々な破壊力のある兵器を装備していたが、狭い洞窟内では心ならずも火力
制限をしなければならなかった。後先のことを考えずに、爆発物を使用する馬鹿がい
ないのはさすがというべきだが、彼らがこれほど弾丸を無駄にしない優秀な部隊でな
ければ、とっくに全滅していたに違いない。
 玲子は戦いには参加せずに、ずっと兵士達の後ろに位置していた。自分だけが安全
な場所にいることに後ろめたさを感じないわけではなかったのだが、恐ろしい銃弾が
飛び交う中に飛び出して、自分の四肢とメダリオンだけで戦う気はそれ以上になかっ
た。銃を借りても、玲子の腕では役に立たないだろう。
 不意に玲子はさっきの扉の方を振り向いた。今、小隊はちょうど扉の真横に位置し
ていた。プールの南東に位置している扉が、激しく開いたところだった。ドアを開け
た者の姿が、光でシルエットとなっている。そこから流れてくる瘴気はアスラたちと
は比較にならないほど強大だった。
 「ツオ・ル!」玲子は叫んだ。




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