AWC 天使の世代(5/7)


        
#2224/3137 空中分解2
★タイトル (NKG     )  92/10/ 2  21:36  (115)
天使の世代(5/7)
★内容


       8−SIDE・A【美鈴】


 言葉は錆び付いたオルゴール。
 誰かが言っていた。
 伝えたい事がなかなかうまく伝わらない。
 とてももどかしくて、やるせない気持ち。
 その日は一日中、あの子の事で頭がいっぱいだった。
 一瞬の時しか知らないあの子。
 だけど……
 あたしもあの子と同じでないとはいえない。
 生きるという勝負に負けてしまったあの子は、あたしとどう違うんだろう。
 きっと、さびしさから逃れたかったにちがいない。
 誰かに助けてもらいたかったにちがいない。
 傷だらけになってぼろぼろになって……
 楽になりたかったのだろう。
 死は安楽へと通ずる道なのか?
 悪夢から目覚めさせてくれる唯一の手段なのか?
 だめ…変なことばっかり考えてしまう。
 今の生活が夢の中だったらいいなんて……
     ・
――あなたは、負けないでね

 ふいに心の中によみがえる言葉。
 あの人があたしにくれた言葉。
 あの人の言葉には実感がこもっていた。
 まるで、負けたことがあるかのように。
 負けてしまった経験があるかのように。
 いや、負けた人間が生きていられるわけがない。
 きっと、あたしの思い過ごしだろう。

 あの人みたいに強くなりたい。

 壊れてしまった微笑みはもとに戻るのだろうか?

 思わずため息がこぼれる。


       9−SIDE・B【綴】


 茜色の空は、時間の感覚を曖昧にする不思議な輝き。
 闇と光の狭間の混沌とした曖昧さはとても好き。
 私は、幼い子供の立ち去った公園で、ブランコに揺られながら茜色の光を全身に
浴びていた。
 ブランコに座っていることに意味はない。
 ただ、なんとなくこの公園に誘われてしまったのだ。
 このなんともいえない雰囲気に浸っているのが好きなのだ。まあ、たまにやるの
がオツなんだけどね。
 ぼんやりと静かに揺れる私の視線に一人の少女が映る。どこかで見かけた顔だ、
としばらく考えてはっとする。
 そうだ、あの子じゃないか。
「やっほぉー!」
 私は立ち上がってあの子に声をかける。少し陰鬱な気分をまぎらわす為に、わざ
と脳天気な口調で呼びかける。
「え?」
 あの子はこちらを振り向く。少し幼げな素顔。やっぱりあの子だ。
「あ!……あ…あの、今朝はありがとうございました」
 あの子は少し驚きながら返事をする。
「今、暇?良かったらこっちこない?」
「あ、はい」
 私の気まぐれな誘いにあの子は素直に答える。なかなかかわいいではないか。
 名前…
 そういや、あの子の名前知らなかったな。ちょうどいいや、聞いてみよ。
 私はそれとなく質問する。
「そういえば名前聞いてなかったよね?」


      10−SIDE・A【美鈴】


 こんな所でまたあの人に逢えるなんて、あたしはとっても感激してしまう。
 あの人と言葉を交わせるなんて夢のよう。
「そういえば名前聞いてなかったよね?」
 ほんと、そういえばあたしったらあの人の名前も知らなかった。
 自分の名前も名乗ってなかった。
 せっかく、神様が再びめぐり逢わせてくれたのだもの。あの人のことをもっと知り
たい。そして、あたしを知ってもらいたい。
 そう、まずは自己紹介ね。
「あたしは楢崎美鈴。美しい鈴と書いて『みりん』ていいます」
 美しいなんて言葉、自分に使うのは気がひけるから、ついつい照れてしまう。
「へぇー、『みすず』って読むんじゃないんだ。『みりん』ちゃんなのね」
 あの人は本当に関心している様子でそう答える。
「友達には調味用のお酒の『ミリン』と同じで変とか言われるんですけどね」
 あたしは説明しながら苦笑する。
「そう?私はなかなかチャーミングな名前だと思うわ。『みりん』って響きがとって
もいいわよ」
 チャーミングな人にチャーミングだと言われるのは、なんだか複雑な気持ち。だけ
ど素直に喜びたい。
「あの、お姉さまは…」
 あたしの問いかけにあの人はけらけらと笑い出す。
「お姉さまはやめて…お姉さまは…」
 我を忘れて笑い転げるあの人もなかなか素敵。だけど、どう呼べば?
 笑いを押し殺しながら、あの人は自己紹介をはじめる。
「私はね、佐々間綴。言葉を綴る、文字を綴る、のアレね。わかる?」
 頭の中にぱっと『綴』という文字が浮かび上がる。
「うわぁ、かっこいい」
 イメージ通りの名前にあたしは目の前のあの人−綴さんを惚れ惚れと見つめる。
「かっこいいだなんて…美鈴ちゃん、ちょっと大げさよ」
 綴さんは困ったような笑みを浮かべる。
「いえ、ほんとに。その…素敵なお名前です」
 あたしは再び出逢えたうれしさで、完全に舞い上がっているみたい。
「そこまで言われると、私は照れてしまうぞ」
 綴さんは、ほんのちょっぴり頬を赤らめたように思えた。
 夕焼け空のバーミリオンの光のせいかもしれない。
 でも、そんな綴さんの姿は夕陽によく映える。
「美鈴ちゃん。立ち話もなんだから座らない?」
 綴さんは近くをぐるりと見渡して、座れるような所を探している。
「あ、ブランコ…」
 子どもの頃の想い。そんなものが心の中に浮かび上がってくる。
「ねぇ、綴さん。ブランコに乗ってみません?」






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