#2221/3137 空中分解2
★タイトル (NKG ) 92/10/ 2 21:23 ( 89)
天使の世代(2/7)
★内容
4−SIDE・A【美鈴】
家の近くのバス停であたしは先に降りる。
杏子に「バイバイ」と手を振り、そのままバスを振り返らずに家路を急ぐ。
悪意の塊である雨の中にいるのは気分が優れない。家に帰ったら、お気に入りの
音楽でも聞いて心を落ちつかせよう。そう思いながら足を早める。
角を曲がった所で、あたしの視界に一つの人形が映る。
公園の塀の所にフランス人形が雨に打たれながら座っている。
誰かが忘れていったのだろうか?それとも捨てられてしまったのだろうか?
あたしは、なぜか吸い寄せられるようにその人形のそばまでいき、その顔を眺めた。
雨を浴びて、少しうす汚れてはいるが、かなり美人なフランス人形だった。
手に取って顔を撫でてみると、人形はなにげに喜んでいる表情をしているかのよう
に思えた。自己満足の表れかもしれない。だけど、このまま雨ざらしにしておくわけ
にはいかない。
だって、この雨は悪意に満ちているのだから。
人形を胸に抱えると、あたしは家路を走りだした。
* *
あたしを裏切る天使たち。
大空には汚いものなんかない。
そう信じていた頃。
空の上にはきっと天使がいると信じていた。
田舎のおばあちゃんの所で見たきれいな星空。
降りだしそうな星の輝きはあたしの心を躍らせていた。
いつか天使が舞い降りてくるのだと思っていた。
だけど、この街に来てそれは偽りであることがわかった。
ここでの天使は、あたしに悪意を抱く。
灰色の空の灰色の天使は、灰色の雨とともにあたしたちを痛めつける。
きれいなものなんて何もない。
タオルで丁寧に人形の顔を拭き、その髪をとかす。
あの雨のせいで、頬紅や口紅の朱が落ちかかっている。
「かわいそう」
思わず人形を抱きしめてしまう。
あなたはあたし。
あたしはあなた。
悪意の雨にうたれて、きれいなものを見る瞳をどんどん削られていく。
壊れてしまった微笑みはもう元には戻らない。
ふと、心をよぎるもの寂しさ。
あの人に逢いたい。
あたしにほんのちょっぴりの希望をくれたあの人に。
5−SIDE・B【綴】
眠れない夜というのは誰でもあるものだ。
ベッドに横たわって天井を見つめる。
幼い頃は思いもしなかった今の自分。
何かを得るよりも、失ってきたもののほうが多いような気がする。
でも、私はそんなに弱くはないはず。
どんなに傷ついたって、それより熱く抱きしめられるものがあれば私は満足。
幼い頃、どんなことがあっても大事な人形を放さなかったように、私自身の大切な
ものさえ放さなければ何を失ったって平気。
平気なんだけどね。
私は寝返りをうち、ベッドの横にある机の上の時計を見る。
午前2時38分。
平気なはずなのになんで眠れないのかなと、考えて込んでしまう。
やっぱ何かひっかっかってるのかな?
私は布団にもぐって再び悩み続ける。
うん、私って弱い人間だわ、と自分で納得してまた落ち込む。
そんな私の頭に、ある女の子が浮かんでくる。
あれは、たしか一週間前の学園祭。
私の描いた絵を一途に見つめていたあの子。
タイトルの【朱(バーミリオン)】にあるように、バーミリオンをふんだんに塗り
込んだ私の夕焼け。これといって特徴はないけど、それを描いた頃の私のすべてがそ
の絵に込められていた。
そんな私の絵を見てくれたのだもの、ついつい声をかけてしまった。
あの子は声をかけられた事に驚きながらも私の絵を褒めてくれた。
「あたしこの絵、とっても気に入りました。雰囲気とかすごい好きです」
私はうれしくなって、その子に笑みを返した。
「ありがと。この絵って私の分身みたいなものだからね」
そしたら、あの子ったら私のこと熱い眼差しで見つめてだして、
「絵のイメージとぴったりですね。とっても…その…きれいで」
私ったらすっかり照れてしまったわ。
私のことを「きれい」と言ってくれるのは嬉しいけど、あの眼差しは尋常ではな
かったぞ。
ま、好いてくれるのはありがたいけどね。
でも、あの子もわりとかわいかったと思う。素朴なかわゆさは、同性から見ても嫌
味がなくて好感はもてるタイプだったな。
今、どうしてるのかな?