AWC 「邪狩教団」第7章            リーベルG


        
#2216/3137 空中分解2
★タイトル (FJM     )  92/10/ 2   0:13  (131)
「邪狩教団」第7章            リーベルG
★内容

                   7

 月は空高く登っているが、柔らかな月光は厚く夜空を覆った雲に遮られほとんど地上
に届いていない。このような暗闇の中で戦闘を行う場合、有利なのは優秀な軍事テクノ
ロジーの恩恵に預かっている側であることは間違いない。そして、SEALのテクノロ
ジーはまさしく超一流だった。もっともSEAL隊員等の特殊部隊の恐ろしさは、テク
ノロジーを最大限活用はするが、いざとなれば躊躇いもなくその庇護から抜け出して自
分自身の訓練された戦闘能力を発揮するという点である。
 つい数時間前にS−村の農家の屋内で、SEAL隊員9人を相手に勝利をおさめた玲
子であるが、単純に今度は人数が3分の1しかいないなどと喜ぶ気にはとてもなれなか
った。
 玲子がプラーナで加速された運動神経と反射神経を駆使したとはいえ、有利に戦闘を
リードできたのは、相手にとって間取りのわからないインドアをフィールドに選べたこ
と、SEAL隊員達が玲子の正確な位置を把握していなかったのに対して、玲子は位置
のみならず、隊員達の動きさえも絶えず頭の中でシミュレートしていたため、有効に先
手を打てたことが原因である。
 しかし、今回は玲子にとって有利な条件といえば、相手の位置をプラーナで探ること
によって、奇襲が可能だということくらいである。おまけにそろそろ疲労が無視できな
くなってきた。プラーナは無限のエネルギーなどではない。使用するにつれて体力を消
耗するのは避けられないのだ。戦闘のために神経や筋肉を加速すればするほど、後にな
ってツケが回ってくる。
 玲子は木に登って、接近してくるSEAL隊員達を待つ事にした。一瞬で3人を倒さ
なければ勝機は薄い。玲子は自分の体重を支えられるくらいの枝を選んで座り込んだ。
 待ちながら玲子はSEAL隊員達の方向にプラーナを発して、情報を得ようとした。
互いに5メートルほどの距離をおいて、逆三角形を構成している。外典を持っている隊
員は再後尾にいた。
 それにしても結局のところ、自分の推理はまたもや間違っていたらしい、と玲子は苦
笑しながら考えた。
 研究者の一人が拉致されたが、隙をみて外典の呪文を唱えたか、術を使ったかしてヘ
リの乗員をあの怪物に変化させたと玲子は考え、タイラントも賛意とまではいかないが
その可能性は認めた。ヘリの兵士達が自分で自分の首を絞めるようなことをするとは思
えないので、第3者の存在を考えないわけにはいかなかったのだが、状況から考えると
どうやら外典はヘリのどこかに隠されていたらしい。SEAL隊員たちはそれを取り出
して引き返してきた。
 すると誰がヘリの兵士達を怪物にしたのだろう?
 考えると頭が混乱してくるので、玲子はその問題を後回しにすることにした。疲労を
少しでも回復させておいた方がいい。
 SEAL隊員たちは数分後に、距離200メートルまで接近した。スターライトスコ
ープゴーグルをかけ、上下左右を慎重に警戒しながら進んでくる。一度ならずその視線
が玲子の潜む大木にも向けられたが、幸い玲子には気付かなかったようである。
 玲子は身体全体を活性化した。疲労は残っているが、数分ならば無視できそうである
。頭が雨上がりの空のように澄み渡った。
 隊員達が近付き、戦闘の2人が大木の両側を通過した。玲子の狙いは外典を持ってい
る3人目である。
 次の瞬間、通過した2人が同時に振り向き銃口を玲子に向けた。3人目も立ち止まっ
てサブマシンガンを構えた。
 ほとんど反射神経だけで玲子は行動し、おそらくそれによって命を救われた。3人の
サブマシンガンが同時に9ミリブレットを吐きだす直前、玲子は空中に跳んだ。数分の
1秒の差で玲子の立っていた枝が粉々に砕け散った。
 玲子が空中にいた時間は2秒そこそこであっただろう。敏捷な猫のように着地した玲
子を銃弾が追った。体勢を立て直すまもなく、夜露に濡れた草の上を玲子は転がって逃
れた。SEAL隊員達は視野の狭いゴーグルのために、玲子の素早い動きを完全にトレ
ースすることができない。玲子は転がりながら、手で地面を叩いて跳ね起き、近くの木
の陰に逃げ込もうとした。
 しかし、玲子の幸運のストックはとうとう底をついた。一瞬静止した玲子を実に正確
な射撃が捉えた。右腕に2発、左肩に1発、右わき腹に1発、左の太股に1発、右のふ
くらはぎに1発、ほとんど同時に6発が着弾した。
 自分で意図した動きよりも、着弾のショックによって玲子は木陰に飛び込んだ。なお
も銃弾が追い、太い木の幹にめり込む激しい音が夜の森に響いた。。
 体重が10キロ以上増加したようだった。わき腹の1発を除いて、銃弾は貫通してい
る。四肢で無傷な部分は1本もない。木にもたれながらでも、立っていられるのが奇跡
のようだった。一度力尽きたら2度と立ち上がる気力も体力も取り戻せないだろう。
 玲子は呼吸を荒くしながら腕を伸ばして、枝を一本折り取った。それだけの動作でも
全身がバラバラになりそうな激痛が走った。プラーナを全身の傷口に振り分ける。出血
がひどい。常人ならばその場でショック死しても不思議ではない。
 SEAL隊員達は半包囲フォーメーションで慎重に接近してきた。自分達の敵がただ
の兵士などではないことを充分知っているようである。玲子は出血はとりあえず無視し
て、神経を一時的に遮断して激痛を抑える事に集中した。もっともこれも長くは続かな
いだろう。もはや根本的な体力が失われつつあるのだ。
 「あと1分でいいから…」玲子はつぶやいた。枝を右手に握ると、左手でメダリオン
を取りだした。もちろん普通の人間に対しては霊的効果はなにもない。玲子が期待して
いるのは別の効果だった。
 SEAL隊員達が数メートルの距離まで接近するのを待って、玲子は最後の力を振り
絞った。メダリオンを放った。メダリオンは1人の隊員の顔面をかすめて闇の中に消え
た。玲子は間髪を入れずに枝をサーベルのように突き出した。隊員は腕でそれを払いの
けたが、枝に触れた途端、玲子のプラーナが全身の神経を直撃した。
 倒れかかる隊員を楯にして、他の隊員の発砲を封じた玲子は即製のサーベルをふるっ
た。一流のフェンシング選手のようなスピードと正確さで、相手の首筋を襲う。隊員は
後方に吹っ飛び、気絶した。しかし、玲子の方も代償を払わねばならなかった。右腕の
筋肉が瞬間的に活性化し、遮断していた神経が覚醒してしまったのである。右腕全体が
悲鳴をあげた。
 「くっ!」思わず苦痛の叫びが唇をついて出ようとするのをかみ殺した。激しい動き
のせいで傷口が広がり、出血が激しくなったようだ。意志に反して手の握力が緩み枝が
こぼれ落ちた。
 最後のSEAL隊員はその隙を逃さずMP5を発砲した。世界最高の集弾率を誇る高
性能サブマシンガンの連射は玲子の右手の真ん中を貫き、2人のSEAL隊員を倒した
枝をバラバラにへし折った。
 「あああ!」耐えきれず玲子は悲鳴をあげた。白い指がドクドクと吹き出る鮮血に染
まっている。しかし、生存本能は闘争本能と協力して、傷ついた身体を動かして回避運
動をとらせた。玲子はそれ以上、弾丸で体重を増やすことなく距離をおいた。
 SEAL隊員はMP5を撃ち尽くした。素早くエジェクターを操作し、空マガジンを
落とすと予備マガジンを叩き込む。5秒と費やしていない。指が銃器の一部となってい
る滑らかな動作である。素早く玲子に狙いを定めようと銃口を向けた。
 しかし、玲子はすでに行動を起こしていた。最初に倒したSEAL隊員からコンバッ
トナイフを奪っていたのである。
 MP5が9ミリブレットを猛然と吐き出すのと、ナイフが飛ぶのとは同時だった。S
EAL隊員はナイフを悠々とかわした。スピードは遅く、狙いは不正確だった。もちろ
ん玲子はナイフによるまぐれ当たりを期待していたのではなかった。真の狙いはわずか
な時間だけ、火線を玲子が動く方向からそらすことだった。その方向には意識を失った
SEAL隊員が地面に倒れていた。
 SEAL隊員は最初玲子の意図がわからなかった。しかし、次の瞬間、玲子がセイフ
ティがアンロックになったままのMP5を、それを握った仲間の腕ごと地面から持ち上
げるのを見て顔色を変えた。
 そのまま発砲すると仲間の身体を撃ち抜く事になりかねない。隊員の理性はそれを命
じていたに違いないが、殺していた感情が浮上した。その一瞬の躊躇いが運命を決めた
。玲子は生まれたときから手にしてきたかのようにモードをセミオートに切り替え、ト
リガーを絞った。銃弾は正確に最後のSEAL隊員が構えているMP5の機関部を破壊
した。同時に、ほとんど銃弾と同じ速さで跳んだ玲子が、最後の力をこめた指先を額に
突き立てる。隊員は声もなく崩れ落ちた。
 玲子はそのまま地面に落下した。文字どおり落下したのである。受身をとる体力も残
っていなかった。激しく地面に激突し、四肢を地面に投げ出して、断続的に襲ってくる
苦痛に喘いだ。渾身の力を振り絞って、全身の細胞からプラーナをかき集め右腕に集中
した。
 かろうじて右腕を動かすだけの力が戻ってくるまで数分を要した。のろのろと緩慢な
動きで血まみれの右手を口の前に持ってくる事ができた。送信機のスイッチを入れよう
として、腕時計そのものが破壊されているのに気付いた。直撃しなかった銃弾がかすめ
たに違いなかった。
 失望か絶望か恐怖が沸き起こるのを待ったが、あいにく心は肉体の苦痛を感じる方に
忙殺されているらしく玲子の期待を裏切った。
 「レポートも出さないうちに死ぬのかしら」乾いた唇で呟いてみる。「まだ、恋人も
いないし、結婚も離婚も不倫も浮気もしてないのに死ぬのかしら」
 どう考えてもその可能性が高いように思われる。かろうじて出血だけは止めたが、も
はやプラーナをコントロールする気力もない。救援を求める方法もない。空は完全に雲
で覆われてしまった。これでは衛星からの探知も不可能である。連絡が途絶えた事から
玲子の状態に気付くのは手遅れになってからだろう。
 「せめて最後にかっこいい台詞をつぶやいて死ななくちゃ」玲子はぼんやりと薄れか
かっていく意識の中で考えた。自分が読んだ本のページをめくり、好きな歌のフレーズ
を思い出そうと試みた。しかし、もはや思考はほとんど意味をなさなかった。玲子は目
を閉じて、包み込む暗黒に身を委ねた。





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