AWC The Godees Of Grace2【女神】  RUI


        
#2204/3137 空中分解2
★タイトル (NZH     )  92/ 9/29  21:34  (181)
The Godees Of Grace2【女神】  RUI
★内容
「しかし……」
 類は戸惑ったように言った。「河の費用がこちら持ち、であったって、そんな
に金がかかるものじゃないだろう」
「確かにそうだ。しかしね、その河は縁がすべて水晶でサファイアやルビーなど
の宝石をあしらい、河の底は金でしろという条件だった。それこそ、『宝石の河』
という名に相応しいけどね」
「……凄いことを考えつく人だったんだな。それなら、多少高いのもわかるよう
な気がするけどさ……でも」
 そこで、類は力強く言葉を切った。
「それでも、まだ寄付してくれる宝石の方が価値があるんじゃないか? だった
ら、それぐらいの出費、当然と思うけどな」
「まあ、その言い分は解るね。だけど、細工が大変なんだよ、指輪とかネックレ
スとかとは違ってさ。なにせ、大物だろ。部屋全体を大きな美術品に替えろとい
うのと理屈は同じだよ。----いくつかの美術館が挑戦したがね、その相続人の首
を縦に振らせることはできなかった。それほど、難しいんだよ、宝石だけの細工
ってのは」
 噛んで言い含めるように、宝石にもまずまず、詳しい敬が言った。
「そんなものか? ……でも、日本の近代美術館にその美術品があるってことは
……」
「日本が、その莫大な宝石の寄付を受けたってことさ」
「じゃ、近代美術館が『宝石の河』を作って、相続人の首を縦に振らせたってこ
とか?」
「そう。日本の技術は昔ながらの伝統芸だし、職人芸だからね。そのお陰で、余
程いいものができたんだろ」
  類は、ふうん、と考え込んで、
「しかし、その相続人っての。思い切ったことをやる人だな」
「今は、もういないがね。近代美術館と契約してから、安心したのか、亡くなっ
てしまったよ」
「なんて、もったいない!」
「だって、宝石を2000個集めるのでさえ、すべて質がいい宝石だから、4年
もかかってるんだぜ。その相続人の歳は40か50ぐらいだったけど……もとも
とその人も身体が、丈夫な方でもなかったんだ」
「じゃ、後の財産は? 約10億は?」
「さあ……確か、息子がいたから譲ったと思うんだけど。ともかく、相続人が契
約成立して亡くなってしまってからも1年かかってる。だから今回、やっと公開
される美術品には何年もの歳月が刻み込まれているんだ」
「で、それだけ詳しく調べ上げてるってことは、それを盗むつもりな訳だ」
「ああ。全部は無理----というか、気の毒だから、その中のメインをね……。
----詳しくは、明日の朝食の席で言うよ……」
 と、言い放ってピアノの方を向くと静かに鍵盤に指を乗せて最初の和音を響か
せた……。



1.女神



「ああ、あの……近代美術館にできる画期的な美術品、それの事だったの」
 石森優美がサラダを口に押し込みながら言った。
「あれを狙うわけですの? 難しいですわね」
 瀬川輝雪がコーヒーをゆっくり、飲み干しながら言った。
「優美、そんなにがっついて食べるものではありませんわ」
 と、顔を曇らせる。
「朝は食べなきゃ! 世の中、食べることが肝心よ!」
 石森優美は、ウエーブのかかった髪を揺らせながら言った。
 輝雪は呆れたような表情を魅せると、「で、敬、類、本気ですか?」
 と、その場にいた、敬と類の方向を向いた。
「俺は別に構わないと思ってる」
 と、類がサンドイッチを食べながら言った。
 つい、先刻、昨日言ったのと同じ事----つまり、近代美術館のメインを盗もう
という計画を話した所である。
 そして、ここの二人、瀬川輝雪と石森優美も敬と類の泥棒仲間である。
 両方、負けず劣らず、その手の能力を持っている。
 まず、食欲旺盛、と見られる方は石森優美。類と同じ、18歳。
 少々、おっちょこちょいでやり過ぎの面もあるが、いつも奇抜な考えを持ち、
すべて旨い具合いに事を運ぶ能力が優れている。
 それは一種の、無謀さとも取れるだろうが、彼女の場合、できそうにないこと
をやってのけてしまう。
 もっともこれは、彼女の天性の才能とも言えるだろう。
 そして、ひどく落着き払っている方が瀬川輝雪、17歳。
 漆黒の黒髪を自然に肩に垂らして紫の絹仕立てのリボンできちんと結んでいる。
 コンピュータを扱い、電気系統の処理が得意。
 言葉使いは異様な程、丁寧だが、輝雪にとっては、これが普通である。
 幼い頃から、こうしつけられたら、それが身についてしまうものだ。
 相当な金持ちの娘と見受けられるが、ここにいる親しい皆でさえも誰もそれを
聞いたりしなかった。      ・・
「もう、どれくらい経つだろ? あれを盗んでから」
 類が感慨深げに言った。
「さあ……? でも、半年ぐらいは経ってる」
 ゆで卵の殻をむきながら、敬が答えた。
 さて、ここで類が言っている、あれ、というのは。
 前回、盗んだ『トワイライト・キャッツ・アイ』の事を言っているのである。
 敬達が初めて、盗んだ美術品がこれである。
 これもある美術館に展覧されていたもので、外国産のものであった。
 勿論、猫目石の宝石で、それも上質の何カラットもするもので、シャトー効果
もよかった逸品である。
 大体、この宝石を盗んだ事で敬達4人は一躍(?)有名になったのだ。
 いや、泥棒が有名になっても都合が悪いだけで、アイドルなんかとは大分、違
って来るのだからこの際、関係はないのだが。
 ともかく、当時、『トワイライト・キャッツ・アイ』を盗んだ、という話題で、
新聞や雑誌などでかなり騒がれた。
 警備は頑丈で寸分の隙もなかった筈なのにそれを、あざ笑うかのようにすり抜
け、見事なまでに『トワイライト・キャッツ・アイ』を奪い取ったのだから。
 しかも、最初から警察など問題にしていなかったように、戦線布告文、(優し
く訳すと予告状のことだ)を警視庁に叩き付けていた。
 だからこそ、警察もいつもより慎重に警備をしたつもりだったのだろうが……
結果は見事にしてやられ、警察としての面目は丸潰れだった。
 それからしばらくは、伝説のように、その話で週刊誌などは盛り上がって。
 以後、『トワイライト・キャッツ・アイ』を盗んだ一味と思われる犯人を指す
名称は『トワイライト』になった訳である。
 先刻も言った通り、これが敬達4人のことだ。
「半年……。そろそろ、私たちの眠りが醒める頃ですわね」
 と、輝雪が言った。
「眠り? 何のことだよ?」
「雑誌に書いてあっただけですわ。『トワイライトは、あれだけの事をしたのだ
から、当分は長い眠りにつくであろう』って」
「……どこの雑誌だよ、それ。もう、二度と読んでやらない!」
 類は勝手に怒っている。そして、ふと気がついたように、表情を止めた。
「そう言えば……なあ、敬、メインって何だ?」
「は?」
「『宝石の河』の事だよ。全部は気の毒だから、メインだけをどうのこうの、っ
て言ってただろ?」
「……お前、メインが何かも知らなかったの?」
「ああ。----悪かったか?」
「いや、別に悪くはないけど。でもな、泥棒としちゃ、勉強不足だぜ、類」
「----メインはあの、『女神』でしょう?」
 先刻から、食べるのに夢中だった優美がやっと一段落ついたようで、コーヒー
を飲みながら話題に入ってきた。
「へえ」
 敬は感心したように優美をのぞき込むと、「よーく知ってるな」
「優美、お前、知ってたのか?」
「宝石にはとっても興味あるの、私」
 優美は微笑みながら言った。
「確か、正確な名前は、"The Goddess Of Grace"よね?」
「そうだ」
「あれは、大変な代物よ。闇ルートで売り捌いたとしても、2億はくだらないわ
ね。すべて上質のアクアマリンだし。元々はエジプトの、どこだかの王の遺品だ
そうよ。あの『女神』って名前も命の水が永遠にあるように願って命名されたそ
うだから」
「それにしても、『女神』なんて、思わせぶりな名前ですわね」
「水は命だからな。アクアマリンは水に通じるから、そう名付けたんだろ」
 類がからかい半分に、
「本当に宝石には、詳しいな、優美は」
「そりゃあね。上質の鑑定眼を持ってますから」
 と、優美は軽くウインクして見せた。
 優美はその通り、宝石を見る目は一流で、どんなに精密なイミテーションでも
重さや輝きなどで見破ってしまうのである。
「あの『宝石の河』の美術品が本当の一般公開に踏み切るのは、これから一週間
後だ」
「チャンスはあるの?」
「その辺りはよく解らない。一般公開後ぐらいには、解るだろうけど……。雑誌
なんかも、その日その日の予定までは、取り上げていないし」
 パサリと、敬は新聞を放りだして、
「その内、詳しいことが解って来るだろうけどね」
「ま、近々って事でいいんじゃない? もう、やる気になってるんでしょ?」
 敬は、苦笑いして、ホッとため息をつくように、
「……じゃ、やってみるか。『トワイライト』が眠りについたと勘違いされちゃ、
都合が悪いし。それに……」
 と、敬が笑いながら言う。
 どうやら、結構、軽く考えてるようだが、急に真面目な顔になって、
「やりがいもありそうだ。勿論、危険もあるけどな」
「そうか? 俺は、危ないことは大好きだから、別に構わないけど」
 ----類は、もともと、あまり恐れることを知らない。
 それほど、無鉄砲なのだ。
 彼は、両親が幼い時に死んでしまったので、恐ろしいことを体験し尽くしてし
まったかのようだった。
 しかし、そんな様子は普段、一向に見せない。
 類が、いかにも楽しそうに言う。
「じゃ、戦線布告文を出さないとな」
「予告状って、ちゃんと言えよ。解りにくいだろ」
「だって、予告状、って安っぽく聞こえないか? どこぞの小説みたいでさ」
「……別にどうだっていいよ。さて……」
「----ああ、言うのを忘れてましたけど」
 輝雪が、丁寧に話の間に入って来る。
「前回、警視庁捜査一課につけておいた、盗聴器ですけど。あれ、この間、調べ
てみたら、全部はずされてましたわ。----多分、盗聴探知機で、しらみ潰しに調
べ上げたんでしょうね」
 輝雪は、トントン、とテーブルを叩いて言った。
「ここの場所まで探知されなくて幸いでしたけど」
「そうか……。じゃ、もっと性能のいいのをつけられるか? 輝雪」
 敬が、腕組をしながら淡々と簡単に言う。
「盗聴器のレベルを上げます。感知されない程度のものにまで。多少は、時間と
お金もかかりますけどね」
 輝雪の腕はなかなかの物で、現在、盗聴器や他の機械類で役にたっているもの
は、すべて輝雪のハンドメイドである。
 彼女の腕は一流なのだ。
 ----いや、勿論、日曜日なんかに趣味で電気掃除機まで作ったりしないが!


                                                          <続く>




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