AWC The Godees Of Grace1【女神】  RUI


        
#2203/3137 空中分解2
★タイトル (NZH     )  92/ 9/29  21:20  (186)
The Godees Of Grace1【女神】  RUI
★内容

【登場人物一覧】

 森川  敬 (もりかわ  けい)  長井 美香江 (ながい   みかえ)
 島川  類 (しまかわ  るい)  佐山  安弘 (さやま  やすひろ)
 石森 優美 (いしもり ゆうみ)  庄内   隆 (しょうない たかし)
 瀬川 輝雪 (せがわ  きゆき)  塚川  浩三 (つかかわ こうぞう)
                   ラルディ・クルー


 プロローグ.1



 ある、洋館だった。そこは。中は色々な家具があり、重々しい雰囲気を見せて
いる。
 庭もそれなりに広く、大きな樹木が思うがままに、あちこちに広がっている。
 惜しみなく金をかけたという感じだ。
 しかし、その木も芝生も、どしゃぶりの雨に叩かれていた。
 深い森に囲まれているような洋館だった。今は、霞がかかっている。
 洋館の中は騒がしかった。
「何を言ってるんです! しっかりしてください!」
 と、言う若い男の声が聞こえてきた。
  いや、若いと言っても、、もう、40代にはなっているだろう。この老人と較
べての事である。
 側には医者が沈痛な面もちで、立ち尽くしている。
「私は……もう駄目だ……歳が歳だから、お迎えがきたようだ……」
 消え入りそうな老人の声がベッドから響く。
「変な事、言わないでください! 私は、それならどうすればいいんですか!」
 まるで怒るような口調で、その男は励まし続けた。
「お前だけだったな……この我がままな私についてこれたのは……子供達も、孫
も愛想が尽きたらしく、どこかに行ってしまった……」
「そんなことは……」
「……もう、私には配偶者も何もいないのだ。お前に私の財産のすべてをやろう。
遺言書や明細はすべて、顧問の弁護士の所に預けてある」
「……有難いのですが、あなたはまだまだ生きて行かれます」
 その男は、どうやら、その老人に仕える執事らしかった。
「……自分がいつ死ぬかぐらい、よくわかっとるよ。何、これまでのせめてもの
お礼だ。お前の好きなように使ってくれ。確か、若い男の子がいた筈だろう」
「旦那様、好きな様に使えと言われましても、私めには……」
 もう、その声に答えようとするものはいなかった。
 息も、鼓動さえも。
 医者が、聴診器を持って、老人に近寄った。
 そして、眼球などを確かめた。
 答えは言うまでもなかった。
「ご臨終です」
 その声が広い洋館に低く響いた……。
 雨はやむのを忘れたかのように、ずっと降り続いていた……。



 プロローグ.2



 類は、コンとドアを叩いた。だが、返事がない。
「おい、敬、入るぞ」
 と、言ってから、ドアを開けた。
 そして、大体、予想していたものが眼に入った。
 ドアを開けた途端に耳に入って来る甘くて、それでいて、物悲しく艶のあるメ
ロディ。
 滑らかに鍵盤の上を動く指先。
 そして、何よりも楽しそうに弾いている本人。
「類?」
 と、敬は言ってピアノから顔を上げた。
「また、ピアノを弾いてるのか?」
 類は、笑いながらそう言ってのけた。
「ああ。好きでね……」
 そう返事をして、敬は類にソファを勧めた。
 この曲。つい、先刻まで敬が弾いていたこの曲。どこかで聞いたような曲なの
だけれど、こいつが弾くと全く違うような雰囲気の曲になってしまうのは何故だ
ろう。
「その曲……なんて曲名?」
 類はふかふかのソファに身を沈めながら聞いた。
「ピアノ用にアレンジした、『ロンリー・デイ』だよ。----聞いたことないかい」
「お前は、ピアノを弾いている時が、一番、幸せって顔をしてるよ」
「そう?」
 と、敬は微笑んでから、類に眼を向けた。
「で、何しにきたの? 何か用事あったんだろ?」
「ああ、お前、あの近代美術館って知ってるだろ?」
「ええと……」
 暫し考えて、ポンと手を打った。
「ああ、確か皇居の近くにある……」
「そう、それだよ。それで敬、何か思い当たることがあるだろう?」
「いいや、全然」
 と、敬は首を振った。
 類は、ちょっと疑い深そうな眼を向けて、
「本当に、か?」
 と、念を押した。
「本っ当に知らない」
  敬は相変わらずキョトンとしている。「近代美術館がどうかしたの?」
「……」
 類は何も言わなかった。
 しかし、内心では言いたいことが渦巻いていた。
 敬の奴! 俺が言いたいこと、分かってる癖に!
 しかし、その怒りを抑えて……。
 ……ま、いいか。その時になれば話してくれるだろう、きっと。
 類が問い詰めるのを諦めかけた時、
「----ねえ、類」
 と、唐突に、ピアノの鍵盤を見つめていた敬が言った。
「さっきの、当りだよ」
「は?」
「近代美術館のことさ」
 類は、敬を勘ぐるように見て、
「やっぱり、何かするつもりなんだな?」
 と、聞いた。
「そうだ」
 じっと類を見つめて言う。「本当は明後日ぐらいに言おうかと思ってたんだけ
ど……分かったのならもういいか……」
 このピアノを弾いていた男は、名を森川敬。随分と若い19歳。
 髪は豊かな琥珀色をしていて、黒い黒曜石のような瞳を持つ。
 どうやら、血が混ざっているらしい。
 落ち着いた雰囲気、物腰なども丁寧で申し分がなかった。
 かわって、もう一人の男の方は、島川類。敬より一つ歳下の18歳。
 黒い髪、黒い瞳。
 純日本風。
 森川敬の方とは対象的で、かもしだす雰囲気は決して劣ってはいないのだが、
利発そうで、少々、無鉄砲に行動的な感じを見受ける。
 それこそ、若さを持て余してると言った方がいいかもしれない。
 この二人はある意味で特別な能力を持っていて、滅多なことでは後込みをしな
い。
 その特別な能力。
 その能力が世界的に認められるのなら、ノーベル賞でも授賞できるだろう。
 それは……。
 普通の一般市民には考えられないであろう、『泥棒』の能力。
 しかし、決して普通の家に忍び込んで……というパターンには終らない。ここ
まで来ると名人芸の技で。今となっては……。
 ----美術宝石専門の泥棒。
 まあ、この辺りは後に詳しく書くとして……。
 敬は、一息つくと、
「それなら、もう知ってるだろうけど、今度、そこの近代美術館に新しく公開さ
れる美術品の話、知ってる?」
「美術品? 聞いたことないな」
 首を盛んに傾げる類を見て、敬は肩透かしを食らったようだった。
「結構、雑誌で話題になってたけどな。でも、……俺にあんな思わせぶりな質問
をしていながら? じゃ、どうして近代美術館のことを俺にわざわざ聞いたんだ
よ?」
 と、半分、不審気に。
「別に……なんとなく、最近どこか行動が、妙だったから適当な美術館の
名前を上げてみただけだぜ」
 と、類は笑って見せた。
 敬は、その様子を呆れてポカンと見ていた。
「どうして気づかれたのかと思ってたら……成程ね、お前は勘がいいからな」
「その通り。さあ、覚悟を決めて全部、洗いざらい吐くんだな」
 と、笑みを絶やさず、面白半分に凄んで見せる。
「テレビの刑事物の見過ぎだぜ、類。----じゃ、初めから説明するけどさ、数年
前アメリカで莫大な財産を相続した人がいるんだ。
 老人にも大変、よく仕えてた執事らしくて、配偶者が誰一人身内にいなくってね。
20億もの財産をそっくりその人が貰ったらしいんだ」
「……へえ。それでどうなったわけ?」
「それで、その人はこれだけのお金を貰っても使い切れないってね。財産の半分
以上を宝石に変えて、ここ、日本の近代美術館に寄付したんだ」
「10億以上か? 今時、珍しい人だな」
 と、類は言って、「大抵、そんなに金を貰うと金の亡者になるのが常なんだけ
ど。しかし、どうして日本に寄付なんか? あっちの人間なら、いくらでも有名
な美術館があるだろうに」
「それがねえ」
 と、敬は言って、ポロン、ポロンと軽く鍵盤を叩いてみせた。「実は条件付き
だったのさ、寄付する理由がね」
「条件?」
「そう。20億の半分以上、つまり10億以上を全部、宝石に替えたんだ、その
数はおよそ、1000個、または2000個だと言われる」
「2000……個ね。想像もつかない」
「しかし、それだけあるのをわざわざ、一つずつ並べて展示するのも面白くない。
そこでその相続人は考えた。せっかくの宝石、もっと美しく見せる方法はないも
のかとね。そして、その人は実に奇抜なことを思い付いた。そして、それを見事
に実行した美術館に寄付すると宣言した」
「何だったんだ? その方法って」
「河だよ。人口の河。あれを美術館の一階、二階に作ってね、普通の河だと川底
は砂利だけど、この場合、その代わりにあの、2000個ほどの宝石を敷き詰め
る。部屋中に目一杯の長さで河を作る。
そして、2階の方の河は一階の河へ滝のように注ぎ込むようになってるんだ。」
 敬はジェスチャー入りで類に説明した。
「これで、『宝石の河』の出来上りって訳。確かに、素晴らしく美しく見えるこ
とだろう。昔の王族が贅沢の限りを尽くしたようにね」
「それが再び、現代に蘇るのか……」
 敬は、ニヤリと笑って、
「また、えらく感傷的な事を言うじゃないか? ----ま、それはともかくとして、
それを聞いて困ったのは各国の美術館たちだ」
「どうしてさ?」
「相続人は、『宝石の河』を見事、作れた美術館に寄付すると宣言したんだ。と
ころが、その河を作る費用とはこちら持ちだったんだ」


                               <続く>





前のメッセージ 次のメッセージ 
「空中分解2」一覧 RUIの作品
修正・削除する         


オプション検索 利用者登録 アドレス・ハンドル変更
TOP PAGE