AWC The Godees Of Grace3【女神】  RUI


        
#2205/3137 空中分解2
★タイトル (NZH     )  92/ 9/29  21:39  (186)
The Godees Of Grace3【女神】  RUI
★内容
2.戦線布告状(予告状)



「春がきた。ああ、ついに来た、春が来た」
 と、美香江は頬杖をつきながら、ぼんやり呟いた。
「美香江さん……それ、一体、何なんです?」
 側で聞いていた佐山は、ついに尋ねた。
「何って……?」
 そう答えた美香江は目も虚ろ。
「さっきから、春がどうのこうのって。もう、これで5回目でしたよ、呟いたの」
「そうだったかしら?」
 いや、実の所、長井美香江はこの台詞をずっと呟いていたのだ。
 これでは、佐山が声をかけたくなるのも当然であろう、というところ。
 この女性の名前は長井美香江。25歳。そして、ここの場所は警視庁捜査一課。
 彼女は結構、長くやっている刑事である。
 まだまだ、衰えには遠い美貌を持ち合わせている。
 ただ、少々、短気な所とユニークな所もあって……。
 ----この佐山という男の方は、本名、佐山安弘。随分と若い23歳。
 警視庁に入ってきてからは、日が浅く、美香江の部下として、忠実に任務をこ
なしているが……余計なくだらない事まで口を出してしまうのが玉に傷。
 今もほら……。
「大丈夫ですか? 独り言は老化の始まりなんですよ」
 途端に美香江は顔を上げた。
「誰が老化の始まりですって!? 私はまだ十分、若いわよ!」
 と、怒鳴った。
 女性に歳や老化の話はタブーである。
「今度そんな事言ったら、パトカーで引きずってやるからね!」
 佐山はその剣幕の凄さに少し後ずさりしながら、
「す、すみません! お若いですとも! いや、美しい! 薔薇の花さえ散って
しまうようなその美貌と才知……」
 美香江はここまで言われると、かえって馬鹿にされているような気がしてプイ
と、そっぽを向いた。
 その時----。
「おい、長井美香江くん」
 と、声が聞こえた。
 ん? 今、私の名前を読んだような……? はて、どこかしら?
 美香江がキョロキョロ見回していると……。
「おい! ここだ!」
 と、ついに雷が落ちた。
 美香江は、やっとその声に気づき、その『雷』の方を向いた。
「……あら、課長、出張じゃなかったんですか?」
 その『雷』にも怯まず、美香江は冷静に聞いた。
「……そんなもの、もともと行っとらん!」
 捜査一課の課長、塚川浩三は、ため息をついた。
 少し太り気味で、背広が伸びきっている。髪には白いものも混じってはいたが、
まだまだバイタリティはあるといった様子。
「大体、わしが目の前におるのに気づかない奴があるか!」
「あら、すみません。全然存在感がなかったものですから」
 美香江は平気な顔で言った。
「……大体、わしも聞きたい。さっきから春がどうしたのとは、何だ?」
「ああ、あれですか。いえね、春になるといい気分になるでしょ。陽気になるで
しょ。天気もよくなる一方だし。実に平和そのもの何ですよね」
「実にいいことじゃないか。わしたちの仕事がないと言うことは、世界が平和な
証拠じゃないか!」
 塚川課長は、立ち上がって力説した。「それとも、何か? 君は仕事を増やし
たいのか?」
「そうじゃありませんけどねえ」
 美香江は、曖昧に返事すると、
「私は、バリバリ働くために、ここに敢えて女の身で入ってきたのに『トワイラ
イト・キャッツ・アイ』を盗んだ、トワイライト本人たちも捕まえてないし……」
 美香江刑事----彼女は、実際に前回、すんでの所でトワイライト----(前述の
通り、敬、類、優美、輝雪の事だが)取り逃がしてしまったのである。
 くやしがるのも当然のことだろう。
 美香江は、ため息をつき、頬杖をついた。
「あーあ。いっそ、もう一度トワイライトが現れてくれたらね……」
 その呟きを塚川課長は聞き取って、目を見開き、とんでもない、という表情を
した。
「わしは、この平和がずっと続いてくれればいい……」
 塚川課長は、警察らしからぬ発言をした……。
 が。
 その時----。
「ちわーっ! 金山食堂でーす! ご注文のカツどん、お届けに参りましたーっ!」
 と、元気のいい男の声が警視庁捜査一課に響いた。
 そして、
「はいっ! お待ち!」
 と、課長の机に置いた!
「なんだ?」
 課長は不審気にその男を見上げた。「こんなもの頼んだ覚えはないが……」
「え? そんな筈は……だって勝川課長さんでしょ?」
「……わしは塚川だ!」
 その出前男はキョトンとして、次の瞬間、笑いだした。
「ええっ? 嫌だなあ。間違えちゃった! まだ新米なもので……ハハハ……」
「ほら見ろ。----他の課の奴と間違えたんだろ」
 課長は上目使いににらんだ。
 その出前男は、眼鏡の具合いを直し、ポケットからくしゃくしゃになったメモ
を覗いて、
「いいえ……。なんか、全然、違っちゃったみたいです……」
 課長はその心許ない返事に、頬杖をついていた肘をガクンと思わず外してしま
った。
「うーん、じゃあどうしようかなあ、これ」
 と、その出前男殿は、どんぶりを困ったように眺めていたが、何かを思い付い
たように、
「あ、じゃ、これどうぞ食べて下さい」
 と、言い課長の机に再び、置いた。
「何?」
「どうせ、持って帰るのもかさばって面倒ですし。それに間違ったお詫びですから」
「い、いいのかね?」
 たちまち、課長の顔は緩み、出前男殿をにらんでいた目は、神を見上げる目に
変わった。
「ええ、どうぞ」
 その出前男殿は微笑して、「じゃ、どうも毎度!」
 と、言い残して一課を出て行った。
 一人ニヤついているのは課長だけである。
「実にいい青年だ……」
 課長は猛烈な勢いで食べ始めた。
 思わず、佐山や美香江、他の刑事らが目を見張る程の食べっぷりだった……。
「いやあ、旨かった! ごちそうさん!」
 と、課長が言い、箸をカランと投げ出した。
 食べ始めてから、たった5分だった。
 いやあ、近ごろの若者はこうでなくてはいかん……」
「ん?」
 お盆の中に何か紙が置いてある。何だろう? 自分の食堂の宣伝かな?
 ----ひょっとして請求書とか? ----まさか!
 課長はそれをひったくって見た。
 数字も何も書いてないところを見ると、請求書ではなさそうだ。
 課長はホッとしたが、
 ----次の瞬間、愕然とした。



 警視庁捜査一課殿。


 ついに近代美術館で、皆さんも知っておられる、例の美術品が公開されます。
 宝石の川----。もう、お解りですね。
 つきましては、その中のメイン、『女神』を狙わせて頂きます。
 一般公開後、近日中にて。
 では、近い内にお会いしましょう……。

                           トワイライト。



「大変だ! おい……一体、どういうことなんだ!?」
 と、課長は一人で喚き散らした。
 美香江はぼんやりしていて全然、気にも止めない。
「どうかしたんですか? 課長!」
 仕方なく(?)佐山をはじめ、他の刑事達が寄って来る。
「そ、それが……」
 課長はワナワナと震える声で言った。
「トワイライトからの予告状だ! 戦線布告文だ! まただ、また!」
 課長は半狂乱のように喚いていて、頭を抱えていた。
「もう、おしまいだ! またしてもやられたら、もう、クビだ! 私の立場は
……私の立場があっ!」
 他の刑事は、顔を互いに見合わせ、なす統べもなく黙って見ている。
 それは、『面倒見きれないよ……』と、言った風情。
 その時も、美香江は自分の世界に浸っていた。
 トワイライト? それがどうしたって言うのよ。……それ位の事でガタガタ騒
ぐんじゃないの。たかが……。
 そこまで美香江は考えて----考えるのをやめた。
 さっきから聞こえていた言葉は、トイレのト、ワインのワ、イカのイ、ラッパ
のラ、インクのイ、トマトのト……。
 だったわよね、確か。
 それで、全部をつなぎ合わせると……。
 トワイライト……?
 美香江は、ガタッと、椅子から思いきり立ち上がった。
 トワイライトですって!?
 「か、課長!」
 美香江は、そう怒鳴ると、課長の胸ぐらを掴んだ。
「ほ、本当にトワイライトから、予告状が来たんですね? そうですね!」
「そうだと言っとるだろうが!」
 課長も負けずに----いや、半ばやけ気味に怒鳴る。
 ついに……また現れるのね、トワイライト。
 前回は惜しい所で逃がしてしまったけど……。
 今度こそ。
 私が捕まえてやるわ。ついに年貢の納めどきってね!
 今度こそ、正々堂々と勝負よ!
 美香江は知らず知らずの内に拳を握りしめていた。
「ところで、課長、この予告状、いつ来たんですか?」
  と、一人の刑事が尋ねる。
「い、今、カツどんと一緒に来た……」
 課長はまだ呆然としながら言った。
「はあ……?」
「----あ」
 と、その予告状を眺めていた刑事が、声を上げた。
「裏に、まだ何か書いてありますよ」
「何っ! なんて書いてあるんだ!」
「ええと」
 一人の刑事が読んだ。「……カツどん、おいしかったですか、って……」
 課長がヨロヨロとよろけて、ドスンと椅子に座り込んでしまった……。


                                                                <続く>






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