AWC ショートショート・「自信薬」        堀越


        
#2189/3137 空中分解2
★タイトル (NEA     )  92/ 9/25   5:17  ( 64)
ショートショート・「自信薬」               堀越
★内容
            「自 信 薬」

 ハナコは今年で28歳になる。まだ、独身である。
 今まで、「いいなぁ」と思った男はいるのだが、自分からその気持ちを告白し
たことはなかった。
 好意をよせる男性がいて、自分の気持ちを告白しようとしても、鏡を見るとい
つもその気がなくなってしまうのだった。
 勿論、男から声を掛けられるということもない。
 ハナコは自分をブスだと思っているのである。
 化粧はするけれど、それはきれいな人はさらに美人に見えるだろうけど、ブス
にとってはその差がひらくばかりで、何にも役に立たないとおもっている。
 「美人は徳だなぁ……」
  いつも、ハナコはそう思って諦めて来た。
 だから、ハナコは鏡が嫌いである。自分の姿がうつるだけで、「あぁ、私はな
んてブスなんだろう」と嫌気がしてしまうからだ。
 今日も、顔を洗うためにしかたなく鏡を見ていた。
 と。
 鏡の中から声がした。
 「あなたは、そんなに自分の顔が嫌いなの?」
 「エッ、あなたは誰なの?」
 「魔法使い、みんな魔女とも呼んでるわね」
 鏡の中から黒いズキンをかぶったカギ鼻の魔女の姿が浮かんでくる。
 「それで何なの、何の用なの」
 「あなたは自分をブスだと思っているようだけど、少しもブスじゃないわ……
ただ、自信がないのよ」
 「自信?」
 「そう、だから卑屈になって何でも消極的になるのよ」
 「違う。だって、私は本当にブスなんだもの」
 「だったら、ためしに自信のでる薬をあげよう。これを1日1錠ずつ飲むの、
そうすれば性格も変わるわ」
 そう言うと魔女は薬を1瓶、鏡の前に置いた。
 「これで変われるの?」
 「そう、変わるわ……なくなる頃にまた置いとくから、毎日飲むのよ」
 「まさか、その代わり魂をいただく、なんて言うんじゃないでしょうね……」
 「フフフ、そんな事はないわ」
 そう言うと鏡の中から姿が消えてしまった。
 ハナコは不思議にも思ったが、ものはためし、毎日1錠ずつ薬を飲む事にした。
 効き目はあった。
 今まで、地味な黒っぽい洋服しか着なかったのが、大きな花柄のカラフルな物
を着るようになった。
 化粧も、上手になった。
 髪は今まで無造作に束ねただけだったけれど、短めにカットしてウェーブもか
けた。
 すると、不思議に回りの男たちの視線も変わった。
 声も掛けられるようになったのだ。
 ハナコは自信がついた。
 「ブスは嫌だわ。陰気だし、いつも消極的。私には明るい未来があるわ」
 男から声を掛けられても、すぐには乗らなかった。
 「だって、私は美人なんだもの、ふさわしい男でないと……」
 ハナコの望みは少しずつ高くなっていった。薬はなくなる頃になると鏡の前に
届いた。魂も取られることはなさそうだ。
 そして、25年がたった。
  ハナコは53歳になっていた。
 まだハナコは独身でいた。
 部屋には、ジェームズ・ディーン、ハリソン・フォード、トム・クルーズのポ
スターが張ってあった。
 ハナコはポスターに話しかける。
 「私には、あなたたちのような男でないとねぇ……つりあいがとれないの」
 それを見た魔女は、
 「人間、自信をつけるのも程々にしないと、ろくなことがないわ」
 そういうと、あきれて薬を持ち去り、別の鏡に移り住んだ。

                              (終わり)





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