AWC 【遙かなる流れの果てに】(7)    コスモパンダ


        
#1741/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (XMF     )  89/ 8/ 5   8: 4  ( 98)
【遙かなる流れの果てに】(7)    コスモパンダ
★内容
              (7)鉱山男の誇り

 もうもうとした煙と埃が通路に充満した。
 ドアの前にいた警備の兵士達は、掘削用高性能爆破シリンダの爆発で吹っ飛んだ。
鉱山全体の照明が突然消え、非常灯が一斉に点灯した。
 赤い非常灯の光を受け、ボーイ、ゴードン、グローバル他数名の男達が、手に手に
袋を持って一斉に通路を走り出した。
 中央管制室のフロアにつながるドアの前の兵士達は走って来るボーイ達を目にとめ
ると、機敏な操作でライフルを構えた。
 ゴードンとグローバルが、手に持った袋を投げた。他の男達もそれに習った。袋は
壁や床や天井にぶつかるたびに、キラキラと光る粉を大量に撒き散らし、爆発の煙と
あいまって通路の視界は次第にきかなくなった。
 だが、まだ十メートル近く距離がある。レーザーで狙われればひとたまりもない。
 兵士の構えるレーザーライフルの銃身に取りつけられたフォーカスリングは、クル
クルと回転し、いつまでも止まらない。
「オートフォーカスが効かない!」ライフルを構える一人の兵士が訴える。
「マニュアルで、目視射撃だ。セーフティロック解除。撃てーっ!」
 強力な幾条もの不可視ビームが男達に命中し、悲鳴が上がる。
 ボーイが立射の姿勢の兵士に飛び掛かっていった。そのあとからグローバル、ゴー
ドン、タック、ルーが飛び掛かり、たちまち大乱闘になった。
 鉱山の男達は腕っぷしが強い。訓練を受けているはずの兵士が床に伸びていた。だ
が、ドアの前に集結したのは六名。味方の何人かも床に倒れていた。
「かなりやられたな。レーザー妨害チャフ替わりのイリジウム鉱石の粉でエネルギー
は大分弱ってるとはいえ、俺達のスーツじゃ掘削用のレーザーの反射光を防げても、
ライフルの直撃には耐えられない」
 タックは救急パックで、スーツを修理しながら喋った。
 ゴードンがドアを開けた途端、悲鳴を上げて倒れた。
 ボーイが見ると、彼の胸元にレーザーによる幾つもの焦げ跡があった。既にゴード
ンはこと切れていた。
「野郎!」
「止めろ! 行くな、タック!」
 グローバルの声を振り切って、タックがライフルを乱射しながら、ドアの向こうに
消えた。慌てて、ボーイが床に腹ばいになって、ドアの向こうを見た。
 タックが倒れている通路の向こう、中央管制室の前には、小型のコンテナやテーブル
を積み上げたバリケードが築き上げられていた。そのバリケードの間から、かなり大
口径のレーザーの銃身が覗いていた。
「くそっ! 大型レーザーだ。バリケードがある」
「フリゲート艦が出航するまで、あと数分しかないはずだ。船を押さえなければ駄目
だ。早く中央管制室を押さえて、連絡ブリッジを確保しなければ」
 だが、ボーイ達の奮戦は無駄だった。

 フリゲート艦「コンステレーション」の操舵室。
「作戦の最終確認を行う。データ解凍」
 ニック・トミタ艦長は副官に命じた。副官がメッセージを読み上げる。
「親展、コンステレーション艦長、ニック・トミタ殿
 ミッション『コメット・スター』を遂行せよ。   以上」
 発信人の名前もない命令書だった。
 トミタは大きく頷いた。
「戦略コンピュータに指令。ミッション『コメット・スター』発動。コード000、
232、842、GO」
「作戦開始。発射位置に移動する。微速前進、推力十六分の一」
 無骨な姿のコンステレーションは、KLS9023B浮遊鉱山を離れ、その巨体は
ゆっくりと百キロ先のマスドライバーの誘導衛星群に近づいていった。

 畜生! 中央管制室に入ったロックは、ヘルメットの中で歯ぎしりをしていた。
 ボーイ達より一足早く、アニタを人質に中央管制室にやって来たロックだったが、
既に手遅れだった。
「良かったわね、ロック。もうすぐ長年の恨みを晴らせるわよ。ほほほ……」
 真っ赤なスペーススーツに身を包んだアニタの笑い声が、耳障りだった。
「痛い! 止めて!」
 ロックは後ろ手にしばったアニタのロープを締め上げた。
 中央管制室の中にいた十名以上の兵士が、ロックを取り囲む。動きの制限されるス
ペーススーツを着ていないために、動作が機敏だ。
「ロック、無駄な抵抗は止めろ。命を粗末にするもんじゃない」
「ルヲ! 貴様という奴は!」
 コンソールの前に座ったルヲに気を取られた一瞬、腹を強打されてロックは床に倒
れた。苦痛に床をのたうち回りながら見上げると、アニタの腹心ベンソンがライフル
でロックのヘルメットを狙っていた。
「お止しなさい、ベンソン」
 ロープを解きながらアニタが命じると、ベンソンはライフルを下げた。
「ロック、コンステレーションは出て行ったわ。もうすぐあの船のビーム砲が開く。
そうすれば、宇宙で誰も見たことのない大きな花火が見られるわ」
 アニタは中央管制室の巨大な窓を指差した。窓の外には、不細工なパイプ細工のよ
うなコンステレーションが浮かんでいた。
「こちらトミタ。あと三十分でビームを発射する。全て順調。発射したSMFGの九
十九・五パーセントに当たる約480個が作動中。なお……」
 コンソールから、トミタ艦長の声が聞こえた。
「お前達はなぜ、こんな馬鹿なことをする!」
 床に倒れたままのロックは怒鳴っていた。
「ソラリア連邦に太陽系のイニシアチブを奪われては、これからの地球は生きていけ
ないわ。大移民計画が成功すれば、人々はますます地球を離れて宇宙へ出ていく。そ
うなった時、地球を誰が養ってくれるの? 地球は! 地球は寂しがっているのよ!」
 アニタは次第に興奮していった。
「寂しがっているのは地球の特権階級であり、搾取者達だ」
「地球は私達の母親よ。私達人類は母なる大地や青い海や空を汚してきた。虫食いに
してボロボロにして、必要がなくなったら見捨てて行こうとするの?」
「我々も多くの血と汗と犠牲を代償に、やっとここまで来たんだ。昆虫の中には、親
虫が自らの身体を生まれたばかりの子虫に差し出すものもいる。人類の傲慢さもあっ
たが、地球も我々人類が飛躍するための栄養を与えてくれたと思いたい」
「男はいつだってそうよ! 身勝手で自分勝手。変な理屈を付けて自分の正当性ばか
りを押しつけるわ。女はいつも苦労する。母親だって苦労してるわ。あっ!」
 いつの間にかアニタの側に立っていたルヲが、彼女を突き飛ばした。
「数十万の命を奪ってまで、我が子の旅立ちを邪魔する親はいない。大量虐殺を誤魔
化すな!」
 ルヲは右手を高々と振り上げ、喋り続けた。その手には掘削用の高性能爆薬のシリ
ンダが握られていた。

−−−−−−−−−−−(TO BE CONTINUED)−−−−−−−−−−




前のメッセージ 次のメッセージ 
「CFM「空中分解」」一覧 コスモパンダの作品
修正・削除する         


オプション検索 利用者登録 アドレス・ハンドル変更
TOP PAGE