AWC 【遙かなる流れの果てに】(8)    コスモパンダ


        
#1742/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (XMF     )  89/ 8/ 5   8:13  (100)
【遙かなる流れの果てに】(8)    コスモパンダ
★内容
            (8)マスドライバーを使え!

「この浮遊鉱山で、そんな暴挙を許すわけにはいかん!」
 ルヲは、シリンダを中央管制室の分厚い対真空圧ガラスに投げた。
 幾条もの見えないレーザービームがルヲの身体を貫いた時、シリンダが爆発した。
縦横に無数のひびが入ったガラスは、一瞬で粉微塵に砕けると破片は虚空に吹き出し
た。
 パリンパリンと照明灯が次々に割れ、室内は真っ暗になった。
 ビーーーーーーーーッ! ビーーーーーーーーッ! ビーーーーーーーーッ!
 警報とゴーッ!という凄まじい暴風が中央管制室内を吹き荒れ、固定していない物
は、壊れた窓から真空に吸い出されていった。
 暴風は手辺り次第に、物体を虚空に連れ出そうとしていた。
「ルヲーーーーーーッ!」
 手近なコンソールにしがみつきながら、ロックは叫んだ。しかし、ヘルメットやス
ペーススーツを着用していないルヲに聞こえるはずもない。糸の切れた操り人形と化
したルヲは虚空の彼方に消えて行った。
 ゴーゴーという空気の失われる音も次第に聞こえなくなっていた。
 軍の兵士でスペーススーツを着用している者は皆無だった。重装備の戦闘用スペー
ススーツは、宇宙ステーション内部では邪魔物である。兵士達は動きの鈍るスーツを
嫌って身に付けていなかった。それが彼らにとって不幸だった。
 肺の中の空気が絞り出され、急激な気圧変化の中、体内の内圧に眼球が押し出され、
身体中の穴という穴から血液や体液を吹き出させた兵士達が、ルヲのあとを追って暗
黒の中に飛び去った。
 ロックは片腕で、必死になって赤いスペーススーツを抱き締めているのに気付いた。
量感があると思ったアニタの身体は、いまやロックの腕の中で小さく震え、彼にしが
みついていた。
 俺はどうして、この女を助けようとしているのだろう?
 おさまりかけた暴風に身を任せながら、ロックは考えていた。

 全滅した兵士達に替わって、真空になった中央管制室に鉱山の男達が帰って来た。
 ぞろぞろとドアを開けて入ってくるスペーススーツの男達の一人が、ロックに近づ
くと、例の「チークダンス」で話し掛けた。ボーイだった。
「ゴードンとタックが死んだ」
「なにっ!」
「ゲイリーもやられたらしい」
 クソッ! 歯ぎしりをしたロックの足下にアニタが座り込んでいた。
 ロックはひざまずき、アニタの両肩を掴むと自分の方に向かせた。彼女は虚ろな目
をしていた。彼は、アニタにチークダンスで話し掛けた。
「あのフリゲート艦に伝えろ! 地球連邦の計画は全て暴かれたとな。俺達が証人だ。
恒星間移民船を破壊しても、もう無駄だとな」
「ふふふ………。お坊ちゃんね。相手は戦艦よ。そんなこと、おとなしく聞くとでも
思ってるの? 船を沈めたあと、きっとこの浮遊鉱山を破壊するに違いないわ。この
中央管制室を占拠したのは、無駄骨というわけ。お気の毒さま」
 ロックはアニタを投げ出した。
「ロック、どうする? ここにはフリゲート艦をやれるような武器はない」
 ボーイがチークダンスで話し掛けて来た。
 しかし、ロックはじっと考え込んだままで喋らなかった。
 数人の男達が、中央管制室の通話装置を生き返らせようとしていた。彼らはみな、
無口だった。スペーススーツの無線の会話はフリゲート艦に傍受される。室内通話装
置は各自のスペーススーツをケーブルでつなぎ、有線で通話できるため、軍に会話を
傍受されることがないのだ。
 突然、ロックがコンソールのスイッチを入れ始めた。みな、何事が起こるのか見て
いた。いくつかのモニタスクリーンを確認したロックは、大きく頷くと手近の通話ジ
ャックに自分のベルトから引き出したケーブルのプラグを差し込んだ。
「マスドライバーを作動させる。ガイダンス・システムを切離し、手動で発射だ」
 みな、驚いたようにロックを見つめた。
「あいつに、マスドライバーで発射した鉱石をぶつけてやる」
「ロック、お前さん正気か? 戦艦を石ころで沈めようってのか?」
「ああ、コンステレーションは誘導衛星群の近くから、磁場トンネルの中に向けてビ
ーム砲を発射するつもりだ。その時、コンステレーションとこの鉱山の距離は約千キ
ロ。マスドライバーの全力発射なら、秒速二十キロ以上出る。五十秒そこそこで、コ
ンステレーションに石ころをぶつけられる」
「だが、狙いはどうする。地球を狙うより、遙かに近い位置にいる船を狙うには発射
角度を大きく変更する必要がある。発射レールの角度調整じゃ不足だ」
「ボーイ、掘削現場の制御爆破ユニットをこの鉱山の外壁にセットしてくれ。その爆
破エネルギーで角度を変更させる。爆発の衝撃で、この小惑星の軸線角度が変化して
いる間、一秒間隔でマスドライバーを一本ずつ連続発射する。コンステレーションの
周囲に流星雨を降らしてやる! 回避行動を取る暇もないだろう。但しチャンスは一
度だけだ。大きく角度を変えたマスドライバーで、再び狙うのは不可能だ」
「船に鉱石が当たるだろうか?」
「地球までの数億キロのコースに比べれば、たかが千キロ。精密な射撃はいらない。
適当に狙えばいい」
「しかし、爆発の破片や衝撃の危険に我々も曝される」
「放っておけば二十五万人の命が消える。鉱山男に臆病者はいないはずだ!」
「この鉱山特製の鉱石をたんまりと、ぶつけてやうぜ!」
 男達は口々に気勢を上げると、作業に散って行った。

「ボーイ! 何してる。もたもたすんな!」
 中央管制室にいるロックの罵声は、無線が使えない状況では、鉱山の外壁に爆破ユ
ニットを据えつけていたボーイに聞こえるはずもなかった。
 しかし、ボーイの耳にはロンの声が聞こえていた。
<ボーイ、何をもたもたしてたんだ>
「全員退避完了!」
 エアロックに戻ったボーイの声が、直接通話で伝わってきた。
 発射ボタンにロックは指を乗せた。
<あっ! 輸送監督官。まだ、駄目です。作業員が一人戻っていません!>
 ゴードン、大丈夫だよ。ボーイは戻って来たよ。ロックは呟いた。
 小惑星の外壁に閃光がきらめいた。浮遊鉱山を強烈な衝撃が貫いた。かって経験し
たことのない大量の爆薬の爆発による衝撃だった。爆発のエネルギーは千トンはあろ
うかというイリジウム鉱石の破片を、幾つも小惑星から引き剥がした。細かな破片が
雲のように小惑星の周囲を取り巻く。質量百五十億トンのKLS9023Bは、その細
長いラグビーボールのような巨体をゆっくりと動かし始めた。
 マスドライバーが発射した鉱石は、秒速二十キロという猛烈な速度で、千キロ彼方
のコンステレーションに飛び去って行った。
 加速度によるGを身体に感じる。真空の中央管制室では、男達が手近な手掛かりに
つかまり、それに耐えていた。ロックの足下に真っ赤なスペーススーツのアニタがう
ずくまっていた。
 一瞬、かっての恋人ジェニファーの面影が、ロックの脳裏に浮かんで消えた。

−−−−−−−−−−−(TO BE CONTINUED)−−−−−−−−−−




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