AWC 『土』(6.最終話)             舞火


        
#1609/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (CGF     )  89/ 6/ 4  12:55  ( 98)
『土』(6.最終話)             舞火
★内容
                 (6)
 環境管理局。
 今、20のプロジェクトが進行していた。
 両サイドの壁に緑を持つこの建物の屋上に、2人の人の姿が見える。
 真理亜がここに勤務してから5年。
 『ゲー』は、相変わらず荒野だった。

「緑がないと、吹き抜ける風までが冷たいのよね」
 真理亜の言葉に賢はただ諾く。
「100種類近い程の植物を育てて見たけど、やっぱり駄目だったわ」
「環境を整えた実験室レベルでも駄目だったんだってね」
「ええ。植物によっては芽すら出て来なかったの……」
 真理亜の悲しげな表情に、賢の心は痛む。
「結局、雨や温度の影響ではないという事が判っただけでもよしとしないと……」
「そうね。やっと、リーダーも納得して、計画の見直しを計るとかって言ってたわ」
「ああ、うちのリーダーと話をしてたの聞いたよ。やっぱり、土の影響だと思う?」
 手摺りにもたれかかり、賢は真理亜を振り返った。
 真理亜は随分前から『土』の影響を主張し続けていた。
−−−『……ここの土は見ていて、生命ってのが感じられない……』
   『生命?』
   『土が原因だと思うの。土に命がないせいよ』
「前に、No.16『テュケ』に行った時、溢れんばかりの緑を見たわ」
「『テュケ』……」
「あそこの土は、こう手に取って見ても……暖かい」
 両手ですくいあげるような動作をする真理亜。
「触れば、今にも生命ある物が飛び出してきそうだなって……っていう暖かさ」
 賢は、真理亜の表情がとても優しいものになっているのに、気付いた。
−−−この、表情。どこかで……よく知ってる……
「だけど」
 一転して真理亜の表情が曇る。
「それに比べて、ここの土ってどんなに肥料をやっても、水をやっても冷たいの」
−−−これは……この表情……。
   どこだったろう?
 賢は、思いを巡らした。
 が。賢の思いに気付かぬ真理亜は、言葉を継ぐ。
「『ゲー』の土は地球産なの。『テュケ』の土も地球産。だけど、『ゲー』の隣にあ
るNo.98ステーション『タレイア』は火星の土」
 真理亜は空を見上げた。
 その視線の先にあるものは、『タレイア』。
 『ゲー』に住む者は、年に数度『タレイア』に行く。
 緑を見るために……。
「私は、ね。賢」
「?」
「ここはとても火星に近い。近すぎて、火星の影響を受けているんじゃないかなって
思ってる」
 溜息混じりの声が漏れた。
「推測に過ぎないんだけど。『テュケ』はどちらかと言えば地球に近い軌道を巡って
いるわ……。確か『アーク』の中でも10指に入る程……。けど、『ゲー』は火星に
最も近い。それは『タレイア』も同じ」
「『タレイア』の緑は火星の土を使って、火星に最も近い軌道を巡っているから……
そう言いたいのか?」
「ええ。『タレイア』の緑と『テュケ』の緑は、質が違うというのは有名よね」
「ああ」
 『タレイア』の緑は、とても薄い色をしている。
 その葉は、切れば水が滴ってくるほどの水々しさを持っている緑。
 水の少ない火星の土地で、少しでも水を確保しようとする植物達の力のせいだ、と
いう。
「この太陽系で自然を造ろうとするのなら、そこに最も近い惑星の土を用いるべきな
のよ。それこそが『自然』だと思う」
「火星、か」
 賢は、あながち外れてないんじゃないか、という気になり始めていた。
「ここは、『火星』よ。火星の土であるこそが最も自然なのよ。自然をないがしろに
して緑を−−−自然を造る事は出来ない」
「だけど、それを証明しないと……出来るのかい?」
「やるわ。でないと『ゲー』は荒野のままだもの」
 固い決意。
 その瞳は、『ゲー』の大地を見つめる。
「必ず、やるの。私が無理でも、私達の次の世代、その次の世代と……やって行くわ」
 その表情。
 賢は思い出した。
−−−昔。
   母が妹を産んだ時。
   生まれたばかりの妹を抱き締めていた、母親の愛しげな表情。
   すぐに病気になって、命の危機にまで陥った時の、母親の悲しそうな表情。
   そして。
   なんとしても助けようとする、母親の固い決意。
−−−真理亜の『ゲー』に対する表情は、母親のそれなんだ
   母親が子供に対して持つ、母性本能という奴だ……
   男が持つ、責任感とか、仕事とかという押し付けなんかじゃなく本能で真理亜
  は『ゲー』を救おうと……している。

「『ゲー』や地球を緑にするのは、男ではなく女なのかも知れない……」
 妙な確信の元に賢はつぶやいた。
「あら。だって大地は母親ですもの。母親って普通女性でしょう」
 真理亜は笑いかけた。
「今ね、『ゲー』も地球も、その胎内に眠っているであろう生命を表に出す為に、一
生懸命になっている。『ゲー』はその自然にあわない『土』のせいで。地球はその放
射能で汚染された『土』のせいで……。一生懸命……生みの苦しみを味わってるのよ。
私にはそれが感じられる。私には……それが判る……」
 その大地に向けて、真理亜は両手を差し伸べる。
「そのとてもつらい、だけど、最も誇り高い仕事を私は手伝ってあげるのよ」
 そして。
「そして、必ず、この土から、緑を、産むの!」

                              −−−「土」−−−
                                  舞火

**********************************終****




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