#1608/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (CGF ) 89/ 6/ 4 12:52 ( 72)
『土』(5) 舞火
★内容
(5)
午後3時を過ぎた食堂。
人が多い。
コーヒーと煙草の臭いが入り乱れる。
席を求めて歩いていた賢は、突然足を止めたライニアの背中にぶつかりそうになっ
て、立ち止まった。
「兄さん」
その声に、ライニアは首を巡らす。つられて首を巡らすと、リーンが手を振ってい
た。
「ほら、真理亜が帰って来たのよ」
リーンが隣の女性を示す。
「お久しぶりです」
真理亜と呼ばれた女性は軽く頭を下げた。
「お久しぶり。1年ぶりだったね」
ライニアが声をかける。そして、傍らに居た賢を指差しつつ。
「こいつ、俺の仲間で高山賢て、いうんだ」
「あ、始めまして」
突然紹介されて、賢は慌てて頭を下げた。
「あ、笹井真理亜です。今度『ゲー』緑化対策プロジェクト担当になりました」
「俺は地球緑化対策担当です」
リーンに促され、ライニアと賢は傍らの席につく。
「どお?兄さん。仕事の方は」
「聞かないでくれ」
うんざりした口調で言うと、ライニアは机の上につっぷした。
「なかなか。放射能の問題は難しいですから」
真理亜を気にして、賢の口調が知らず知らずに丁寧になった。
「放射能で汚染された地に、植物が生えるんでしょうか?」
と、真理亜。
「ですから、放射能に耐性のある植物を造ろうとしているんです」
「それがなかなかね」
ライニアが復活して、口をはさんできた。
「最初は良いのができるんだよね。だけど、3世代目が出来ないんだ」
「そう、3世代目が出来てこそ成功なのに……」
賢は困惑の表情を見せながら、コーヒーを一口呑む。
「先の長い研究ね。今日明日で出来るものじゃないもの……」
真理亜の言葉に、賢達は大きく諾いた。
「土から放射能が消えればいいんですけど、それも先の長い話ですからね」
「土……」
「俺達がじーさんになったってできてるかどうか判らんよ」
「それでも、やらなくてはいけないんです。でないと、『緑の地球』を実現できない」
賢は苦笑を浮かべた。
「そうね」
真理亜も笑みを浮かべる。
「リーン。お前のほうはどうなんだよ」
「え?」
突然戟先が向けられ、リーンは口篭る。「ど、どうって言ってもね……」
「なんとかD地区ではサボテンの類が生えて来ていますが、まだまだですね」
真理亜が助け舟を出した。
「それなんだけどね」
と、賢。「D地区は『ゲー』の中じゃ、もっとも恵まれた土地なのに、何故こうも
緑化が難しいんだろうね」
「あ、それね。さっき真理亜とも言ってたの。D地区には雨があるけど、雨だけの問
題ではないのかも知れないってね」
「じゃ、何のせいさ……」
「土」
真理亜が間髪入れずに答えた。
「土?」
「ええ、土です」
「どうして?」
「勘みたいなもんなんです。だから、根拠を言えと言われても困るんですけど」
真理亜は困った様に賢から視線をそらした。
沈黙が4人の間を漂った。
そして。
午後3時30分。
休憩を終えた人々が食堂を出始めた。
賢達4人もそれぞれの持ち場へと別れて行く。
全ては緑にするために……。
******************************つづく****