#474/1850　ＣＦＭ「空中分解」
★タイトル (XKG     )  87/11/10   1:10  ( 80)
ロールネット異聞　　　クエスト
★内容

ロールネット異聞　　　クエスト

「ふう、今日は２３の書き込みか．．．」俺は溜め息をついた。
午前５時、もうすぐ夜明けである。ロールネットは２４時間動いているのだ。
この書き込みをどうシスオペが評価し、また他のメンバーが評価するか。
それによって明日の俺のステイタスが決まるのだ。
　ＰＷＣ（ポピュラーライターズクラブ）での俺のステイタスは富豪である。
ステイタスには上からシスオペ、大富豪、富豪、平民、貧民、ど貧民とあってこれはあ
の「貧民ゲーム」そのままである。
　書き込みに対するシスオペの評価、他のメンバーからの反響などが得点となり、ステ
イタスが上がっていくのだ。
基準はただひとつ。「面白いかどうか」ということだけである。
　ステイタスによって待遇ががらっと変わるので皆必死である。
利用料金からして、ど貧民は一分間２０円、貧民は１０円、平民は３分１０円。
そして、なんと富豪は３分アクセスすると１０円もらえ、大富豪ともなると実に１分間
３０円も貰えるのである。ちょっとしたアルバイトである。
　しかし、そのためにはプロ作家並み、コピーライター並みの文章が書けないといけな
い。
　さらにまた、シスオペは加入者からの利用料金の数パーセントのマージンをピンハネ
している。生活ができてしまうのである。
　現在、ロールネットには１人のシスオペ、３人の大富豪、７人の富豪、２０人の平民
、７３人の貧民、そして４６８人のど貧民がいる。
　ロールネットは実に恐るべき階級社会なのである。

「ウエスト様、今日は怒涛の書き込みですね。私めは嬉しうございます。」
「パルコはウエスト様のことをいつもお慕いしております。」
俺の側女、平民のパルコからの書き込みである。気分がいい。
　原則として階級の下の者は上の者に対して敬語を使わないといけない。
（わざと面白く書く時は別だ。ただし受けた時の場合。もし受けなかったら．．．）
パルコはへたくそもへたくそ、ずーーーーーと受けない日々が続き、一生ど貧民で終わ
るのかしら、ああ辛いわと、絶望しかかっていたのを見兼ねた俺がメールなどでそれと
なく受けるコツを教え、なんとか平民にしてやったのである。
　というわけで、パルコは俺に絶対服従を誓う、ネットワーク上の側女、情婦なのであ
る。ひひひ。
　旦那、吉本、双眼鏡、ロック、ひょうたん、テーラー達と並び称され、今を時めく富
豪７人衆の一人の俺だが、当然ど貧民から始めたわけで、その時の辛かったことといっ
たら．．．
　富豪以上の階級にはこちらから口をきけないし、たまに声をかけられたら、ぼろくそ
の批評。ど貧民に折角受けても、圧倒的なマイナス点がついて引きずり下ろされ、まる
でアリ地獄であった。
　また、書いて書いて書きまくるしかないので、月末の請求額は思わず夜逃げをしたく
なるようなものであった。
　こ、これが趣味と言えるのだろうか！俺は一人悩んだ。
しかし、この一種の現実的迫力を持つゲームに俺はズッポリとはまりこんでいたのであ
る。
　それにまた、この地獄のネットから数多くのプロ作家が巣立ったことも大きな魅力で
あった。
シスオペ＝家元として、これは文章創作の一つの流派でもあったのだ。

　次の日、大変なことが起きた。大富豪の一人が失脚したのである。
恵まれた地位にあぐらをかいていたその男は、余りにもつまらない作品をアップしてし
まった。自分ではそのことに気づかない程堕落していたのである。
その結果、あまたの非難が一気に彼に集中してしまい、シスオペ権限で、ど貧民に転落
させられたのである。
自分の地位を守ろうとするシスオペはこういう機会を狙っている。これ常識。
　そして、幸運なことに、昨日の書き込みの評価により、俺が新たに大富豪に昇格した
のである。
　今や俺に威張り散らしていたあの男はど貧民に今までの御恩返しをされて、袋だたき
、富豪バッシングである。もう多分一生ど貧民のままであろう。恐ろしいことだ．．．

　俺の次の目標はシスオペとなって左うちわの生活をすることである。
そして、あり余る自由時間を生かして、プロの作家としてもデビューするのだ。
そして、平和裏に他の大富豪にシスオペの地位を譲るのである。
どこかの首相のように。

　それから数か月、俺はとうとうシスオペの地位を手に入れた。
事務局からのメッセージが届いた。
「おめでとう。ウエスト。あなたはＰＷＣのシスオペとして登録されました。
これから、あなたはＰＷＣの盟主として、他のＳＩＧと張り合うことになります。
あなたには多くの命令が使えます。年貢率（利用料金）の改正、治水工事（ＳＩＧの整
備？）、各国の様子を探る、そして戦争！」
「目標は全ＳＩＧの統一です」
「そうです。今、あなたの新たな冒険が始まるのです！」

　そして「ウエストの野望」が始まった。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ＦＩＮ．