AWC 【野良理教授のバラード 第五話[必殺の英会話]後編】


        
#193/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (ZTD     )  87/ 4/19  19: 5  ( 70)
【野良理教授のバラード 第五話[必殺の英会話]後編】
★内容

 「おや、野良理先生。どないしはりました?、顔色が冴えないでっせ」
 「いやぁ角英教授。実は相談があって来たんじゃが・・」
 「はぁ、相談?、心配事でっか。ヨッシャ何でも任しときなはれ」
 「実は・・・お恥しいことじゃが・・・ええーと、このことは人には言わんで
 欲しいんじゃが・・・その・・つまり・・」
 「ええい、何でんねん。じらさんとはよう言いなはれ」
 「うむぅ、実は・・・わしは英語が・・判らんのじゃよ」
 「英語?そりゃまた、何ぞむつかしい論文でも読んではるんでっか?」
 「いやいや、そんなもんではないのじゃ。一般の英会話とか、英語の雑誌が、
 そのぅ、読めんのじゃ」
 「あんはん、そりゃあ、わてらの仲間の英文やっとる連中が、あんさんの古文
 とやらをよう読めんのと一緒や。なんも恐縮しはることおまへんやろ」
 「いや、やっぱり・・・わしは日本語は分かるが英語は判らん。そこへゆくと
 あんたは日本語も英語も知っとるじゃないか。まあ、あんたの場合、日本語に
 少しばかり問題点がないでもないが、いや、そんなことは大したことではない
 いずれにしてもわしとしたことが、とにかく英語が判らん事は・・」
 「そんなもんでっしゃろうか?。で、一体私にどないしろと?」
 「英語を教えて欲しいのじゃ」
 「英語。よっしゃ、そんなことやったら任しときなはれ。よっしゃよっしゃ」

 こんな事があって、野良理教授の英会話教室が〜あくまで秘密裏に〜開始され
たのであった。
最初のABCはなんとか通過して、次に<ワン><ツウ><スリー>もどうにか
発音できるようになった。そして<ジス・イズ・ア・ペン>が出来たころになっ
て、野良利教授の心中に不安が芽を出し始めたのである。
何しろここまで進むのに一週間以上もの時間を費やしたのである。おそらく今後
必要と思われる学習時間と、野良理教授に残された寿命を較べれば、どうも教授
が余命尽きると思われる頃になっても、教科書はまだ上巻の三分の二が、やっと
終った程度に過ぎないであろう事が〜数学にも弱い〜野良理教授にも理解されて
きたのである。
その計算に間違いがないことを確認した野良利教授は、悲壮な面もちで角英教授
の扉をノックしたのであった。

 「角英先生。わしはどうもあんたの教え方が悪い様に思えるんじゃが。こうし
 てわしはあんたの言うとうりにやってきたが、一向に教科書の進みが悪い」
 「そりゃあ、あんさん。仕方おまへんで。語学ちゅうもんは若いうちにやって
 こそ覚えてかれるもんだす。六十過ぎてから・・・」
 「わしは五十九才じゃ!」
 「ほんまかいな?まあそれにしても同じようなもんや。そやさかい全部を今か
 らマスターしようなんて欲張るのは、この際考え直したらどうでっしゃろ」
 「しかし、わしはとにかく英語が判るようになりたいんじゃ・・・・。だが、
 あんたの言うことも理屈かもしれん。そうじゃ!何か、こう『これさえ知って
 いれば外人と話ができる』と言うような英会話はないものかな」
 「野良理はん、そりゃあ虫がよすぎまっせ。そんな言葉があれば誰だって苦労
 しますかいな。・・・いや、まてよ・・・そうや、ひとつありまっせ。そうや
 そうや」
 「何じゃと!あるか。早くそれを教えてくれ」
 「よっしゃ。それじゃぁ言いまっせ。それは・・・」

この日をもって、野良理教授の英会話教室は終了したのであった。
無事にこの「必殺の英会話」を習得した野良理教授は、ある時その成果を試す機
会に恵まれたのである。
その日、教授は街中で一人の外人旅行者から、英語で道を尋ねられたのである。
ここで教授は待ってましたとばかりに、教えられた『必殺の英会話』を口にした
のであった。
するとどうであろう。即座に外人サンの、たどたどしい日本語の返事が戻ってき
たではないか。
 「ハイ・ワタシハ・ワカリマシタ・デス」

自分の英語が通じた。しかも本物の外人に!。
野良理教授は奇声とも喚声ともつかぬ声を発して小踊りして喜んだのであった。
次に街中で目にした外人という外人をつかまえては、彼はこの『必殺の英会話』
を〜その意味もわからずに〜語り掛けてまわったのであった。

 「アイ・キャント・スピーク・イングリッシュ」
 ( I     can't     speak     English        )

            野良理教授のバラード 第五話:必殺の英会話(完)





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