AWC 【野良理教授のバラード 第五話[必殺の英会話]前編】


        
#192/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (ZTD     )  87/ 4/19  19: 2  ( 60)
【野良理教授のバラード 第五話[必殺の英会話]前編】
★内容

 教授という地位にあるものは、とかく世間から博識者であると思われがちであ
る。
確かに博識であるが故に「教授」という肩書を与えられているわけであるが、そ
れは何も、あらゆる事柄に付いての知識を納めていることを意味している訳では
ないのである。むしろこの様な人物は往々にして「特定の分野に於て、卓越した
能力を保有している分だけ、他の分野の知識に付いては、一般の人々より貧弱な
知識しか持ち合わせていないケースも、珍しくないものである。その証拠に・・
あるTV局のクイズ番組では、その様な<以外性>を当て込んで、大学教授を回
答者の席に座らせて、彼の「珍回答」で大いにウケを狙って成功している事実が
ある(敢えてここではその番組名や氏名を伏せておくが)。
しかし、それでも世間の人々は「一芸に秀でた者は、万事にも然り」と信じてし
まうのである。
 野良理教授の場合にも〜彼をよく知らない多くの〜人々は、そんな誤解をして
しまうのである。(第一話参照)
その無知な大衆の中には時として、野良理教授に肩身が狭い思いをさせる者も現
れるのである。例えば・・・英語が全くダメな教授に対して、英字の論文をかざ
しながら・・・
 「先生。この説について、どう思われますか?」
等と言う質問を投げかけたりするのであった。そのとき彼は、
 「わしゃあ横文字なんかよう知らん!」
とでも言ってしまえば良いのに。・・・彼は、人が知っていることを自分が知ら
ないと言うことを、人に知られるのを恐れる、といった(言葉で言えばややこし
い)性格であったために、こんな時の教授の回答は、実に歯切れが悪くなってし
まうのであった。

 「うむ。まぁーそのー。そんなもんじゃろう」

 英語を全く解さない野良理教授であったが、不思議なことに、彼が書いた『日
本の古代文学』等という論文が英訳されて、海外に紹介されることがあった。
(勿論それは教授が自分で訳したものではないが)
そして大学の助手がその文献を教授の所へ持って来た事があった。
 「先生。これが先生の『日本の古代文学』の英訳版です。これでまた野良理教
 授の名声が世界に広まりましたよ」
 「そうか、そうか。これがわしの論文か。うむ、・・英語の表現じゃと無理な
 訳になるところもあるな。・・だが、まあ、そんなものじゃろう」
助手は、<読めないのに、良く言うなぁ>と、心の中で思いながらもいたずら心
を起こして、話を続けるのであった。
 「教授。ここのところは過去形で書かれたほうが良かったのでは・・」
 「そうだったな。次の時は訂正しよう」
こんな会話が交わされるのであった。
教授はその後で、この英訳文献のコピーを手にして、学生達が沢山集まっている
ような場所を選んでは、彼らの傍らへ行き、わざとみんなに見えるようにして、
熱心にその論文を読みふけっているようなポーズをとるのである。
その内、運良く学生の一人が「教授。読んでおられるものは何ですか?」等と質
問しようものなら、教授の喜びは最高潮に達するのであった。
彼は有頂天になって論文の中身を詳細に説明してやるのであった。(こればかり
は英語が読めない教授でも、書いてある内容は全て分かっている事柄である)

 この様に英語が全く理解できない教授であったが、彼はいつの日かその事実が
世間に発覚するのではないかと、気に病んでいた。これはちょうど若禿に悩んで
<アデランス・ショップ>の前を行ったり来たりしている若者や、二号さんを囲
うために質屋に通いつめている恐妻家の心理状態と相通じるものであった。
「大学教授は誰でも、英語くらいは読めるものだ」という世間大衆の期待、いや
重圧に応えようと決心した野良理教授は、必死の覚悟を胸に秘めて同僚のH大の
英文科教授の部屋をノックしたのである。(そのときには、彼が周囲に人気がな
い事を十分確認したことは、当然であった)

          野良理教授のバラード 第五話:必殺の英会話(つづく)





前のメッセージ 次のメッセージ 
「CFM「空中分解」」一覧 (ZTD)の作品
修正・削除する         


オプション検索 利用者登録 アドレス・ハンドル変更
TOP PAGE