AWC 【野良理教授のバラード 第六話[酒・酒・酒]前編】


        
#194/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (ZTD     )  87/ 4/19  19: 8  ( 70)
【野良理教授のバラード 第六話[酒・酒・酒]前編】
★内容

 世の中には酒を無上の楽しみにしている人は、はいて捨てるほど居るものだ。
そして、そういった連中を実際に、はいて捨てたいと思っている人もまた、はい
て捨てるほど居るであろう。
まあ、酒は人類の歴史が始まって以来からの「良き友」であり「かたき」でもあ
ると言うことになる。

 野良利H大教授はどちらかというと、以前は<酒をこよなく愛する側の人種>
であった。
「以前は」と言うからには、「今は違うのだろう」ということを、勘の良い読者
なら気が付かれたことと思う。
(なに?、「勘が悪い人でも気付く」ですと・・ああ、そうですかそうですか)
では本当に勘が鋭い読者ならば、あの<自分の信念を意地でも曲げない性格>の
教授が、その嗜好を変えたというからには、そこには何か大変ないきさつがあっ
たに違いないことを察した筈である。
そうなのである。今回は、まさに、そのことについての物語なのである。

 話は三年前の年の暮れ(この日が十二月三十日であったことは、後で重大な意
味を持つ)に行われた、H大の忘年会まで遡らなければならない。
野良利教授は日頃から酒豪を自認していた。
実は端からみるとそれほど飲める訳ではないと思われるのであったが、なにしろ
彼は酔いがまわるとそれから先は、殆ど記憶がなくなるといったタイプの性質で
あったのである。大抵の人は、自分が「すぐに記憶がなくなる」方だと自覚すれ
ば、即ち「私は酒には余り強くない」と結論をつけるのであるが、野良利教授の
場合は・・

 「わしは酔っぱらった覚えがない。これが酒豪でなくてなんであるか」

と結論を導くのであった(単に、酔っぱらった記憶自体がなくなっているだけで
ある)。
 その様な訳で、その日の席でも彼は〜自覚の抵抗を受けることなしに〜酒と仲
良くしていたのであった。
酔いがまわった教授の乱れようとは、とても日頃の彼を知る者からは想像すら出
来ないものであった。例えば・・・いや、ここは彼の名誉のために、敢えて伏せ
ておくべきだろう。
まあ、間接的に表現すれば[この宴に出席していた女子学生達が(見ない振りを
しないでは)見れなかったようなことをするに及んだ]とでも言っておこう。

 そのうちに学生達がいたずらを思い立った。そのいたずらを完遂するために、
まず野良利教授を徹底的に酔い潰そうと画策したのであった。
彼らは教授の酒の中に多量のウオッカを混入させることから始めた。(御存じの
ようにウオッカには色も匂いもない。もっとも、野良利教授のような人物をかつ
ぐのに、さしたるテクニックも必要ないだろうが)

 「先生、さすがは酒豪と言われるだけのことはありますね」
 「ううむっ、そうだろう、そうだとも」
 「もう一杯どうぞ。この酒は新潟の<越しの安梅>という銘酒だそうです」
 「こしのあんばい?。そんな酒、あったか?。ういっ。それにしても消毒薬み
 たいな感じの酒だぞぉ〜」
 「ああ、あのっ、新しい銘柄なんです。この味が今の流行なんです」
 「そんなことは知っとる。よし、もっとつげ」

教授はこの悪巧みにまんまと乗せられて、アルコール度五十%以上という清酒を
たんまりと飲まされてしまったのであった。

 学生達はぐっすりと眠り込んだ教授を、彼の家まで運び込んだ。そこでは教授
の息子夫婦と、孫の秀太郎君まで引き入れての一大作戦会議が催されたのであっ
た。
教授が酔っぱらって眠り込んでいる間に、彼の家族と学生達は一斉に作戦行動に
移ったのである。その中には、いつのまにやらこの作戦に加わったらしいH大の
助手や講師の顔も混じっていた。
彼らは家中の模様を、いかにも、既に年が明けたかのように見せかけるために、
大童になって動き回ったのである。

 そして朝が明けた。(つまり十二月三十一日の朝である)
二日酔いで割れるような頭を抱えて、野良利教授は大きく波打つ畳の上を危なっ
かしく踏み締めながら起きてきた。

          野良理教授のバラード 第六話:酒・酒・酒 (つづく)





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