#2203/3625 ◇フレッシュボイス2
★タイトル (AZA ) 22/05/04 20:18 ( 45)
昔々のプロレス観戦話 永山
★内容
「その場に居合わせて目撃したにもかかわらず、事実誤認をする」……こんなことは
普通に日常生活を送っている分には滅多にないとは思いますが、創作物であるミステリ
には稀に出て来ます。たとえば――女が子供の首筋にかみついて、口元から血がたらた
ら流れている。すわ、女は吸血鬼だったのか? 実際は子供は毒蛇に噛まれており、女
は傷口から血を吸い出そうとしていた――とか。日本の女流作家の作品にも、ちょっと
似た感じの例が確かあります。
で、上とはやや趣を異にしますが、先日スポーツ新聞サイトのプロレス記事を見て、
私の体験したあれも一応、当てはまるかなと思い出したことがあります。
一九八六年八月、地元にやって来た新日本プロレスの興行を観に行ったときの話。そ
の日の試合で一番の好カードは、セミファイナルに組まれた藤波vsウィリアムス。藤
波は猪木に次ぐ団体の準エースで、簡単に負ける立場にありません。一方のウィリアム
スは外人勢の大将格で、このシリーズのクライマックスに当たる大会場にて、猪木との
一騎打ちが予告されています。当然、猪木とやるまでは無敵の快進撃を続ける(負ける
としても反則負けぐらい)のがセオリーで、実際そういう流れで来ていました。このど
ちらも負けられない一戦にどんな結末が用意されているのか、注目の一戦です。
試合は、荒っぽくてパワフルだがプロレス自体はあまりうまくなかったウィリアムス
が、序盤は藤波を体格で圧倒するも、藤波も徐々に盛り返し、技を受けつつ上手にさば
いていくというなかなか見応えのある展開に。そして開始から十分足らずが経った頃、
ウィリアムスにリフトアップされた藤波が身軽に相手の背後に降り立ち、逆さ押さえ込
みという切り返し技を仕掛けました。
※ここからしばらく当時の専門誌に載った記事に準拠して記述します
先にも書いたように普通ならウィリアムスはフォール負けするはずがなく、跳ね返す
はず……だったのですが、レフェリーの手は間違いなく三回、マットを叩いた。次の瞬
間、しかしゴングは鳴らされない。藤波は片手で三本指を示して、スリーカウント入っ
たぞのアピール。ウィリアムスはしばらく頭を抱えてへたり込んでいましたが、じきに
起き上がり、乱入してきた他の外人レスラーと共に藤波を襲撃。場外乱闘の最中、ゴン
グが鳴らされ、藤波の反則勝ちが場内アナウンスされました。
で……ここからまた私の観たまま、感じたままを書きますと、会場で生観戦している
と、二階席だったというせいもあるのかもしれませんが、スリーカウントが入ったかど
うかは案外分かりにくいのです。三回、マットを叩く音が聞こえた気もしましたが、確
信は持てません。というのもレフェリーはカウントを取るためにマットに俯せに倒れ込
みますが、そのときに1カウント目を入れたような音がすることがあります。それを1
カウント目だと思い込むと、ツーカウントでフォールを跳ねのけても三つ入ったように
見える(聞こえる)。
このときの私は、「三つ入ったように見えたけど、一つ目はノーカウントなんだな。
決着させにくい好カードをうやむやに終わらせるために、藤波がスリーカウントを奪っ
たと勘違いし、怒ったウイリアムスが暴走反則負け……ここまでが筋書きなんだ。折角
いい試合だったのに、早々に切り上げやがって」と不満を抱いたものです。
ところが後の専門誌報道や試合映像(同興行はテレビ収録されていた)を見ると、レ
フェリーは確かに三つ数えており、観客が一部どよめく音声も入っていて、藤波幻のフ
ォール勝ちという扱いになっていた。
三つ入った瞬間には番狂わせ、というよりもハプニングが起きたと、会場はもっと盛
り上がったはず。なのにその興奮を生で実感できなかったのは非常に悔しい。(^^;
ではでは。