AWC alive(10)(18禁)      佐藤水美


        
#281/1160 ●連載
★タイトル (pot     )  04/05/25  17:01  (331)
alive(10)(18禁)      佐藤水美
★内容
          10

 翌年の4月初旬。
 今日は入学式、瞬がいよいよ中学生になる。
「支度、できた?」
 その日の朝、僕は登校前に瞬の部屋へ顔を出した。従弟はすでに、附属中学の真
新しい制服に身を包んでいる。
 胸に派手なエンブレムがついた濃紺のブレザーに、白いYシャツ。エンジと紺の
ストライプが入ったネクタイは、上手に結んである。春休み中に結び方の特訓をし
た成果が出たようだ。グレーのズボンはプレスがきいていて、きれいな折り目がつ
いている。いかにも高級そうで、僕の中学時代の制服とは大違いだ。
「うん、何とか……」
 瞬はうなずいて答えると、不安げな眼差しを僕に向けた。
「よく似合ってるよ」
 本心からの言葉だった。新入生で制服を着こなせる生徒など、なかなかいるもの
ではない。みんなどこかぎこちなくて、背伸びして着ているのが普通だ。
 でも、瞬は違う。惚れた欲目かもしれないけれど。
「もしかして緊張してる?」
「……ちょっとね」
「大丈夫だよ、緊張してるのはみんな同じだから」
 僕は笑って言い、瞬に近づいてすらりとした身体を優しく抱いた。
「そうかな……」
 珍しく気弱な声を出し、瞬は僕の肩に頭をもたせかける。背が伸びたなと改めて
感じた。もう160センチぐらいあるのではないか。
「そうだよ、安心しな」
 僕は力強く言って、瞬の背中をさすった。
「ねえ、幹にい……」
「ん? 何?」
「幹にいが高校卒業するとき、これ……ちょうだい」
 瞬はささやくように言って、僕の制服の第2ボタンに触った。
「ボタンが欲しいの?」
「駄目?」
「別にかまわないけど。こんなのでよければ」
「今から予約しとく。女なんかにあげたら、絶対に嫌だからね」
「はは、欲しがる女の子なんて誰もいないよ」
「何言ってんの、バレンタインデーにチョコ2つも貰ってきたくせに」
 瞬は突然、僕の上腕を思い切りつねった。
「いてっ! 何だよ、いきなり!」
「幹にいが鈍いからだよ!」
「鈍いって失礼な。あのチョコは両方とも義理だから……」
「手作りチョコが義理なわけないだろ!」
「そう言われれば確かに……って、2つとも僕が開ける前に、瞬が食べちゃったじ
ゃないか。呆れた奴だな」
「幹にいのものは俺のものだからいいの! いいったらいいんだよっ!」
 瞬はわがままを押し通して、僕を強く抱きしめた。
「誰にも渡したくないんだ。お願いだから、俺だけを見ててよ」
「心配性だな。いつも瞬のこと、見てるじゃない」
 ところが瞬は僕の言葉に納得がいかない様子で、嫌々をするように首を横に振っ
た。いったいどうしたんだろう。入学式直前で神経質になっているせいなのか。
「僕の心の中は、ずっと前から瞬でいっぱいなんだよ。わかってる?」
「でも……」
「でも、じゃないの」
 僕は瞬の言葉をさえぎり、不安を訴える唇をキスで塞いだ。
「大好きだよ、瞬。これだけは誰にもゆずれない」
「幹にい……」
 瞬の頬が、ほんのりとした桜色に染まる。
 誰にも渡したくないのは、僕のほうだ。いい加減に、わかってくれよ。
「さあ、下に行こう。冴子さんが庭で写真を撮ってくれるってさ」
 僕は瞬を促すと、部屋のドアを開けた。

 瞬が中学へ行くようになり、僕は相変わらず通学とバイトに明け暮れる。表面上
は特別な変化もなく、季節だけが流れていった。
 高校卒業後の進路をどうするか。高2の夏休みに入って、僕はひとり悩んでいた。
 大学へ行って社会福祉系の学部に進みたい。1学期の授業でボランティア活動を
経験してから、そんな思いを抱くようになったのだ。
 でも……高校の学費を負担してくれた伯父に、大学の費用まで出してくれとはと
ても言えなかった。冴子と恭一はまだ大学を卒業していないし、瞬は中学1年生。
3人とも私立の学校だから、僕の想像以上にお金がかかっているはずだ。 
 奨学金をもらって全額自力でまかなうか、それとも進学そのものを諦めるべきな
のか。
 父さん、母さん、僕はどうしたらいいんだろう。
 心の内とはいえ、ついつい弱音を吐いてしまう。
「幹にい」
 僕は瞬の声にはっとして、我に返った。慌ててカランをひねって水を出し、食器
洗いの続きを始める。
「どうしたの? 最近、ぼーっとしてため息ばかり吐いてさ。身体の具合でも悪い
んじゃない?」
 瞬はそう訊いて、後ろから僕の腰に腕を回して抱きついた。
「くっつくな、暑いよ」
「いいじゃん、別に。今日はお母さんもいないしさ」
 瞬は甘ったれた声を出して、回した腕に力をこめた。
 先月から、伯母はアンティーク・ショップでの仕事を増やしている。お金を稼ぐ
ためというより、アンティークの魅力にすっかり取りつかれてしまったらしい。伯
父はまだ会社から帰宅しておらず、瞬とふたりで夕食を摂ったのだ。
「あれ、少し痩せた?」
 瞬はTシャツの下から手を入れて、僕のお腹をなでた。
「やめろ、瞬。くすぐったいよ」
 思わず身をよじる。だが瞬は手を離さない。
「幹にいは、飯食わないからいけないんだよ。そうめんとか冷や奴とか、そんなも
んしか食べないもんな」
「しょうがないだろ、暑くて食欲ないんだから」
 僕は夏痩せするタイプだ。1ヶ月で3キロぐらいは軽く減ってしまう。クラスの
女子はうらやましい体質だなんて言うけれど、冗談じゃない。元々痩せすぎている
身体だから、体力が落ちてしまって辛いのだ。
「ねえ……しようよ」
「明日からバスケ部の合宿だろ、用意できてる?」
 瞬はバスケットボール部に入っている。恭一を知っているテニス部からの誘いを
断るために、入部を承諾したのだという。
 好きで入ったんじゃない。
 唇を尖らせて僕に言う割には、どこか楽しそうだった。
「そんなのとっくに済ませたよ。だからさ……」
 瞬の手が下に滑って、僕のトランクスの中に入る。
「こらっ、瞬! 洗えないだろっ!」
 再び身をよじる。手に持った皿がシンクに滑り落ちて、ガシャンという耳障りな
音を立てた。
「後でいいじゃない、そんなの」
 瞬は少し背伸びして、低い声でささやいた。充血し始めたペニスを弄びながら、
もう一方の腕で僕の腰を締めつける。
「伯母さんが帰ってきたら、まず……」
「帰ってこないよ」
 トランクスの中の手が、ゆっくりと上下に動き始める。
「ば……馬鹿っ、こんなとこで……」
「そう? でもチンコは喜んでるよ」
 瞬の言うように、僕のペニスは刺激に反応して勃起していた。胸がドキドキして
汗が噴き出してくる。
「だ、駄目……」
 僕は理性の欠片にしがみつくように、シンクの縁を両手でつかんだ。
「何が? 何が駄目なの?」
 瞬は苛立ったように言い、腰を回して自分の下腹部を僕のお尻に押しつけてくる。
服を通してでもわかる、瞬自身がうごめく感触。
「う……うるさい」
「幹にいの、ビショビショだよ」
その言葉どおり、僕のペニスは快感を待ちわびて先走りに濡れている。
「もっと気持ちよくしてあげる」
 瞬は腰を押さえていた手を、Tシャツの下にもぐり込ませた。指先で小さな乳首
をつまむように愛撫する。
「あっ……」
 思わず声が上がる。首筋に汗が流れ、胸の鼓動がさらに早くなった。
「チンコ、すげえ硬くなってる」
「ば、ば……か」反則だぞ、瞬。
「やりたくなった?」
 僕は何も言わずに唇を噛んだ。下手に口を開いたら、妙な喘ぎ声を出してしまい
そうだ。シンクの縁をつかんだ手が汗で滑り、両膝がガクガクと震える。立ってい
るのさえ辛い。
「俺、もうたまんないよ」
 低い声で呟いた途端、瞬は僕のハーフパンツの紐を素早く解き、トランクスごと
引き下ろした。
「なっ……やめ……!」
「やめないっ!」
 瞬は僕の腰を両手でつかんで、ぐっと自分のほうに近づけた。お尻を突き出すよ
うな格好になって、上体がいきなり前にのめる。僕は慌ててシンクの縁をつかみ直
した。汗が顎を伝い、メガネがずり落ちそうになる。
「力抜いて」
 瞬はささやくように言い、指をお尻の割れ目に滑り込ませた。指先がアヌスの入
り口を柔らかく揉みほぐす。
「あっ……」
「気持ちいい?」
 いったい、こんなことを誰に教わって……。
「入れるからね」
 その声を合図に、瞬は自分の指を僕の中にずぶりと入れた。
「わっ!」
 アヌスを引き裂くような熱い痛みが走り、思わず背を仰け反らす。腹痛を堪えて
いるときのような、冷たい汗がどっと出る。
「い、痛いっ!」 
「力抜いて!」
 瞬は僕の腰を抱え、指をさらに深く入れた。
「もう、やめ……痛い……」
 よだれを垂らしながらシンクの縁にしがみつく。力なんか、抜けるはずがない。
何本かの指が激しく動いて、腸の中をぐちゅぐちゅとかき回す。僕は歯を食いしば
り、腸壁への容赦ない刺激を堪えた。
「……は……俺のだ」
 瞬の台詞を、半ばもうろうとした意識の中で聞く。
 微かな衣擦れの音。
「ひいっ!」
 突然、焼けるような痛みが走った。指が一気に引き抜かれたのだ。瞬は僕にのし
かかるようにして両腕を身体に回し、ひりつく蕾に自身のペニスを押し込んだ。
「いっ、痛ああっ!」
 さっきとは比べ物にならない凄まじい痛みに、悲鳴を上げる。アヌスはもとより、
腸そのものが破裂しそうだ。情けないことに、涙をボロボロとこぼしてしまう。
「うっ……きつ……」
 背中で瞬が呻く。僕に負けず劣らず、荒い息づかいをしている。
「幹……締め、すぎっ……」
 瞬は喘ぎながら言い、ゆっくりと自分の腰を動かした。萎えることを知らないペ
ニスを抜き差ししながら、腸を押し広げて深部に入っていく。
「うっ、うう……」
 目をぎゅっとつぶっても、涙が止まらない。
「好き……幹……にい……俺の、もの……」
 その言葉に呼応するように、僕の中で瞬自身がさらに硬く大きくなる。粘膜の壁
がグーッと圧迫された瞬間、電撃を受けたような快感が身体の芯を貫いた。
「ああっ!」
 背中が反り返る。頭の中が真っ白になる。まるでおしっこをするように、僕のペ
ニスは大量の精液を噴き出した。
「うっ、……くうっ」
 瞬の微かな声が聞こえる。腸の中に、温かい液体が染み渡っていく。
 僕は目を薄く開けた。キッチンがぐるぐると回っている。
 瞬と僕を繋いだものが引き抜かれたとき、目の前がふいに真っ暗になった。

 ……幹にい……幹にい……
 誰かが、僕を呼んでいる……
「幹にい! しっかりして!」
 人の顔がぼんやりと見えた。焦点を合わせようと、まばたきを何度も繰り返す。
僕を覗き込む恋人の顔が、次第にはっきりとしてくる。
「あ……瞬……」
 口の中が渇いているせいか、舌がうまく回らない。
「よかった、気がついてくれて」
 瞬はほっとしたような笑みを浮かべた。僕の前髪を優しくかき上げて、唇に軽い
キスをする。
「いきなり気絶するんだもん、焦ったよ」
「気絶……?」
「うん。ほんの1分かそこらだけど、俺にとっては長かった」
 ああ、そうだった。僕は食器洗いをしている最中に、瞬とセックスをしてしまっ
たのだ。数分前に起こった出来事なのに、頭がぼうっとして実感が湧いてこない。
「幹にい、大丈夫?」
「……うん」
 僕は確かめるように周囲を見回した。従弟の後ろに見えるのは、クリーム色の天
井だ。どうやら僕は、キッチンの床に倒れたらしい。右側にはそそり立つ食器棚、
左側には調理台やシンクが並んでいて――あっ!
「や、やばっ……」
「えっ、何?」
「あの……そこに、くっついてるヤツ……」
 僕はシンク下の収納庫の扉を指差した。白い粘液が、薄緑色の扉にべったりと貼
りついている。
「ぞうきんか何かで拭けばとれるよ。俺がやるからさ」
 瞬が事も無げに言う。とはいえ、僕も寝そべったままではいられない。肘をつい
て普段のように上体を起こしたとき――。
「いたたっ!」
「幹にい!」
 再び床に沈もうとする僕を、瞬が慌てて抱きとめる。
「どうしたの!?」
「お尻……痛い……」
「ごめん。俺、強くやりすぎた?」
「ううん……」
 僕は首を横に振り、従弟の身体に腕を回した。
 男どうしのセックスが、こんなに痛いものだったとは。瞬にやらなくてよかった
と、心密かに思う。最後の突き抜けるような快感がなかったら、これはただの苦行
だ。回数をこなせば少しは慣れて、痛みもあまり感じなくなるのだろうか。
「痛かったけど……気持ちよかった」
「そんなこと言って……。幹にいは気絶したんだよ、無理してない?」
 瞬は不安を口にすると、僕の頬を拭うようになでた。
「してないよ」
「俺……幹にいの後ろ姿見てたら、我慢できなくなっちゃって……。先輩にも気を
つけろって言われてたのに」
「ちょっと待て! 今何て言った!?」
「え? あっ……!」
 瞬の顔に、しまったと言いたげな表情が浮かぶ。僕は従弟の耳たぶをつまんで、
思い切り引っ張った。
「誰だよ、先輩って!」
「痛いよ!」
「答えになってない! そいつとやったのかよ!」
「幹にい、もしかして妬いてるの? 嬉しいなあ」
 瞬が泣き笑いしながら言う。僕は確かに嫉妬している。でもそれを認めるのが悔
しくて、耳たぶをさらに引っ張った。
「答えろっ、瞬!」
「わかった、わかったよ! 先輩って、バスケ部のOBでY大の学生だよ」
「大学生が何で中学のバスケ部に来るんだよ!?」
「コーチ代わりに何回か来ただけだって。俺、どうしても幹にいとエッチしたかっ
たから、その……ちょっと相談して……」
「やったんだろ、そいつと!」
 僕が耳たぶを引っ張るたびに、瞬の頭がぐらぐらと動く。
「やってない、やってない! やり方を訊いただけだよ、頼むから信じてよ!」
「そんなこと、簡単に信じられるか! 離せっ!」
 瞬の腕を振り解こうと身をよじった途端、お尻に強烈な痛みが走った。情けない
悲鳴を上げ、再び瞬にしがみつく。
「幹にい、一緒にシャワー浴びようよ。俺が幹にいの身体きれいに洗ってさ、あそ
こにも薬つけてあげるから」
「……ほんと?」
「うん、ほんとほんと!」
 瞬はやけに嬉しそうだった。

 バスケ部のOB。
 瞬の話によると、彼は僕たちと同じような性癖を持ちながらも、ちゃんとした彼
女がいるそうだ。いわゆるバイセクシャルってやつなのかなと思うけれど、僕には
よくわからない。
 先に声をかけてきたのは向こうのほうで、瞬をひと目見たときから、同類だとわ
かったという。でも、そんなに都合のいい話があるだろうか。
 とはいえ彼が瞬に教えてくれたことは、あながち間違いではなかった。アヌスを
傷つけないためにローションで滑りを良くしろとか、コンドームを使うようにして
中出しはするなとか……もう手遅れだよ。
 僕が風呂場でお尻の痛みに苦しみながら、以前の自分を棚に上げて、瞬の頭をグ
ーで叩いたのは言うまでもない。

 部屋の中を風が吹き抜けていく。
 僕は自分のベッドの上にいた。仰向けになるとお尻が辛いので、身体を横向きに
して寝ているのだ。
 強い眠気が、津波のように押し寄せてくる。いつもなら眠ってしまうところだが、
今日ばかりは瞬を受け入れた場所がひりついて、なかなか意識を手放せない。ぼん
やりとしたまま、生あくびを繰り返す。
 やがて、階段を静かに上ってくる足音が聞こえた。部屋のドアが、微かに軋む。
「幹にい、起きてる?」
「……起きてるよ」
 そう答えたものの、身体がだるい。僕は自分の頭を少し持ち上げた。眉間にしわ
を寄せ、目を細くして瞬を見る。従弟は首にかけたタオルの端で額を拭いながら、
近寄ってきた。片方の手にペットボトルらしき物を持ち、小脇には何かをはさんで
いる。メガネを外しているから、ここまでが限界だ。すみやかに首の力を抜く。
「ウーロン茶、持ってきたよ。飲むでしょ?」
「……うん」
「起きられる?」
 瞬はそう訊くと、僕の机の上にペットボトルを置いた。
「……たぶん」
 小さな声で言い、タオルケットを除けて片肘をつく。貧血をおこしたのか、軽い
めまいがする。
「もしかして気持ち悪い?」
 背中を優しくさすってくれる。
「ちょっとめまいがしただけ。もう大丈夫」
僕は薄く笑って答え、ゆっくりとした動作で上体を起こした。
「幹にい、この上に座りなよ」
 瞬がベッドに何かを置く。僕はそれに顔を近づけた。
「座ぶとん……?」
 普通の四角い座ぶとんではなかった。丸い形をして真ん中に穴の空いた、ドーナ
ツ型のものだ。
「これなら痛くないよ」
「どこから持ってきたの?」
「下の押入の中。前に父さんが使ってたやつ」
「伯父さんの? 僕が使っていいのかな……」
「いいって、いいって。もう5、6年使ってないんだから」
 僕は瞬の言葉を信じ、ドーナツ型座ぶとんの上にそっと腰を下ろした。何もない
よりは、遙かに楽だ。
「全部片づけといたから。例のやつも、ちゃんと拭いたし。空気の入れ換えして消
臭剤も撒いてきた。もう完璧だよ」
 瞬は得意げに説明すると、扇風機のスイッチを入れた。風向きと風量を調節しな
がら自分の顔に風を当て、うわー涼しいなんて幸せそうに言っている。その様子が
何だか微笑ましくて、僕の表情もつい緩んでしまう。
「ん? 何笑ってんの?」
 こちらの視線に気づいたらしく、ほんのりと赤くなった顔を僕に向ける。
「何でもないよ」
「変なの」
 瞬は肩をすくめて言い、ペットボトルを取った。僕の椅子を引き寄せて座り、ぐ
いっと蓋をひねる。
「先に飲んで」
 瞬に言われるがまま、僕はペットボトルに口をつけた。冷たい液体が喉を潤して、
生き返ったような心地になる。
「うまいな……」
「でしょ?」
 瞬が笑う。愛しい笑顔。
 離したくない。
 ずっと僕だけのものでいて欲しい。
 悲しくもないのに、胸の奥が切なくなるのは何故だろう。
「……してる」
「えっ?」
「いや、何でもない」
 僕は首を軽く振って、再びペットボトルに口をつけた。





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