AWC APPLE COMPLEX 【多すぎた遺産】(10)コスモパンダ


        
#603/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (XMF     )  87/12/19   8:31  ( 97)
APPLE COMPLEX 【多すぎた遺産】(10)コスモパンダ
★内容
<アップル・コンプレックス> 第1話「多すぎた遺産」
    パート「ヘボ! どじ! グズ! クズ!・・・」その2

 前方にも黒山のような巨体がノロノロと走っている姿が見えた。
 一方、後ろから迫って来る巨体はスピードを上げていた。
「どうなるんだい、ノバァ!」
「あんた、男の子のくせにキャンキャン、うるさいよ。肝っ玉座ってないね。そんなこ
っちゃリンにも嫌われるよ」
「この状況とリンと何の関係あるのさ?」
 リン・ウェイはノバァの事務所に出入りする暇な女の子だ。探偵事務所には面白いこ
とが転がっていると信じている駆け出しのライターの卵。僕がその子に熱を上げている
とノバァは思っているらしい。
 話を戻して、五十トントレーラーはとてつもなくでかい。壁というか山というか、車
高百三十センチのカーマインからの視界は無い。と思いきや、あるんですね、これが。
 トレーラーにとっての死角、足下の車輪の下には大きな空洞がある。車体と地面の間
の隙間だ。
 その隙間を通して、もう一台のトレーラーが見える。
「金掛かってるねぇ。金持ちの雇った殺し屋は大道具も凄いわ」
「どういうことですか?」
 ノバァの呟きにノリスが尋ねた。
「あんたの親戚の誰かが、お祖父さんの遺産の分け前を増やそうとしてるのさ。いじま
しい話だねぇ」
「そんな、そんなことの為に私を殺そうとしてるなんて! 一体誰が? みんな親切で
いい人ばかりなのよ。そんなこと考えられないわ」
 ノリスはまた泣き出した。
「身体は大人でも中身は子供だね。まだ世間の汚さを知らないようじゃね」
 そう言うノバァの声を聞いても僕はまだベットの上のノリスと、隣で泣きじゃくるノ
リスが同一人物と思えなかった。
「カズ、あんたこれで後ろから来るでかいのをなんとかしな!」
 ノバァはバレンタイン・ミニレーザーを僕に渡した。ずっしりと重い。鉛に包まれた
カリフォルニウム核電池がその重さの大半を占めている。レーザー発振子は完全防水の
密封ケースに収められている。銃自体はセラミック製であり、耐熱性に優れている。か
っては北半球のパールシティで開発されたレーザーで、軍用だったが今や街の銃砲店で
身分証明書と三種類のカードマネーと運転免許証があれば手に入る代物だ。しかし、ノ
バァのバレンタインは随分と小型に作られている特注品で、グリップなんかパールステ
ィール製だ。高さ二百メートルからコンクリートの上に落下させても壊れないという、
恐ろしく丈夫な拳銃だ。
 それでトレーラーを撃てというのだ。そんなことできますか。僕は平和主義者なんだ
から。
「グズグズするんじゃないよ。さっさと始末しなよ」
「こんなもん撃ったことないもん」
 僕はだだをこねた。
「役立たず!」
 ノバァは僕の手からバレンタインをひったくった。カチッとバレンタインの安全装置
を外すとスーパーチャージャーのキューンという音がした。ノバァはカーマインのサン
ルーフを開けて上半身をそこから出した。サンルーフを開けた途端、もの凄い風が車内
に吹き込んできた。
「ワーッ、ワーッ、ノバァ、ハンドル」
「忙しいんだよ。あんたやりな」
 僕は慌てた。というのもその時、カーマインのハンドルを誰も握ってなかったのだ。
 真ん中に座ってるノリスを押し退けて僕はハンドルを握った。へへへ、ノリスの柔ら
かい胸の膨らみの感触がハンドルを握る真っ直ぐに伸ばした右腕に伝わる。
 しかし、アクセルはノバァの足の下だ。特に今、忙しいノバァはブレーキを踏む余裕
なんかある訳ない。僕は更に左足を運転席に突っ込むとブレーキペダルの上に足を載せ
た。へへへ、ノリスの足と僕の足がぴったりとくっついた。
 ノバァは身体を百八十度ひねって後ろから迫るトレーラーの車輪をバレンタインで狙
った。
 バックミラーにトレーラーのタイヤが火を吹くのが写っていた。しかし、その巨体の
動きに変化は無い。蚊に刺された程も感じていないようだ。
 ノバァは何度か発射した。そしてようやくトレーラーの右前車輪を吹っ跳ばした。
 トレーラーの車体が道路の右へ右へと流れる。トレーラーの運転席は高くてカーマイ
ンから見えないが、恐らく運転手は恐慌状態に陥っているだろう。
 とうとう、トレーラーはフリーウェイの外に飛び出した。カーマインは左にパシィフ
ィック・クイーンの山の手を、右手に海を見て走っている。
 そして傷付いたトレーラーはみんなの期待通り、海へ向かって落ちていった。
 カーマインはその騒ぎの中、グングンとスピードを上げ、前方のトレーラーに接近し
て行った。
「ノバァ、アクセル放してよ。近付き過ぎだよ」
「カズ、カーマインにオートクルーズに入るように言いな。あんたの運転じゃ危なくて
しょうがない」
 冗談、危ない運転はノバァの方だ。
「オートクルーズに入ります」
 カーマインの声。
「こらっ、まだ何も指示してないぞ。勝手なことするな!」
 僕が不満の意思表示をした頃には、カーマインはスピードを落とし、車間を開けてい
た。
「乗員の安全を第一に考え、オートクルーズに入りました」
 てやんでぇ、かっこつけやがって。ノバァが僕にオートクルーズに入れろって言った
の聴いててやったんだ。ノバァに無断でそんなことやったら燃料抜かれて雨曝しだもん
な。
「畜生、まだ後ろに二台もいるよ」
「前も二台だよ」
 カーマインにハンドルを取られて手持ち無沙汰の僕は面白くなかった。
「これじゃ、ハンドミサイルがいるわね」
 屋根から頭を突き出したまま、ノバァが物騒なことを口走る。
「じょ、冗談でしょ。そんなもん持ってるの?」
「パシフィック・バンクの金庫に預けてあるよ」
 ノバァはしらっと答えると、座席に戻った。サンルーフを閉じる。
「カーマイン、道路マップを出して」
 ダッシュボードのスクリーンに道路マップが現れた。
「考えたね」
 ノバァが唸った。僕たちがいる地点は真っ直ぐな道路が続いている。車線は二車線だ
からでかいトラックが二台並んで走ると隙間はない。しかも十キロは合流地点もランプ
もないのだ。つまり、前後のトラック軍団はこの十キロの間で勝負しようというのだ。
 ワーン、絶対絶命だ。助けてーっ、と横のノリスに抱き付くと、ノバァにぶっとはさ
れるだろうな。やっぱり。
−−−−−−−−−−−−TO BE CONTINUED−−−−−−−−−−−−




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