#604/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (XMF ) 87/12/19 8:42 (100)
APPLE COMPLEX 【多すぎた遺産】(11)コスモパンダ
★内容
<アップル・コンプレックス> 第1話「多すぎた遺産」
パート「ヘボ! どじ! グズ! クズ!・・・」その3
「こら、カーマイン、お前、秘密兵器の一つや二つ持ってないのか!」
僕はカーマインにくってかかった。
「何言ってんだい。あんたが金が掛かるって、ターボチャージャーまでけちろうとする
から、いざという時に役に立たないんじゃないか」
「だってさ、ノバァの選んだターボはひどすぎるよ。まるでジェットエンジンのアフタ
ーバーナーじゃないか。あれじゃ、カーマインは羽根の無い飛行機になっちゃうよ」
「ごちゃごちゃ文句ばっかり言ってないで、いいアイデアがあったらさっさと出しなさ
いよ」
「えへん」
勿体ぶった、カーマインの声がした。
「なんか用かい?」 ノバァが刺々しい声で応える。
「前後のトラック軍団との車間距離が狭まってきました。内輪もめは止めて、どうすれ
ば良いか指示してください」
うわーっ、大変だ。サンドイッチにされちまう。大型トラック四台にサンドイッチに
された真っ赤なカーマインを想像して僕はぞっとした。そんなサンドイッチを食べる奴
はどんな巨人なんだろう。カーマインのサンドイッチて旨いのかかな。食べるのがひょ
っとして、でかくなったノバァだったりして。色っぽいふっくらした唇をガバッと、こ
う大口開いてパクッと・・・。
ガリガリガリ、ギッギッギッ、ガシンガシンガシン、クランクランクラン。
「キャーッ」というノリスの悲鳴が車内に響く。
馬鹿な白昼夢に陥っていた僕は目が覚めた。
後ろを振り返ると、巨大な壁がリアウインドウのすぐ外に見えた。カーマインの車体
がついに大きな車体に押し潰され始めたのだ。
「カズ!」
「はいっ!」
「非常用の発煙筒を出しな」
助手席の前のグローブボックスを開ける。
「全部出すんだよ」
中を引っ掻き回して三本の発煙筒を取り出した。
「あたしが後ろの二台のトラックの運転席を撃つから、ガラスが割れたらその発煙筒を
投げ込むんだよ。どじ踏むんじゃないよ!」
言うが早いかノバァはサンルーフを再び開けて身体を出した。
バレンタイン・レーザーの不可視ビームが二台のトラックの運転席を襲う。爆発した
ように運転席の窓ガラスが飛び散る。
「交代! あんたの番だよ」
僕は車内に引っ込んだノバァと代わって屋根から身体を突き出した。後ろから頭をガ
ーンと殴られたような感じがした。風だ。轟々と両耳の側を通り抜ける風音と四台のト
ラックのエンジン音、カーマインの高速回転タービンの音が入り混じって、迫力満点!
のしかかってくるようなトラックの巨体に圧倒されるが、必死で気を取り直す。
発煙筒を投げようとした時、服を掴まれ乱暴に車内に引き戻された。
「馬鹿だね!」
「へっ?」
「点火しないで投げようってのかい」
僕は火の付いてない発煙筒を後生大事に握り締めていたのだ。いけね! 慌てて点火
栓をひねると、猛烈な白煙が吹き出した。
立ち上がって、投げようとした途端、派手な衝撃が車体を揺らした。後ろのトラック
にぶつけられたのだ。その拍子に手が天井に当たって、手から発煙筒が滑った。床に落
ちた発煙筒はコロコロと転がってノバァの座席の下に転がる。座席の下からは猛烈な煙
が吹き出し、たちまち車内に充満し、皆、咳き込み始めた。
「ゲホゲホ、馬鹿、ゴホッ。どこ行ったの? ノリスも探すの手伝って」
ノバァがむせながら、わめく。ノリスは目から涙を流しながら、手探りで座席の下を
探る。僕は全部のパワーウインドウを全開にした。煙は窓からもくもくと出ていく。
ようやくノリスが発煙筒を掴んだが、再び床に落とした。悪戦苦闘した後、結局ノバ
ァが床の上を煙を吐きながらクルクル回る筒を掴まえ、窓から捨てた。
「ヘボ! どじ! グズ! クズ! 脳無し! 玉無し! 間抜け! 腰抜け!」
「ワーン、ごめんよーっ。もうしないから」
ノバァは両手で僕にメチャメチャに殴りかかった。
僕とノバァの格闘に挟まれたノリスが涙を拭きながら、声を上げて笑い出した。
「ノバァ、前方、一キロの所に退避エリアがあります。そこでコンボイをやり過ごしま
しょう」
ぼろ雑巾のようになった僕の胸ぐらを放すと、ノバァはカーマインに命令した。
「退避エリアの見取り図を出して」
スクリーンに映った退避エリアは緩いカーブの途中にあり、トラック三台が縦列駐車できるくらいの広さだった。狭い運河を挟んで反対側の崖に細い道路が走っている。
「だめだよ、ノバァ。退避エリアに逃げ込んでも、後ろのやつらに崖から突き落とされ
るよ」
「飛べばいいの」
「飛ぶ?」
「カーマイン、よくお聞き。退避エリアに差し掛かったら、スピードをあげるのよ。そ
して、ガードレールを突き破って飛び出す。そのまま、運河を飛び越して反対側の崖淵
を走ってる車線に乗り換える。分かった?」
「しかし、ノバァ、成功する確立は三十パーセントしか・・・」
「文句は聞きたくないよ。確立を上げる努力をしなよ。さもないと、あんたはスクラッ
プ、あたしらは天国行きになっちまう。さあ、しっかり計算に励みな!」
ノバァとカーマインの会話を聞いていたノリスと僕はもう茫然。開いた口が塞がらな
かった。
「でもノバァさん、それは無茶です。運河の幅は二十メートルはあります」
ノリスが果敢にもノバァに食ってかかる。しかし、
「グズグズするんじゃないよ。さっさとシートベルトを付けな。しっかりベルトをしな
いと、向こうの車線にぶつかった衝撃で、窓ガラスを破って外に出ちまうよ」
一度言い出したらノバァのことだ、絶対にやっちゃう。わーん、怖いよーっ。手が震
えてシートベルトが中々締められない。
「ヘボ! どじ! グズ! クズ! 脳無し! 玉無し! 間抜け! 腰抜け!」
「そんなに何度も言わなくてもいいだろ。立ち直れなくなるよーっ」
「へっ、今、言っとかなきゃ、言いおさめになるかもしれないからね」
「そんな!」
「退避エリア接近」と、カーマインの冷静な声。エンジンの回転が上がる。
「カウントダウン開始。十・・・、九・・・、八・・・、七・・・、六・・・、五」
一瞬退避エリアが前方に見えた。更にカーマインは速度を上げた。
ガードレールが迫ってくる様がスローモーションのようにゆっくりと見える。
やがて・・・衝撃! シートベルトが身体に食い込む。頭を殴られたようなショック
に続いて、轟音。目の前が真っ白になって前方が見えなくなった。
ふわっと空中を浮くような感覚が身体を包む。フロントガラスは一面ひび割れていた
が、ガラスの中央部分だけはひび割れても何とか前方が見えた。その部分を通して反対
側の崖淵のガードレールが迫っていた。切り立った崖の上を走る細い道だ。高速道路の
設備小屋に通じる小さな道路らしい。幸いに車は走っていなかった。
−−−−−−−−−−−−TO BE CONTINUED−−−−−−−−−−−−