AWC APPLE COMPLEX 【多すぎた遺産】(9)コスモパンダ


        
#602/1850 CFM「空中分解」
★タイトル (XMF     )  87/12/19   8:19  (100)
APPLE COMPLEX 【多すぎた遺産】(9)コスモパンダ
★内容
<アップル・コンプレックス> 第1話「多すぎた遺産」
    パート「ヘボ! どじ! グズ! クズ!・・・」その1

「カズ、ノリスをかっさらっといで!」
 耳たぶに張り付けたスピーカシートがキンキンと小煩い音を奏でる。
「何言ってんだい。これは事件だよ。ノリスは被害者だ。警察に引き渡さなきゃなんな
いだろ」
「そっちこそ何言ってるんだい! そんなことしたら、ストーナー家の遺言状の開封時
刻に間に合わないだろう。警察には後で行けばいいさ。遅れた言い訳の一つや二つ、ス
トーナー財閥はそれぐらいの口利きはできるさ。心配しないで連れといで」
 僕は後ろを振り向いた。さっきいた二人の警官が小走りに近付いて来る。二人とも拳
銃を抜いている。
「ノバァ、屋上にいる二人の警官はどうしよう? こいつら陰険だよ。ノリスを連れて
くなんて云ったら蜂の巣にされちゃうよ」
「男の子だろ。泣きごと言うんじゃないよ。頭を使いな。それでだめなら、力で活路を
切り開きなよ。それぐらいできなきゃ、モリス探偵事務所の助手なんて言えないよ」
 嘘だろーっ。今度は誘拐の真似かよ。人使い荒いのも限度があるよ。
 ノリスは僕の下半身にしがみついたまま震えていた。僕は彼女の長いプラチナブロン
ドの髪を左手で撫でた。いいねえ、つやつやしてて、滑りもいい。髪の手入れが行き届
いてるね。彼女の髪の感触を楽しむ傍ら、僕は右手でジャケットの内ポケットから小さ
なボールペンを取り出した。
「よう、坊や。いい度胸してるじゃないか。だが、その獲物は俺達のだ。彼女を渡して
もらおうか。立派な殺人犯だからな。現行犯逮捕だ」
 髭面の警官の一人がクチャクチャとガムを噛みながら言う。もう一人の警官に至って
は腰の拳銃を僕にさり気なく向けている。
 冗談じゃないや。やっぱり蜂の巣かな。
「分かったよ。さあいい子だから、泣き止みなよ」
 涙で濡れた彼女は身震いする程いい女だった。僕はポケットからハンカチを出してノ
リスの顔を拭いてやった。長いまつ毛がいいねえ。さっき見た彼女のベットシーンを思
い出して、僕の息子が目覚めようとしていた。ぐっと堪えるのがまた大変。
 僕はノリスの顔を拭いたハンカチにボールペンを隠した。彼女の肩を両手で掴んでそ
っと引き離すと、僕は二人の警官の方を向いた。
「けっ、気障な坊やだな。プレイボーイになるにはまだ青臭いぜ」
「さっさと行きな」
「分かったよ」
 僕は両手を広げて、二人の間を通るように歩き出した。右手にはハンカチ、その中に
はボールペン。
 二人の警官の間を通り抜ける瞬間、右手の警官にボールペンを向けると、クリップを
強く押した。シューという音と共に、白いガスが彼の顔をまともに当たる。身体をひね
って、すぐに左手の警官にもそのガスを浴びせた。
 二人の警官は声も無く、昼間の強烈な日差しの熱を持った床に倒れた。これで三十分
は起きない筈だ。もし、催眠ガススプレーの取り扱い説明書の通りなら。
 ポカンとしているノリスの手を引き、僕は崩れかけたビル屋上を走った。
「どうして私をさらうの。助けてくれたんじゃないの!」
 ノリスが走りながら尋ねる。
「助けたいから警察から逃げるのさ」
「どういうこと?」
「依頼されたのさ。君の知り合いに、明日の朝五時までに君のお祖父さんの故バーン・
スタイン・ストーナー氏の屋敷まで君をつれて来いってね。もし間に合わなければ、君
にはお祖父さんの遺産の相続権利が無くなる」
「ちょっと待って」
「待てないよ」
 立ち止まろうとする彼女の手を僕は強引に引っ張った。
「お祖父様が、お祖父様がどうしたの?」
「知らないのか? ふーっ、まあ無理ないか。君は沢山のボーイフンドと楽しんでたん
だものな」
「嫌な人ね。あなたみたいな人、嫌いよ!」
「残念だな、僕は君みたいなのが好みのタイプなんだけど。それはそれ、お祖父さんの
件は本当さ。今朝の五時に無くなった。死因は聞いてない」
「お祖父様。なんて・・・」
 ノリスは走りながら泣き出した。大粒の涙がポロポロと溢れ落ちる。まったくよく泣
く子だ。だが、どうしてもベットの上の大胆な彼女の姿と、可憐な少女のように涙を流
す姿は一致しない。本当に同一人物なんだろうか。全く女は魔物だ。
「泣くのは屋敷に着いてからだ。親族みんな集めた親族会議はストーナー氏の死後、二
十四時間以内に開かなければならないのさ。その会議に出席しない者は仮に遺産相続権
があっても、遺産の取り分は無くなる。弁護士がそう言ってるらしい」
「そんな無茶なこと。私はこの街に居るからいいけど。ルノー叔父さんはスイスよ。キ
リーお姐さんなんか、キリマンジャロの麓に住んでるのよ」
「その人達は僕らの担当じゃないから、知らないけど。みんなどうにかしてこの街に集
まって来てる筈さ」
 隣のビルとの間が二メートル程しかない所を見つけた。
「運動神経はあるかい?」
「私、こう見えても一応、陸上の選手なのよね」
「じゃ、跳べるかい?」
 ノリスは答える替わりに、行動に出た。靴を脱ぐと両手に持ち、ビルの端から五メー
トル程下がると、全力疾走で走り出した。見事なタイミングで踏み切ると、難なくビル
の谷間を跳び越えた。
 彼女が履いてた短い超ミニが翻った。当然、目の保養をさせてもらった。役得役得。
 そして僕も簡単に跳び越え、間抜けな警官達の包囲網の外側に出た。
 茂みに隠れているところをカーマインに拾ってもらった。
「カズ、やるねえ。上出来じゃない」
 ノバァが珍しく褒めてくれた。しかし、そんな甘い言葉に騙されやしない。
「だけど、催眠ガスを使ったのはやり過ぎだよ。一仕事済んだら、ハザウェイ警部に謝
りに行っといで。あたしがやんわり言っといたげるからさ」
 やっぱり。これだもんな。人に危ない橋を渡らせといて・・・。
 ツー・シーターのカーマインの座席の真ん中に座ってるノリスは一言も口を利かなか
った。その横顔はどう見ても十代の少女だった。
「ノバァ、お知らせします」
 突然、カーマインが喋り出した。
「どうしたんだい。パトカーかい?」
「後ろから大型トレーラーの一団が迫って来ます。五十トン・トレーラー・クラスで、
相当なスピードを出しています。数は3台、車線一杯に広がって走行しています」
 ダッシュボードのスクリーンには、小山のような黒い怪物の姿が映っていた。
「こりゃ、ちょいとやばそうな雰囲気だね」
 ノバァが呟く。その時、再びカーマインの声。
「前方の車線の合流地点で、別のトレーラー・コンボイが進入して来ました」
「と、いうことは」僕は震え声を出した。
「挟まれたってことだよ。正確に言うと、罠に落ちたって言うんだよ」
 ノバァの声はしっかりとしていた。
−−−−−−−−−−−−TO BE CONTINUED−−−−−−−−−−−−




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