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★タイトル (AWJ ) 97/ 1/17 17:41 ( 78)
「続・ティアフルガール(迷子少女)」No7 大二郎
★内容
深夜の広場に、緊張した空気が張り詰めていた。
そして、最初にそれを破ったのは、赤いドレスを着た人物だった。
「何をしていらっしゃるのですか? この人数差で、恐れる必要などどこにもありま
せんよ」
その通りだった。なにしろ黒装束達は10人からの大いでたち、対してファズタ先
生はたったの一人なのである。そう言われて、やっと落ち着きを取り戻した黒装束達
は、素早く一人の女性を包囲して、じっと威嚇するように対峙した。
「・・・・ほんとに・・・・もう何を言っても駄目なんですね」
ポツリとつぶやくようにそう言ったファズタ先生の口調は、むしろ楽しそうでさえ
あった。
「あなたに何が起こったのか・・・・良く考えてみたら、あたしなんかに分かるはずもあ
りませんものね。50人近くもの子供達を育てていくのに、何も手を汚さずに済まそ
うだなんて、それこそただのきれいごとでしかありませんものね」
赤いドレスに身を包んだ目の前の人物は、何も言わない。
「たとえあなたがどう変わろうと、それはこの世界すべてがあなたを蝕んだだけのこ
と・・・・あなた自信のせいじゃない・・・・」
黄色いドレスの女性・・・・いや、身体だけ大きくなった女の子は、ひとつ息をつくと、
続けた。
「だから、あたしはもう、こんな世に未練はありません、あなたとともに、すべてを
忘れられる世界へ参ります」
「もったいねーなぁ、その若さで。これから先、なんだって出来るだろーに」
案外人間が出来てるらしい、黒装束のリーダー格の男が、素直な意見を口にすると、
ファズタ先生は微笑んで、
「もう、十分してきました。フレイア様のおかげでこの20年間、とても楽しかった。
思い残すことなんて、何もありません」
「・・・・わたくしはまだ、あなたにすべてを教えたつもり、ありませんよ」
声は、まるで予想もしなかったところから飛んできた。
つまり、いまのいままで赤いドレスを着た人物と差し向かいで話していた彼女の背
後から。
「フレイア様?」
振り向けば、やはり驚きのあまりかずざざっ、と道を開けてしまった黒装束達の向
こうに、いつしか顔をのぞかせていた満月の光に照らされた、燭台片手に立っている
赤いドレスの女性と、ついでになぜか一緒のカイの姿。
ハッとしてもう一度正面を振り返ると、やはり同じような人物の姿がいまだある。
が、その表情には既に笑みはなく、冷たく不機嫌そうな目つきで、ファズタ先生の後
ろに立つ女性の姿を見据えている。
「あらー、わたくしってあんな顔もできるんですね。気をつけなくっちゃ」
背後の女性のその言葉に、良かった、本物だわと息をつくファズタ先生であった。
それから気を取り直すと、
「けど、いったいどういうことなんですか?」
と訊ねてみたけど、ファズタ先生のお墨付き、本物のフレイアさんは、しかし首を
横に振って、
「それがわたくしにも何がなんだかさっぱり・・・・おとといの夜、ふと目が覚めたら見
たこともないくらーい部屋の中。扉が開きそうもなかったので、しかたなく誰か来る
のを待っていましたら・・・・」
「三日間も?」
驚きの声を上げるファズタ先生に、フレイアさんあっさりうなずいて、
「「もー、おなかがすいちゃって・・・・そこへつい先ほど、こちらのかたが・・・・」
と、どうしたのかえらく苦笑している傍らのカイを諭すと、きっぱりとこう言った
のだった。
「どこのどなたかは存じませんけれど、とてもご親切なかたで・・・・わたくしを救出し
にいらして下さったんだそうです」
ガクッと一気に緊張感が失せる場の中、慣れてるらしいファズタ先生は冷静に、
「あ、そーか、閉じ込められてちゃ何も知りませんよねー」
「ええ、まったく。その前の日にも妙なことが起こるし・・・・」
「妙なこと?」
「夜中に・・・・おトイレに起きた帰りのことなんですけど・・・・お城の中を歩いている、
わたくしの姿を見ちゃって・・・・」
まぁ! びっくり! といったジェスチャー効果を自分で入れるフレイアさん。
「ドッペルゲンガーって言いましたかしら・・・・それを見た者には近いうちに死期が訪
れるとか・・・・」
「ドッペルゲンガー、ねぇ・・・・」
と、改めてフレイアさんのにせものを見るファズタ先生。
「もーわたくし、恐くなっちゃって・・・・すぐに部屋へ戻って寝ることにしました」
「・・・・さすが・・・・」
もはや純粋に感服しきった声を出すファズタ先生だった。
「けど、それからもあんな妙なことばかり起きて・・・・わたくし、働きすぎなんでしょ
うか・・・・」
トントンと自分の肩を叩くフレイアさんに、ファズタ先生はクスクス笑いながら、
「それは間違いありませんね」
と言ったのだった。
「しかし、それじゃいったいこいつは誰なんだよ!」
そう言ったのは意外にも、黒装束のリーダー格の男だった。
「それにはぼくがお答えしよう」
と言ったのは、もちろんカイである。