AWC 感想を書こう>私家版・司法神官ドラクーン(3/5)松虫


        
#4705/7701 連載
★タイトル (TRG     )  96/ 6/22  21:44  (199)
感想を書こう>私家版・司法神官ドラクーン(3/5)松虫
★内容
「ちぇ、司法神官に同情されちゃ盗賊もおしまいだね」
「そうですね。さっさとやめて施設にお入りなさい。食べるものや
着るものにも不自由しないし、身内の人も探してもらえますよ」
「調子に乗るんじゃないよっ」
 レックスの顔が急に険しくなった。
「あたしたちがどこにいたのか知ってるのかい? あんたのいう施
設とかだよ」
 子供たちがうなずいた。
「食べるものも着るものも、寝るときの毛布だってろくに与えやし
ない。文句を言えば殴られる、泣けば倉庫に閉じ込められる。誰が
あんなところにいたいもんか」
「それは、災害の直後だったら混乱はあったかもしれないけど……」
「そればっかりじゃないよ」
 わたしの言葉を遮ったレックスの声は小さく低かったが、思わず
たじろぐほどの重重しさと威圧感を持っていた。レックスはこの中
では年嵩の男の子と女の子を抱き寄せた。二人とも十歳になるかな
らないかぐらいだ。
「あたしと、このプロト、それにケイラはね……」
 ケイラと呼ばれた女の子がレックスの胸に顔を埋めた。プロトも
うつむいて唇を噛んでいる。レックスは二人をぎゅっと抱きしめた。
「施設の保護官になぶりものにされたんだよ」
 ケイラが声をあげて泣き出した。
「なんですって……」
 自分の頬から血の気が引いて冷たくなっていくのがわかった。
「子供だと思って、保護官には逆らえないと思って、あいつはあた
したちを……」
 レックスの目にも涙がにじんでいた。さぞ悔しかったことだろう。
弱い立場のものをもてあそぶ不良役人には何度かお目にかかってい
るが、まさか子供まで毒牙にかけるものがいるとは。
「どこの誰です? 厳重に処罰しなくては。そのときあなたたちに
触れていた部分、全部切り落としてやります」
「それは無理よ。この世にいないものを罰することはできない」
「まさか……」
「そうよ。気がついたらあいつの生首が転がってたわ。からだの方
はあたしの上に乗ったままでね」
 レックスの浮かべた笑みに、わたしの背筋が再度総毛だった。
「あたしが自分の力に気付いたのはその時よ。もしかしたらあの出
来事のせいで力に目覚めたのかもしれない」
 レックスがプロトとケイラを放した。
「これは、神様があたしにこの力をくれて、自由に使えってことだ
と思ったわ」
 動かない片足で不器用に立ち上がった。
「さあ、美人でお上品でご清潔な司法神官様、これでもあたしたち
に施設へ戻れといえるもんならいってみな」
 何も言い返すことはできなかった。彼女達の運命を知ってしまっ
た私には、すでにかざすべき大儀はない。
「いいや、きみたちは施設に戻るべきだね。なんだったら司法神殿
の方で引き取ってもいい」
 緊張感を一切含まない声が広間に響いた。ルースだ。やはりここ
に来ていたのだ。
「ルース、どこに?」
 何人かの子供たちが、仲間のひとりを見つめていた。擦り切れた
服を来て、頭には大きな帽子をかぶっている。帽子のつばを片手で
持ちあげた。
「やあ」
 ルース=リンクス神官長その人だった。
「木を隠すには森の中ってね。僕の顔と体格なら、子供たちに紛れ
るのが一番さ」
 上に着ていたものを脱ぐと、中から白い神官服が出てきた。
「おい、小さいの」
 わたしに比べればそう大きくもないレックスが、ルースをにらみ
つけた。
「今の話を聞いてなかったのか? あんなとこまっぴらなんだよ」
 ルースがレックスに向き直った。
「じゃ、きみたちこれからどうするの? ずっと盗賊を続けていく
気かい?」
「悪いかよ。あたしたちはもう世の中が信じられないんだ。あんな
目にあわせてくれた大人たちに仕返ししながら生きていくさ」
「自分がひどい目にあわされたからって、無関係な他人に迷惑をか
けてもかまわないという法はないよ。それが通ったら世の中悪くな
る一方だ」
「もらえるなら説教よりお金の方がありがたいんだけどねえ」
「じゃ、現実的な話をしようか。もうじき災害の後片付けも一段落
つく。そうなったら今度は治安の方に目がむけられるよ。火事場泥
棒みたいな連中は真っ先に票的になる」
 ルースは子供たちを見回した。
「レックス、きみはいいさ。帝都正規軍並みの訓練を受けたマイラ
とも互角以上に渡り合えるからね。ティシュトリヤの田舎軍隊を出
し抜くぐらいなら軽いだろう。でも、他の子はそうはいかない。災
害のどさくさに盗みを働いたことがわかったらちょっとやそっとじ
ゃすまないよ。へたをすれば一生強制労働だ」
 子供たちのあいだにざわめきが広がった。
「でも、今だったらまだ大丈夫だ。さっきの事情もあるし、とりあ
えず子供だけで生きるためということで、そう罪は重くならない。
僕も口添えするよ。それに」
 ルースがにっこり笑った。
「施設の人も、さっきのやつ以外はそんなひどい人たちばかりじゃ
なかっただろう?」
 同意を求めるようにプロトを見た。
「う、うん」
 プロトがうなずいた。
「最初にあったおじさんは、きみたちは今日まで何も食べてなかっ
たんだろう、おじさんは昨日も食べたから大丈夫だよって、自分の
分の食事まで僕たちにくれた」
「あたしも知らないおばさんから服とお菓子をもらったわ」
 ケイラも思い出しながら話す。
「おじさんやおばさんが夜僕を抱いて寝てくれたよ」
 ほかの子供たちも自分たちが助けられたときの話を始めた。
「そうだろう。悪いやつは死んじゃったし、今すなおに謝ればみん
な許してくれるよ」
「よおし、わかった」
 今まで黙って聞いていたレックスが言った。
「おまえたち、この子たちを連れてここを出て行け。あたしは人を
殺してるし、盗みの指揮をとってたからどうせただじゃすまない。
ここで戦えるだけ戦うよ。そうすりゃあたし一人が悪かった、です
む」
 とたんに子供たちがレックスにすがりついた。
「やだ、レックスと一緒じゃないなら、ここにいる」
「僕たちだってレックスといっしょに悪いことしたもん。レックス
といっしょに戦う」
「ばか、あたしといると無事じゃすまないって言ってるんだよ」
「でもレックスといっしょにいたい」
「あんたたち」
 レックスが鋭い声を出した。子供達が首をすくめた。
「今までだってあたしの言うとおりにしてればうまくいっただろ。
おとなしく言うことを聞きなさい」
「でも……」
「いい子だから、あたしを困らせないで」
 レックスが子供たちをにらみながら、わたしたちの方を指差した。
子供たちがしぶしぶとこっちに動きだした。プロトとケイラがわた
しの腕をつかんだ。
「おばちゃん、お願い、レックスを助けて。全部僕たちのためにや
ったことなんだ」
「レックスが保護官に襲われたのだって、あたしを助けるためだっ
たのよ」
「え〜と、きみたち」
 ルースが二人に話しかけた。
「いちおう僕の方がマイラより偉いんだけど」
「あ、ごめんなさい」
 素直に謝る二人に、ルースが微笑む。
「大丈夫。僕に任せておきな。それに、あの子には個人的に興味も
あるし」
「きみ、レックス姉ちゃんみたいなのがタイプなの?」
「けっこう気が強いわよ。尻にしかれるかも」
 プロトとケイラのませた口調に、わたしは吹きだした。
「そうじゃなくて、あの子が普通の子供と違ってるから、いろいろ
調べたいってこと」
「あたしはそんなのごめんだよ」
 レックスがルースをにらみつけた。
「そんなこと考えてるなら、ここでおまえを殺してやる」
 レックスの瞳がまた光を帯びた。今度は気のせいではない。わた
しは鉄杖を構えた。
「マイラ、どいていろ」
 ルースがわたしを制して前に出た。
「きみも気付いてるだろう。レックスの力はきみに取り押さえられ
たときに増大している。おそらくは力に目覚めたときと同じ状況の
ためにね。いくら足一本使えないといっても、もうきみの手におえ
る相手じゃないよ」
「おい、おばさん」
 ルースと対峙しているレックスが、わたしに呼びかけた。
「その子たちを外に連れてっとくれ。こいつが血まみれになるのを
見せたくない」
「言うねえ。まあ確かに巻き添えが恐い。マイラ、その子たちを安
全な場所へ」
 レックスに対して特に構える様子も見せずにルースが命じた。
「はい。でも、ルース一人では……」
「不意を突いて一回押さえこんだぐらいでいい気になるんじゃない
よ」
 レックスが腕を動かした。風の音が迫った。飛礫だ。鉄杖を持ち
上げて弾いた直後、胸の装甲にに当たるものがあった。
「どうだい、器用なもんだろ」
 レックスが不敵に笑う。飛んでいるレックスに向けて放ったわた
しの飛礫の投げ方だった。一度見ただけで覚えてしまったのだ。
「わかったろ、少しはできると認めるけど、もうおばさんの出る幕
じゃないのさ」
「そういう事だ、マイラ」
 ルースも言う。
「だからこそ、この子を調べてみたくなったんだけどね」
「まだ言うか、こいつ」
 じりじりと間合いを詰める二人を残して、わたしは子供たちを今
来た地下通路の方に誘導した。みんな後ろが気になるようだったが、
案外おとなしく進んでくれた。
 全員を地上に上げ、さっきの市場の元締め・ディップに手短かに
事情を話して子供たちを頼んだ。むろん、『飛魚』の正体や子供た
ちの犯罪については話をぼかしてある。
「おばちゃんはどうするの?」
 プロトが尋ねた。
「わたしはあそこに戻ります」
「僕たちも行く」
 プロトとケイラが付いてこようとした。
「いけません、危険です」
「おばちゃんだって危ないんだろ」
 たしかにレックスを組み敷いたときに感じたあの殺気はただごと
ではなかった。それにあの学習能力。
「わたしはいざとなれば自分を守るぐらいはできます。でも、あな
たたちはそうはいかないでしょう?」
「ところが、レックスたちがあそこで闘ってるんなら、安全な場所
があるんだ」
「安全な場所? あそこには隠れられそうなところはありませんで
したよ」
「いいから、付いてきなって」
「お願い、おばちゃん。レックスがこんなことになったのはあたし
たちのせいなの。せめて見守らせて」
 ケイラの目には涙が浮かんでいた。本気でレックスのことを心配
しているようだ。
「ほんとに安全なんでしょうね、プロト?」
「まかしとき」
 自信たっぷりなプロトに道案内を頼んで、わたしたちは地下に戻
った。




前のメッセージ 次のメッセージ 
「連載」一覧 松虫の作品 松虫のホームページ
修正・削除する         


オプション検索 利用者登録 アドレス・ハンドル変更
TOP PAGE