#4675/7701 連載
★タイトル (AZA ) 96/ 4/21 20:15 (181)
推理小説的読書法「レディア・サーガ」1 永山
★内容
第二回目は、悠歩さんの連載作品「レディア・サーガ」を取り上げさせても
らいました。まだ完結していないので、あとでひっくり返されるようなことが
あるかもしれませんが、とりあえず、やってみます。
主に、視点に注意して読みました。佐野洋が「推理日記」(講談社文庫)で
主張する「一シーン一視点の原則」を課した場合、不自然と思われる箇所を、
指摘するつもり……でしたが、本作にそのような箇所はほとんど見当たりませ
んでした。(^^;)
ちなみに、視点と知覚描写の関係については、どこまで厳密にチェックすべ
きか、私も迷っていますので、今回、一ヶ所だけ例示の意味で指摘するにとど
めておきます。
漢字や言い回しについては個性だと思っていますので、なるべく指摘しませ
んが、例外もたまにはあります。また、ダウンロード後の都合で、改行位置等
が変わっている箇所があるかと思いますが、ご了承ください。
なお、指摘箇所を手っ取り早く読もうとする場合は、↑を検索してください。
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>#4611/4612 連載
★タイトル (RAD71224) 96/ 1/23 9:13 (150)
レディア・サーガ −序章− 悠歩
★内容
今宵は星一つ、天に輝いてはいない。
ただ黒く分厚い雲だけが天を覆い尽くし、風に流されて行く。
「いやな雲だなあ。これは一雨来るかも知れんな」
蒸し暑さに、男は鎧の止め金を外しながら呟いた。
「おい、まだ任務は終わっていないんだぞ。鎧をちゃんとしろ」
生真面目な相棒が注意を促す。
↑相棒が生真面目なのは台詞で分かるから、「生真面目な相棒」という直接
の形容より、「相棒は生真面目にも、注意を促した」等の表現がいいかも。
「なあに、何も起きやしないさ。今の所、周辺諸国との関係は極めて良好。ここ
三百年、このレディアに攻め込んだ国はない。第一、どこかの国が馬鹿な考えを
起こしてせめて来ようとも、この国の無敵の軍隊に適うはずもない」
↑説明調
「だからと言って、我々が警備の手を抜いていい理由にはならんぞ。こうした普
段からの警戒こそが、国を支えているのだ」
「しかしなあ、こうして何事も起きず、一晩を市城の前で過ごすのも退屈でいけ
ねえ」
「まあ、そう言うな。これでも飲んでもうひとがんばりしろ」
相棒が差し出した生温い水蜜を男は手で断る。
「俺はこっちがいいや」
そう言って腰に下げた水筒の酒をひと飲みする。
「おい、お前」
「堅いこと言うな。なあ相棒」
「ちっ、仕方のない奴だ」
相棒は半ば呆れ、自分の持ち場に戻って立ち番を続ける。
男は再び酒を口に含むと空を見上げた。
「ああ、本当にいやな雲だなあ」
「おい、あれは何だ」
持ち場に戻った筈の相棒が怪訝な声を上げる。
「んー、敵でも攻めて来たのかあ」
男は相棒の方へ振り向き、そしてその視線の先を追う。
始めは何が有ったのか分からなかった。しかし目を凝らして見ると仄かに明か
↑「初め」では? 自信ないですけど……。
りが見えた。
そして次第にその光度が増していく。それは街の灯火などでは無かった。
黒い雲と混じり、ハッキリとしなかったが煙も立ち上っている。
一つ、二つ。五つ、六つ。轟音と共に火の手が増えていく。
↑1,2,から5,6に飛ぶのは、面白い使い方だと感じました。
「か、火事か」
カランと音を立てて男の手から水筒が落ちる。
まだいくらも飲んでいない酒が足下に流れた。
「ただの火事じゃないぞ、あれは!!」
「馬鹿な………敵襲、いや、しかし………あそこは」
「誰か! 誰か!」
どおんと言う巨大な音に飛び起きた老人は、すぐさま状況を知ろうと人を呼ん
だ。「はい、司祭様」
待たずして若者が現れる。
「あの音は何だ。何があったのだ」
老人は正装では無いが司祭のローブの袖に手を通しながら若者に尋ねる。
その間にも二度轟音が響き、同時に部屋の中がぱっと明るくなる。
「分かりません、今確認しておりますが………何者かが天蠍宮に火を放った様で
す」
「なんと! 一体、誰がそんな事を。謀反か? いや、このレディアでその様な
事をする者がおる筈は無い………では敵襲? いやいや、それこそ絶対にあり得
る訳がない」
誰に問うでも無く、老人は自問自答を繰り返す。
「司祭様! バロウ司祭様!」
そこへまた新たな若者が血相を変えて飛び込んできた。
「どうした? 何か分かったのか」
「そ、それが………天蠍宮に続き、白羊宮、金牛宮、双子宮………他の十一宮の
全てより炎が上がっています! この宝瓶宮の守備兵もまた、正体不明の敵と交
戦中!」
「むう………一体何者が? 謀反なのか。」
「いえ」
「ならば敵襲か? だが十二宮全てに火を放つほどの敵が、こうも易々と入り込
める訳がない。いや、それ以前にそれほどの軍隊がレディアに近づいていたのな
ら、とうの昔にその動きが知れているはず………それに、何故十二宮を」
レディアの守りは鉄壁を誇っている。市街は三重の壁に囲まれ、常に最高の兵
↑
冒頭シーンと矛盾。あれが最高の兵?
たちによって守られている。
また近隣諸国には大使を派遣しており、各国の動きは政治経済から、主だった
人物の晩の献立に至るまで、逐一レディアに報告されている。
レディアに通じる全ての街道には警備兵を配してある。
他国の軍の如何なる動きも逐一報告され、これらの目を逃れる事は出来ないは
ずである。
「で、陛下は………城は無事なのか?」
「か、確認は取れませんが、今の所火の手は見られません………」
答え終わると同時に、若者はその場に倒れ込んだ。初めに司祭の元に駆けつけ
た若者もそれに続く様に、地に伏した。
「どうした、二人とも?」
司祭は何かを感じとり、倒れた二人をその場に残して駆け出した。
高齢にも関わらず、バロウ司祭の動きは、実に機敏であった。
「市内を混乱させるのが目的ならば、まずは城下に火を放つが常道。もし意図的
に十二宮を狙ったので有れば………」
その考えは余りにも、非現実的である様に思われた。如何にレディアを凌駕せ
んとする者があったとしても、十二宮を攻撃することは絶対に考えられない。
何故なら十二宮の破壊はレディアのみならず、破壊者自らの身の破滅に繋がる
からである。この世に生きる者であれば、幼子までもが知っている事である。
その事を承知した上で、なおも十二宮に攻撃を加える者が在るとしたら………
バロウ司祭の目指す先は、この宝瓶宮の中心に位置する祭壇だった。
途中、誰とも会う事は無かった。皆、正体不明の敵から宝瓶宮を守るため戦い
に出ているのであろうか。或いは先程の二人の様に、突然に倒れているのであろ
うか。
次第に外から聞こえる剣戟らしい音も小さくなって行く。
「むう、これは」
祭壇の間に入ったバロウ司祭は、呻く様に声を発した。
祭壇中央に奉られたゼウナス神の像に、幾筋も亀裂が入り、子どもの背ほどあ
る台座からは、黒い煙がもうもうと立ちこめていた。それはバロウ司祭が危惧し
ていた、最も不吉な事態が現実に成ろうとしている前兆であった。
「くっ、二千年もの間守り続けた封印が!」
司祭はすぐさま右手でゼウナス神のシンボルの形を、空に描く。そして両の手
を組み、一心に念じ始めた。己の術を以て、封印が解けるのを防ごうというので
ある。
「ふふふ………老い耄れが足掻きよる」
何処からか声がした。
いや、声と言うよりも音と表現した方が適切かも知れない。石と石を擦りあわ
せた様な、きいきいとした音が人の言語を成しているようだった。
バロウ司祭は七十年余りの生涯の中で、これほど不快な声を聴くのは初めてだ
った。
「何者!?」
司祭が問うとほぼ同時に、ゼウナス像の左側の空間に人らしき姿が浮かび上が
った。
黒いフードと一体になったマントに身を包んだ影が、空に浮かびこちらを見て
いる。いや、見ている様だった。
フードの中にある顔は影となり、司祭からは見て取ることが出来なかったのだ。
「既に十一の封印は解かれた」
今度は野太い声がして、ゼウナス像右側の空間に巨大な影が現れた。
「お主ら、魔導の者か? ここに封印されし者は、お主らの手に負えるものでは
ないぞ。自らを破滅させるだけ。早々に立ち去るがよい」
「我は己の主を、戒めより解放せねばならぬ」
今度の声は、明らかに女のものであった。ゼウナス像後方に現れた、鋭い眼差
しを持つ女が発したのであろう。
「主だと………」
司祭はもはや、事態が絶望的で在ることを悟った。
解け掛けた封印を、再び掛け直すだけでも自信が無かったが、現れた三人は何
れも並外れた魔導の力を持っているのが判る。バロウ司祭一人では太刀打ちする
のは、とても不可能であろう。
「きゃつを主と呼ぶ、お主らは」
「我ら、破滅の王の下僕」
声と同時にバロウ司祭は、その後方より放たれた炎で身を焼かれるの知った。
四人は、消し炭のようになった司祭の亡骸には何の関心も示す事はなかった。
「始めるぞ」
最後に現れた男は長い黒髪を靡かせながら、祭壇に歩み寄ると他の三人を促し
た。
「貴様が指図をするか」
フードの男が不満を漏らす。もっとも、その声とも音ともつかない言葉から、
感情を推し量ることは困難で在るが。
「下らぬ事を争っている時ではない」
まるで感情を感じさせない声で、銀髪の女が言った。
「だ、そうだ。とっとと済ませようじゃないか」
他の者の倍の背丈を持つ男が、笑いをかみ殺す様にして言った。
四人は各々祭壇の四方を取り囲み、何かを祈り始めた。
「主よ、我らが主よ、我ら四人、主の導きによりここに集いました。主を繋ぐ十
二の封印は全て無力化致しました。主よ、お目覚め下さい。そして怨敵ゼウナス
の末裔共に恐怖を与えて下さい」
四人は両の手を空にかざした。するとゼウナス像から立ちこめていた黒煙が、
しゅうしゅうと音を変え、勢いを増す。
そして煙の勢いに負けたゼウナス像は、遂に粉々に砕け飛んだ。
「おお! 主よ!!」
砕け散った祭壇の中より、膝を抱えたミイラが浮かび上がって来る。
「主よ、我らが破滅の王よ!」
ミイラは生きていた。
その証に四人の声に答える様に、ゆっくりと目を開いた。
レディアに封印されていた邪神が、魔導を使う四人の者に解放されて17年が
過ぎた。
今や世界は、邪神と四人の魔導の者によってレディアを中心に暗黒に染まり、
何処より現れた魔物たちが闊歩するようになっていた。