AWC 推理小説的読書法「パントマイム・ダンサーズ」1 永山


        
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★タイトル (AZA     )  96/ 3/22   2:45  (200)
推理小説的読書法「パントマイム・ダンサーズ」1 永山
★内容
 主に、視点に注意して読みました。佐野洋が「推理日記」(講談社文庫)で
主張する「一シーン一視点の原則」を課した場合、不自然と思われる箇所を指
摘したつもり。「以降、**の視点に戻っている」という趣旨の文を省略した
箇所が多々あります(同じことばかりでうるさくなると判断したため)。
 漢字や言い回しについては個性だと思っていますので、なるべく指摘しませ
んが、例外もたまにはあります(笑)。また、読み手の都合で、改行位置等が
変わっていることがあるかと思います。ご了承ください。
 なお、指摘箇所を手っ取り早く読もうとする場合は、↑を検索してください。

パントマイム・ダンサーズ 00-00       青木無常
00-00 


           プロローグ ポイント ブランク

              PROLOGUE:POINT BLANK


 溶鉱炉の内部、とでもいえばいいのか。
 そこはまるで、荒らぶる神の怒りの発露ででもあるかのように、赤く、毒々
しく、凶暴に猛り狂い、うねり逆巻いていた。
 音はない。
 くふう、とタケルは息をつき、四囲をつつむ獰猛な世界にふさわしい、炎の
ような視線で、うねくる朱の闇を睨めつけた。
 灼熱し、どろどろにとろけた、刻々と変化しながら渦をまく山稜にも谷にも
火の河にも、おのれ以外の何者の姿もみとめられない。もとより――常なる人
の、訪なうこと能わぬ異界とはいえ。
 ふう、う、と、もう一度、喉ふるわせる。獲物を求めて怒り狂う獣のように。
 ぐねりと足下の赤い足場がうごめき、ゆらめきながらタケルを運ぶ。渦を描
きながらこの大地は、上下の区別さえなく一時たりとも留まることがない。お
のれの位置が、さきほどまでの頭上へとうねくりながら移動していくにつれ、
視野にひろがる光景もまた軟質の泥沼を攪拌するように、変化していく。
 ふいにひくり、と頬がふるえた。
 瞬時、光が見えたのだ。
 うなりが野獣のように、タケルの喉をふるわせる。
 たぎる獰悪きわまる殺気の放射は、周囲の赤い怒りの空間を圧しのけるほど
強烈に、届けられた。
「ひ、ふ、み……」
 ゆっくりと口にし、朱い舌で唇を右から、左へ。
 息を腹腔底深く吸いこみ……長く、長く吐きだす。
 目を閉じた。
 そのまま、荒れ狂う静寂のなかでタケルは深く、身を沈め――
 ハウ! と雄叫びが同時に三つ。
 あわせるように、三つのきらめきが頭上、右手、足下からのび上がった。
 がきん、と剣身がふれ合う音が耳ざわりに辺りをとよもし、奇怪な模様の貫
頭衣を着た、浅黒い肌の三人の闘士の肉体が交錯する。
 鉄の死線からわずかに身をそらしたタケルの体が、ひき絞られた弓のように
弾け飛んだ。
 おおおお!
 咆哮より速く、両の腕が突きあがり、逃げる闘士の強靱な肉体に、吸いこま
れるようにして叩きつけられた。
 胸から固まりを吐きだすような音を立てて、二つの褐色の肉体が弾け飛んだ。
 残りひとつは――さらに反撃に出る。
 弧を描く白刃の軌跡に朱線が疾りぬけ、タケルは跳びさがりざま、足を蹴あ
げた。
 当たらず、ざんばら髪の闘士はニイと口端ゆがめつつ、軽い後退から閃光の
ような突進へと、瞬時にその身をひるがえす。
 腹から胸先まで、切り裂かれた皮一枚から血がにじむのにはお構いなし、タ
ケルは後ずさりつつ息を吸い、肉塊のごとき感触の大地にぐい、と両の足を踏
んばった。
 はおお、と叫びもろとも突入してきた両刃の剣を、くいと首傾けてやりすご
し、掌底を突きだした。
 浅黒い顔が、裂けるような笑みをうかべた。
 突きは脾腹をかすめてかわされ、くり出された蛮刀は後退のいきおいのまま、
ノコギリを引くようにタケルの喉へと接近した。
「くお」
 上体を不自然な形にねじりながらそれを避け、いきおいを借りて足を跳ねあ
げる。
 嘲笑はそのまま、身をそらして弧襲をやり過ごし、その間に剣は、くるりと
ひるがえって急降下した。タケルはだん、と両足を蹴上げて後転し、かろうじ
て斬撃から逃れる。
 が、それを追うようにして残り二人の剣が、相ついで頭上から襲いかかった。
 奥歯を噛みしめつつ、紙一重の差で連撃をかわし、ころがりつづけた。ただ
でさえ上下がめちゃめちゃな異空間で、すでに感覚はいいように擾乱され、自
分と三人の敵との、空間的な位置関係などとうに意識の外だ。このままではや
られる。
「かっ」
 下腹から声をしぼり出しつつ後退をやめ、ぶざまに倒れこむ危険をおかして、
タケルは矢庭に前方へと猛進した。
 二本の剣がふり降ろされるのをかいくぐり、三人目の足もとに頭から突っこ
んだ。
 嘲弄の顔が困惑へと変わるいとまもなく、闇雲な強襲を足下に受けたざんば
ら髪の闘士は、タケルごと軟質の大地にダンゴになってころがった。
 剣で、しがみつく肉体に打撃を加えようと、反射的にふりあげた。
               ↑闘士の心理に入っている
 それが間違いだった。
 敵の腰にすがりついたままタケルはいきおいよく回転し、
「がうっ……ぎあああ!」
 苦鳴とともに剣もろとも、闘士の腕がみずからの背中につぶされ、奇怪な角
度におれ曲がる。
 痛撃に、えびのように男の身体が折れはじけ、タケルをほうり出した。
 だん、と投げ出されざま後頭部をうち、タケルは瞬時、意識をうしなう。
 鼻から脳天へと血臭がつきぬけ、視界を火花が明滅した。
 首をふり払い、目をむく。
 やすりにかけられたように朦朧と旋回する視野に、のたうちまわる闘士と、
そして怒りに燃えて突進してくる二人の姿とを、かろうじてとらえた。
 立ちあがる。
 痙攣する足に加え、振動する脳もまた足もとを定めようとせず、ぐらぐらと
よろめいた。
 舌うちひとつ、バランスを回復させることを瞬時にあきらめて敵の侵入方向
のみを見定め――ひゅっ、と息を吸いこんだ。
 左右からそれぞれ別の角度で剣がふり降ろされるのへ、みずから倒れこむ。
――二つのみぞおち目がけて、両の手刀を突き出しながら。
 手ごたえ。
 と同時に、左脚に衝撃。
 中途半端な角度で入った剣は、骨にかえされ地に落ちた。だが、切り裂かれ
た肉が痛みを主張することに変わりはない。
 ついで、右肩にもう一人の肉体がどん、といきおいのまま倒れこんでくる。
「邪魔だ」
 苦々しく吐き捨てながら、右手をみぞおちにずぶりとくいこませた敵の体を
蹴りつけ、放り出す。どば、と血しぶきと内臓がまき散らされる間に、左手の
もう一人の方からもめり込んだ手刀をぬき出した。
 途端、左拳から激痛が脳天に突きぬけた。
 うめきながら右手をそえる。痛みの中心は、左手中指の付け根――脱臼か骨
折か、いずれにしろ左手は武器としてはもう使えない。
 歯を食いしばりつつ涙のにじんだ目をむき――右肩を抑えつつ、憎悪にみち
た眼でタケルをにらみつけながら、最後のひとりが立ちあがりつつあるのを確
認する。
 ↑この文章、一読しただけでは理解しにくいと感じたのですが……
 褐色の闘士は歯をむき出しながら周囲に目を走らせ、手近に落ちている剣を
ひろいあげた。
 肩の付け根をおさえ、首をひねり、ついで右腕をぶん、と一度、さらに二度、
三度とふりまわした後、男は剣を右手に持ちかえながらニイと笑った。どうや
ら利き腕の動きに支障はないらしい。
             ↑度々、闘士の心理に立ち入りながら、ここでは
             闘士の身体状態を推測している
 タケルは苦々しく奥歯をきしり――だらりと、左腕を放り出しつつ腰を落と
     ↑「苦々しく」、十四行前に使ったばかり。これを頻出と見なすか
     どうか……?
して身がまえる。
 数刻、うねる大地に二体の屍が横たわるのをかたわらに、二匹の野獣はにら
みあい――
 同時にたん、と地を蹴った。
 ひらめきが頬をかすめると同時にタケルは、身をひねりざま倒れこみ、かけ
抜ける敵の足をわきに抱えこんだ。
 直進は回転の力を加えられて大きく方向をねじ曲げられ、褐色の闘士は身を
ひねられながら地に叩きつけられた。
 だん、と柔らかい衝撃を受けて瞬時、意識に混乱が生じた。すぐに我にかえ
り、回避行動に移ろうとする。が、その間もなくおのれの右腕が、ぐいとひね
られるのを意識した。
 ↑闘士の心理
 骨の砕ける音は、絶叫にかき消されたか。
 背中に加えられた重量が退いた途端、ざんばら髪の闘士は絞りだすような悲
鳴をあげ、のたうちまわった。
 倒れこんだ衝撃で脳までしびれそうな激痛を発する左拳をかばいながら数刻、
タケルは転げまわる敵の姿を眺めおろしていた。
 が、やがてその動作が緩慢になり、そして絶叫がすすり泣きに変わったころ、
足もとに放り出された剣へと、手をのばした。
 浅黒い顔が、涙と不安をその目にたたえつつ、タケルの挙動を見守った。
                        闘士の視点↑
 乱れる息のままタケルは、抜き身を手にして男に歩をよせる。
 哀願をこめて弱々しく首を左右にふる男を、冷たく眺めおろした。
 横むきに地に伏した姿勢のまま男は、腰と足でいざり、死神の鎌から逃れよ
うと絶望的な逃走を試みた。
 タケルは、表情を凍らせたまま無言で首を左右にふり――
 銀の軌跡が、稲光のごとく弧を描いた。
 褐色の肌は頸部で白刃に分断され――男は双の瞳に憎悪と、そして哀願とを
たたえたまま、息絶えた。
 うう、と喉を鳴らしながら左拳に手をそえてタケルは腰をおろし、目の端に
涙をにじませたまま、荒い息をつきつつ周囲に目をやった。
 怒り狂う渦流はそのまま、世界は静寂をとり戻していた。
 苦しげに絞り出される熱い呼気のみが、いつまでも一帯を占めているだけだ
った。
 が――
 その呼気が、ようやくのことでおさまりかけたとき。
 ――ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……
……
 と、はるか彼方から、獣の遠吠えのような声が、とどろいた。
 おちつきかけていたタケルの顔が、その声を耳にした瞬間、泣きそうなまで
に情けなげに、ひき歪んだ。
「犬吠え……トアラ……?」
 食いしばった歯奥からしぼり出されたつぶやきも、どこか弱々しく。
 そのまましばし、声の聞こえてきた方角に顔傾けていた。
 ――ぉぉ、
 ――ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……
……
 もう一度、咆哮がひびきわたった。近づいている。
 はああああと顔をくしゃくしゃにしながらタケルは、ため息とも泣き声とも
つかぬ声を出し――ふっ、と息をつくと、立ちあがった。
 紅のはるかな闇を透かし見る。
 かすかな、白い光を見た。
 光の中心に、人影がいる。なめらかな曲線を描いたシルエットは、明らかに
女のそれだ。だが、その歩調はまるで、進軍する兵士のように力にみちて、威
嚇的だった。
 そしてトアラは、その歩調にふさわしく強靱で、危険な相手であることをタ
ケルは知っていた。
 ずきずきと痛みのパルスを発する左拳を目の前に持ちあげ、近づく新たなる
敵にちらりと目をやり、首を左右にふる。
 そしてふと、頭上に目をやり、
「跳べるか?」
 と口中でつぶやいた。
 ふたたび犬吠えが辺りをどよめかせた。
 女は立ちどまり、タケルに向かって、両の拳を威嚇的に突き上げた。
 胸をそらし、腹の底から咆哮をとどろかせる。
 間違いなく、獲物を追いつめたことに気づいている。
「跳ぶしかねえ、か」
 短くつぶやき、悲愴な決意にみちた目をふたたび、頭上にすえた。
 そして不意に瞑目し――
 そのまま数瞬、カッと目を見ひらいた。
 闇が、ゆらめいた。




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