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★タイトル (QFM ) 95/ 8/24 14:48 ( 75)
「飛龍イオリス」1−3 坂東利悠紀
★内容
「こいつだ。ネルが拾った」
笑いさざめきながら出ていった踊り子たちをぼんやり眺めていた俺は、唐
突なジェフの声に振り向くと、突然、前触れもなく頭蓋骨をブチ割られたか
と思うようなショックに見舞われた。
「に、にーちゃん!?」
間違いない。
あの形のいい灰色の角の生えた、緩やかに波打つ青い髪に、早摘みの砂糖
苔みたいに甘さと渋さが同居したような美貌・・・・。
まさしくにーちゃんだ。三年前、掟を破って出ていった俺の兄貴分に違い
ない!
「にーちゃん、にーちゃんか!?」
「ルゥジィ、おまえ・・・・」
「なんだ。アーク、こいつと知り合いか」
俺とにーちゃんのやり取りを驚いたように眺めていたジェフが、俺の複雑
な心境をよそに呑気な声で言うと、にーちゃんは「そうだ」と、呆れたよう
な溜め息と共に言いながら腕組みをすると、船舷に寄りかかった。
「だったら話は早ぇ。知り合いなんならこの坊主を・・・・」
「賛成は出来んな」
「にーちゃん、俺は・・・・」
「この艦に乗って何をするつもりでいるんだ?」
静かな声だが、にーちゃんの言葉には得も言われぬ迫力があった。
「外へ行ってみたいだの何だのと、青臭い好奇心だけで言うのならやめてお
け。俺たちの生き方はおまえらが考えているほど甘くはない」
「違う!!」
俺は夢中で叫んだ。確かに、好奇心だけで艦に乗りたがってる奴は山ほど
いる。だけど・・・・。
「違う。俺はそんなんじゃないんだ! 俺は・・・・」
にーちゃんはゆっくり頭を振ると、物凄く深い溜め息をついた。
「フィロル・・・・か?」
にーちゃんは相変わらず冷たい声で尋問すると、強く、はっきりと頷いた
俺に、切れ長の冷たく澄んだ目で、哀れむような視線を向けた。
「そうか・・・・。諦めろって方が無理かも知れんな。だが、あれから十年経っ
てる。相手が山賊なら殺されている確率のほうが高い」
「それならそれで仇を取ってやる! それに奴らは山賊なんかじゃない。俺、
見たんだ! 奴らが持ってたのはTDライフルだったんだ。奴らは・・・・!」
「早まるな。もう一度考えろ」
「にーちゃん、俺はもう十年待ったんだ! これ以上待たなきゃならないん
じゃ、俺、気が狂っちまうよ!」
「・・・・・・・・」
にーちゃんは答えず、腕組みして船舷に寄りかかったまま静かに目を閉じ
ると、暫くの間、じーっと黙っていた。が、意を決したように俺を見据える
と、一言言った。
「判った。ただし、後悔はするなよ。・・・・ジェフ!」
「おぅさ」
さつきから黙って俺たちのやり取りを聞いていたジェフは、待ってました
とばかりに単車に飛び乗り、豪快に吹かすと、俺を振り返った。
「来いよ。ルゥジィ!」
俺は何が何だか全然状況の把握が出来なかったが、とにかく単車に乗ると、
スロットルをブチ開けてジェフを追った。
華やかな店の灯りで縁取られた通りを一瞬のうちに突っ切ると、同時に後
ろからジェフとどっこいの加速で近付いてきたハロゲンライトの光の輪が、
俺をブチ抜いてジェフと並んだ。にーちゃんだ。
「・・・・に見つかるとヤバいな」
「今夜のうちに仕上がるか?」
「難しいな」
にーちゃんとジェフの訳の判らない会話が続く。黙ってついていこうと思
った俺も、さすがに不安になってきた。このままじゃ谷に出ちまうじゃない
か。
「にーちゃん、どこいくんだよ。そっちは・・・・」
「艦だ」
「ふ、艦って、リュンクスじゃねーのかよ!」
だが、答えはジェフとの訳の判らない会話に横取りされてしまった。
「三日以上掛かるようなら、考え直す必要があるな」
「どうかな。見てねーからどうにも・・・・」
「にーちゃん、一体どこ行くんだよ!」
「艦だ。おまえ、磁力工作機は使えるか?」
「使えるけど、なんで!」
「そこの谷だ」
と、にーちゃんが言った瞬間、俺は唐突に地面の裂け目に放り出された。
「うわああぁぁぁっ!!」
話に夢中で、いつの間にか村外れの谷へ来ていたのに気付かなかったんだ。
俺は慌ててホバリングのレバーを引くと、軽い溜め息をついてから、遥か
下のにーちゃんたちを追う覚悟を決めた。
だけど、こンなところに停泊所なんて、あったっけ・・・・?